第25話 2キロの欲望と破滅の音
「ハァッ、ハァッ……タクシー、早くタクシー……!」
俺はホテルのエントランスを飛び出し、タクシー乗り場へ向かって小走りで急いでいた。
胸に抱えた紙袋が、ズッシリと重い。現金2000万円。
重さにして約2キロ。
札束の角がペラペラの紙袋を内側から突き上げ、今にも破れそうなほどパツンパツンに膨らんでいる。
傍から見れば、スーツ姿で異様に膨らんだ紙袋を抱え、滝のように汗を流しながら周囲をギョロギョロと警戒している男。
不審者以外の何者でもない。
(落ち着け、俺。このままタクシーに乗って東京駅に行くだけだ。大丈夫だ、誰にもバレてねえ……)
だが、俺のポケットの中のスマホが、再び『ブルルルッ』と不吉な振動を始めた。
【 読者に報告:ターゲットは現在、強度が限界ギリギリの『紙袋』に2000万円を入れて走っています。 】
【 読者の皆様、強火のローストを開始します。 】
「……ひっ!?」
画面を見た瞬間、スマホのスピーカーが勝手にオンになり、最大音量で『パトカーのサイレン音』が鳴り響いた。
ウゥゥゥーーーッ!! ウゥゥゥーーーッ!!
「うわあああっ!?」
ホテルの車寄せにいた客やベルボーイが一斉に俺の方を振り向く。
【 システム通知:ターゲットのスマホから、周囲のBluetoothスピーカー(タクシー乗り場の案内板など)をジャックしました。 】
『そこの不審な男! 紙袋の中身はなんだ!!』
タクシー乗り場のスピーカーから、警察官の怒鳴り声のような合成音声が大音量で響き渡った。
「ち、ちがっ……! これは俺の……俺の金だ!!」
完全にパニックに陥った俺は、スマホの音を消そうと、紙袋を片手で乱暴に持ち上げてしまった。 その瞬間。
――ビリッ。
紙袋の底が、2キロの札束の重さと俺の手汗に耐えきれず、無残に裂ける音がした。
「あっ……」
ドサササササササッ!!!
帯封で束ねられた2000万円の札束が、アスファルトの上に滝のように降り注いだ。
見事なまでの『現金』の山。
周囲の人間たちが、信じられないものを見る目で俺と札束の山を凝視している。
「あ、あああ……あぁぁぁぁぁ……ッ!」
俺は両膝をつき、アスファルトに散らばった札束を必死にかき集めようとした。
だが、サイレン音に気づいた本物の『巡回中の警察官』が、遠くからこちらへ走ってくるのが見えた。
スマホの画面が再び点滅する。
【 読者に報告:ターゲットの元へ警察官が到着するまで、残り10秒。 】
【 究極の二択です。愛する2000万円と心中するか、全てを捨ててドブネズミのように逃げ惑うか。さあ、選んでください! 】
「9……8……7……」
スマホのスピーカーから、無慈悲なカウントダウンの音声が響き始めた。
俺は、自分の欲望が詰まった2キロの札束の上で、ただただ白目を剥いて絶望するしかなかった。
続く




