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第23話 不審すぎる変装と裏切りの電光掲示板

「おい谷口。なんだお前、そのふざけた格好は?」


 深夜の工事現場。


 現場監督の親父が、俺の顔を見て呆れたように顔をしかめた。 無理もない。


 今の俺は、警備員のヘルメットの下に『真っ黒なデカいサングラス』をかけ、さらに顔の半分を覆う『分厚い黒マスク』を装着しているのだ。


「あ、いや……最近、夜の粉塵アレルギーが酷くてですね! 安全第一ッスから!」


 適当な嘘で誤魔化し、俺は自分の持ち場である誘導地点に立った。


(へっ、バカめ。あのドラレコの一件以来、いつC子の車が通るか分からねえからな。これなら、たとえ4K画質で撮られようが、絶対に俺の正体はバレねえ!)


 真夏の蒸し暑い夜。


 サングラスとマスクのせいで顔面はサウナ状態だが、結婚詐欺がバレるリスクに比べれば安いものだ。


 俺は自分の天才的なリスク管理能力に酔いしれながら、赤い誘導棒を振った。




 その時だ。ポケットのスマホが『ブルルッ』と震えた。


「……チッ。またあのクソアプリか」


 周囲に誰もいないことを確認し、こっそり画面を見る。


 案の定、あの『黒い目玉』がニチャアッと笑うアイコンと共に、文字が浮かんでいた。


【 読者に報告:ターゲットは、不審者丸出しの変装で安心しきっています。 】


【 読者アンケート:ターゲットの真横にある『工事用の電光掲示板』に、何を表示させますか? 】


「……は?」


 俺はバッと横を振り向いた。


 俺が立っているすぐ横には、夜のドライバーに注意を促すための、巨大な黄色い『LED電光掲示板』が設置されている。


 普段なら『片側交互通行』や『徐行をお願いします』という文字が流れているはずのその画面が、突然バグったように点滅を始めた。


 そして、赤く巨大な文字が、右から左へとゆっくり流れ始めたのだ。


『只今、絶賛・結・婚・詐・欺・中!』


『自称エリート消防士の谷口(本名:幹夫)が誘導します!』


『C子さーん! こいつの正体は底辺警備員ですよー!』


「な、ななななっ!?」


 俺は声にならない悲鳴を上げた。


 ふざけんな! なんでこんなオフラインの工事看板までハッキングできるんだよ!!


 ちょうどその時、遠くからヘッドライトの光が何台も近づいてくるのが見えた。このままじゃ、通る車すべてに俺の個人情報と詐欺の事実が大暴露されてしまう!


「やめろぉぉぉっ!!」


 俺は慌てて電光掲示板の裏に回り込み、電源コードを引き抜いた。


……だが、文字は消えない! 工事用だから、ご丁寧に大容量の『バックアップバッテリー』が搭載されているのだ!


「クソッ、クソッ!!」


 車が近づいてくる。


 俺は必死に掲示板の前に立ちふさがり、両手足を大の字に広げて、流れる文字を自分の体で隠そうとした。


『只今、絶賛・結・(俺の体)・婚・詐・(俺の体)欺・中!』


 隠しきれない!


 掲示板がデカすぎる! 文字が流れるタイミングに合わせて、俺はカニ歩きで右へ左へと反復横跳びを繰り返すハメになった。


「ハァ、ハァッ! 通り過ぎろ、早く通り過ぎてくれぇッ!」


 サングラスとマスクで息が詰まりそうになりながら、俺は必死で掲示板の前で謎のステップを踏み続けた。


 通り過ぎるドライバーたちが、奇妙な踊りをする不審な警備員を、気味悪そうにスマホやドラレコで撮影していく。


 俺のスマホ画面には、無慈悲な追記が浮かんでいた。


【 読者は、必死に文字を隠そうと反復横跳びをするあなたの姿を『求愛ダンスみたいだ』と大爆笑しています。 】


【 C子の車が通るまで、朝まで踊り続けてくださいね。 】


「ふざけんなあああぁぁぁぁッ!!」


 深夜の足立区に、俺の絶望の叫びがこだました。




続く


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