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第24話 最後の大博打と重すぎる紙袋

(マズい、マズい、マズい……!!)


 俺はボロアパートの部屋で、爪を噛みながら部屋の中をウロウロと歩き回っていた。


 あの電光掲示板の事件から数日。


 幸い、俺の正体はギリギリC子にはバレていない。


 だが、あの『黒い目玉』のアプリが、いつまた俺の完璧な二重生活を壊しに来るか分からない。




「……潮時だな」


 万年床も、安物のテレビも、すべてリサイクル業者に叩き売って処分した。


 すっからかんになったボロアパートの部屋の中心で、俺は一人、ニヤリと笑った。


 大家には「田舎に帰る」と嘘をついて解約手続きを済ませ、底辺だった警備員のバイトも昨日でやめた。


 今の俺は、文字通り『身軽』だ。帰る場所も、縛られる仕事もない。


 あの『黒い目玉』のアプリがこれ以上俺の生活を嗅ぎ回る前に、この足立区から、いや東京から完全にトンズラしてやる。




 狙うのはもちろん、最強のATMであるC子だ。


 ちまちまと服や車を買わせるフェーズは終わった。


 最後に一番デカい『現金』を引っ張り、新しい名前で地方のタワマンに住むのだ。


 俺はC子をホテルのラウンジに呼び出し、これ以上ないほど深刻な、そして甘い声で囁いた。


「C子……実は、俺たちの将来のために、港区の最高級タワマンを見つけたんだ。でも、他に狙ってる客がいてね。今日中に『現金で2000万円』の手付金を用意できれば、絶対に俺たちのものになるんだけど…」


 俺はC子の手をギュッと握りしめた。


「俺の定期預金はすぐには解約できなくて……頼む。俺たちの愛の巣のために、君の力を貸してくれないか? もちろん、来週には必ず返すから!」


 息を吐くように嘘がスラスラと出てくる。


 我ながら天才的な詐欺師だ。


 C子は少し驚いた顔をした後、コクリと頷いた。


「……わかったわ。谷口さんと私の未来のためだもんね。ちょっと待ってて」




 数十分後。銀行から戻ってきたC子の手には、ズッシリと重い紙袋が握られていた。


「ごめんね、急に下ろしたから帯封のままで……はい、2000万円」


「おお……っ! ありがとう、C子! 君は最高のパートナーだ!」


 俺は紙袋を受け取った瞬間、その重みに震えた。


(よっしゃああああっ!! バカな女め、これで俺は完全な勝ち組だ!! アパートも仕事も捨てて大正解だったぜ!!)


「それじゃあ、俺はすぐに不動産屋に向かうよ。君は家で待っていてくれ」


 俺はC子に背を向け、早歩きでラウンジを後にした。


 向かうのは不動産屋ではない。東京駅だ。


 この2000万を持って新幹線に飛び乗れば、俺の完全勝利だ。


 俺は紙袋を胸に抱きしめ、勝利の高笑いをこらえながらタクシー乗り場へ向かって走り出した。


 だが、その時。胸ポケットのスマホが『ブルルルッ』と、今までで一番激しく振動した。


 画面には、あの『黒い目玉』が、画面を埋め尽くすほどのドアップで表示されていた。




【 読者に報告:ターゲットは仕事もボロアパートもすべて捨て、2000万円の現金を騙し取って逃亡を図りました。 】


【 読者の皆様、お待たせいたしました。 】


【 弱火での煮込みは終了です。これより、退路を断ったターゲットを『強火』で焼き尽くす最終フェーズへと移行します。 】


 俺の足が、ピタリと止まる。


 画面の奥から、読者たちの数万もの悪意が、俺の逃亡計画を嘲笑うかのように拍手喝采を送っているのが見えた気がした。




続く


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