第19話 貢がれる快感と高級な足音
「いやあ、似合ってるよC子。君の美しさがさらに引き立つな」
「本当? 嬉しい……谷口さんが選んでくれたんだもん、一生大事にするわ」
高級ブランド店のVIPルーム。
俺はふかふかのソファにふんわりと腰を下ろし脚を組んで、コーヒーを飲みながらC子に微笑みかけた。
あのボロアパートでの地獄の夜から、わずか1ヶ月。
俺の人生は、嘘みたいに輝かしいエリート街道を大爆走していた。
あの後、俺の『結婚相手のテスト』という最低な嘘に騙されたC子は、なんと実家が地主の超絶お嬢様だったのだ。
「今までお金目当ての男ばかりだったから、わざと地味な事務員をしてたの。でも、私の内面(覚悟)を見てくれたのは谷口さんだけだわ」
そう言って泣いて喜んだC子は、俺の言うことなら何でも聞く『最強のATM』へと進化した。
俺が今着ているのは、仕立てのいい30万のオーダースーツ。
腕には、結納の代わりにとねだって買わせた200万の高級時計。
そして足元には――イタリア製の、15万もするピカピカの最高級革靴だ。
あの酸っぱい臭いのする980円のリサイクル靴とは、住む世界が違う。
「幹夫さん、お店の前に車が用意できたって。行きましょう」
「ああ。銀座に寿司でも食べに行こうか。」
店の外に停まっていたのは、C子に「消防士の通勤には頑丈な車が必要だ」と言いくるめて買わせた、真っ黒な高級外車のSUVだ。
運転席に乗り込み、本革のハンドルを握る。
隣には俺を神様のように見つめるC子。
(はーっはっはっは! ちょろい! ちょろすぎる!! なにがアプリだ、なにがシステムだ! 結局、俺の天才的な頭脳と魅力の前じゃ、あんなもんただの暇つぶしだったんだよ!)
エンジンをかけながら、俺は心の中で大爆笑していた。
俺はもう、ドブ川をスキップしたり、床を平泳ぎするような底辺のクズじゃない。
本物のエリートだ。
これからはC子の親の財産をしゃぶり尽くして、一生遊んで暮らしてやる。
「幹夫さん? どうしたの、ニヤニヤして」
「いや、君との未来が楽しみすぎてね」
俺はアクセルを踏み込んだ。
もちろん、俺のスマホの奥底で、あの『黒い目玉』のアプリが、この幸せの絶頂を録画しながらニチャアッと笑っていることなど、知る由もなかった。
続く




