第29話 ゲームオーバーと悪魔のコンティニュー
「いたぞ!! ここだ!!」
強烈なサーチライトの光が、泥だらけの空き地に突き刺さった。
視界が真っ白に染まり、俺は両手で顔を覆いながら「ヒィッ!」と無様な悲鳴を上げた。
「動くな! 逃げたら容赦しないぞ!」
怒号と共に、黒服の男たちが一斉にフェンスを乗り越えてくる。
C子の親父が差し向けた私兵たちだ。
それに遅れて、パトカーのサイレンがすぐ真横で止まり、制服姿の警察官たちも雪崩れ込んできた。
「谷口幹夫だな! 署まで同行してもらうぞ!」
屈強な警察官に両腕を乱暴に掴まれ、泥水の中から強引に引きずり起こされる。
抵抗する気力なんて残っていなかった。
全身の骨が軋み、裸足の足から血が滴り落ちる。
手首に冷たく重い金属がガチャリと食い込んだ瞬間、俺の華麗なるエリート人生は完全に終焉を迎えた。
(終わった……何もかも……)
フラッシュの光が瞬く。
いつの間にか集まってきた野次馬たちが、泥まみれで手錠をかけられた俺の姿をスマホで撮影していた。
明日の朝には、全国のニュースとネットに俺の本名とこの惨めな姿が晒されるだろう。もう二度と、這い上がることはできない。
その時だ。 俺の足元の泥水の中に落ちていたスマホの画面が、不気味に発光した。 バッテリーはとっくに切れていたはずなのに。
画面には、画面を埋め尽くすほど巨大な『黒い目玉』が、泥だらけの俺を見上げてニチャアッと笑っていた。
【 読者に報告:ターゲットの完全敗北を確認。これにてゲームオーバーです。 】
「……あ、あぁ……」
俺の口から、掠れた声が漏れる。全ては、このクソアプリのせいだ。こいつさえいなければ。
【 特別アンケート:読者の皆様、ターゲットは『もし最初からやり直せるなら』と後悔しているようです。 】
【 彼に『現在の記憶を引き継いだ状態でのニューゲーム(強くてニューゲーム)』の権利を与えますか? 】
画面の中央に、YESとNOの投票ゲージが現れた。
そして、数万人の読者の悪意が結集したかのように、一瞬で『YES』が100%に振り切れた。
【 読者の総意により、コンティニュー権が発行されました。 】
【 ターゲット、泥水に顔を押し付けて『YES』のボタンを押してください。 】
「な……っ!?」
俺は息を呑んだ。 やり直せる?
あのタワマンを夢見た日々からではなく、一番最初の『ふりだし』から?
しかも、この地獄の記憶と、アプリの罠の知識をすべて持ったまま?
(……勝てる!!)
絶望で真っ暗だった俺の脳内に、狂ったような歓喜の光が差し込んだ。
そうだ、記憶があるなら、もう絶対にボロは出さない!
アプリに目をつけられる前にスマホを捨てて、今度こそ完璧に女たちから金を搾り取ってやる!!
「おい、何を暴れている! 大人しく歩け!」
「離せッ! 俺はやり直すんだ!! 俺は天才なんだよォォッ!!」
警察官に押さえつけられながら、俺は狂ったように身をよじり、地面に落ちたスマホに向かって顔面からダイブした。
泥水にまみれた鼻先で、画面に表示された血のように赤い『YES』のボタンを、力一杯押し込む。
【 コンティニューを受け付けました。 】
【 それではターゲット、いってらっしゃいませ。 】
その無慈悲なメッセージを最後に、世界が強烈な白い光に包み込まれた。
警察の怒号も、手錠の冷たさも、泥の悪臭も、すべてが光の中に溶けて消えていく。
(よっしゃああああっ!! 今度こそ、俺は真のエリート勝ち組になってやる!!)
俺は白い光の中で、勝利を確信して高笑いした。
続く




