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第21話 深夜の交通誘導と赤い誘導棒の盾

「……っるせぇな、早く通り過ぎろよ」


 深夜2時。


 足立区の寂れた県道で、俺は赤い誘導棒を気怠そうに振っていた。


 水道管の工事に伴う、片側交互通行の警備。


 時給は深夜割増がついてもたかが知れているが、俺にとっては大事な「保険」だ。


 休憩時間になり、俺はパイプ椅子に座ってスマホを開いた。


 C子からLINEが入っている。


『起きてる? 私、なんだか眠れなくて、谷口さんが選んでくれた車で少しドライブしてるの。消防署の夜勤、大変だと思うけど頑張ってね♡』


「バカな女だ。俺は今、底辺労働で小銭を稼いでるっつーの」


 俺は鼻で笑いながら、『ありがとう。夜の街の平和は俺が守るよ』と、吐き気のするような甘い返信を送った。


 休憩が終わり、再び道路に立つ。


 遠くから、ヘッドライトの光が近づいてきた。俺は赤い誘導棒を水平に上げ、車を停止させる。




「はい、止まってくださーい。……ん?」


 停まった車を見て、俺の心臓がドクンと跳ね上がった。


 ピカピカに磨かれた、黒塗りの高級SUV。


 そして、ヘッドライトに照らされたナンバープレートの数字。


(嘘だろ……C子の車じゃねえか!!)


 なぜ、こんな足立区の辺鄙な工事現場に!?


 運転席のシルエットは間違いなく女だ。


 もしここで、俺が警備員のバイトをしているとバレたら、結婚詐欺の計画も高級車も全てパーになる。


 俺の完璧な二重生活が、一瞬で崩壊する!


 俺は咄嗟に警備員のヘルメットを深くかぶり直し、ジャンパーの襟を口元まで引き上げた。


 さらに、赤く光る誘導棒を自分の顔の真ん前に立てて、光で顔の輪郭を誤魔化す『誘導棒の盾』を構えた。




 ウィーン、と運転席の窓が開く。


「あの、すみません。ここ、どれくらい待ちますか?」


 C子の声だ。俺の顔から嫌な汗が噴き出す。


「あー……ご、5分ほどお待ちください、ッス」


 俺はわざとらしく低い、しゃがれた声を作って答えた。


 頼む、バレるな。俺の天才的な変装と演技力で乗り切ってくれ……!


「わかりました。お仕事、夜遅くにご苦労様です」


 C子は全く疑う様子もなくペコリと頭を下げ、青信号に変わると同時に車を走らせていった。


「……ッハァーーー!!」


 車が見えなくなった瞬間、俺は道路にへたり込んだ。全身が汗でびっしょりだ。


「あ、危ねええ……! 見たか、俺の天才的な危機回避能力! 危うく終わるところだったが、俺の演技力の前には無力だったな!」


 暗闇の道路で一人、俺は高笑いした。


 やはり俺には悪運と才能がついている。




 だが、ポケットの中で震えたスマホを取り出した瞬間、俺の笑みは凍りついた。


 画面には、あの忌まわしい『黒い目玉』と、無慈悲なメッセージが表示されていた。


【 読者に報告:ターゲットは、自分の演技力で危機を乗り切ったと勘違いし、喜んでいます。 】


【 種明かし:読者の皆様が、C子のカーナビをハッキングして『ターゲットの工事現場』をドライブコースに設定しました。 】


【 これはほんの『ご挨拶』です。さあ、弱火でじっくりと煮込んでいきましょう。 】


「……は?」


 俺は絶望で、真っ赤に光る誘導棒を落とした。


 偶然じゃない。システムは、俺の完璧な二重生活を完全に把握した上で、俺をジワジワと弄び始めたのだ。




続く


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