第17話 公園の水飲み場と悪魔の画像認証
「おえええええッ!! ゲホッ、ゴホッ……!!」
夜の公園。
俺は水飲み場の蛇口に直接口をこすりつけ、胃液ごと全てを吐き出していた。
口の中には、まだあのリサイクル皮ぐつのカビと汗の味がこびりついている。思い出すだけで吐き気がする。
居酒屋の個室でC子が悲鳴を上げて逃げ出した後、俺は店員が駆けつけてくる前に、全力で逃亡した。
無銭飲食だ。
靴にビールを注いだ上に食い逃げ。完全に犯罪だが、捕まらなければどうということはない。
「ハァ、ハァ……クソッ。なんだってんだよ。あの女、俺のワイルドな魅力が理解できねえのか? つまんねえ事務員だぜ」
ベンチにどっかと座り込み、濡れた皮ぐつを隣に放り投げる。
俺は一ミリも反省していなかった。悪いのは、俺の『気合い』を引いてしまったあの女の度胸のなさだ。
「まあいい。あんなババア、こっちから願い下げだ。もっと若い、頭のゆるそうな女を狙うとするか」
俺は懲りずにスマホを取り出し、今度は『パパ活』系のマッチングアプリをダウンロードした。
俺のパイロットの制服写真を使えば、金持ちのじじぃを探しているバカな女がいくらでも釣れるはずだ。
新規登録画面を開き、プロフィールを入力していく。
そして最後の『登録完了』ボタンを押そうとした、その時だった。
画面が切り替わり、スマホの登録やログインでおなじみの『画像認証(CAPTCHA)』の画面が現れた。
【 セキュリティシステム:あなたがロボットではないことを証明してください 】
「あ? めんどくせえな。信号機か横断歩道の画像でも選べばいいんだろ?」
俺は鼻ホジリながら画面を見た。
だが、そこに表示されていた9枚の分割パネルは、信号機なんかじゃなかった。
「……は?」
パネルに並んでいたのは。
『女のパンツを手縫いしている俺の顔』
『ファミレスの床を平泳ぎしている俺』
『カビ臭い皮ぐつからビールを飲んでいる俺』
さっきまでの俺の地獄の姿が、高画質で並べられていたのだ。
そして、上部にある指示文の文字が、赤くグニャリと歪んだ。
【 指示:以下の画像の中から『人間のクズ』をすべて選択してください 】
「ふ、ふざけんな!! なんだこのアプリ!!」
俺は激怒し、スマホを地面に叩きつけようとした。だが、その瞬間。
『ブルルルルッ!!』
スマホが警告音のように激しく震え、画面に黒いポップアップが強制表示された。
【 警告:認証をスキップしようとしました。 】
【 ペナルティとして、あなたのスマホの連絡先『全員(実家の母親含む)』に、先ほどの『皮ぐつ一気飲み動画』を一斉送信します。 】
【 カウントダウン:10、9…… 】
「やめろ!! まて、待ってくれ!! 押す! 押すから!!」
実家のオカンや親戚に、あの変態動画が送られる!?
それだけは絶対にマズい!! 俺は慌てて画面をタップした。
『パンツを手縫いする俺』『床を泳ぐ俺』……すべての『クズ』の画像を震える指で選択し、右下の『確認』ボタンをターンッと叩いた。
「ハァ、ハァ……どうだ! これで文句ねえだろ!!」
だが、画面には残酷な文字が浮かび上がった。
【 認証失敗。あなたはロボットではありませんが、『人間のクズ』であることが証明されました。 】
【 クズは当アプリを利用できません。 】
【 追伸:読者の皆様が「反省の色がない」と怒っているので、ペナルティの送信は『実行』されます。 】
「……あ?」
『ピュイッ♪』という、軽快な送信完了音が夜の公園に響いた。
「あ、あああ……」 俺のスマホのLINEから、元カノ、地元のツレ、そして実家の母親に向かって、俺が自ら皮ぐつにビールを注ぎ込んでウマそうに飲んでいる動画が、ご丁寧に送信されてしまった。
【 読者は、あなたの社会的なトドメが刺された瞬間を、ポップコーンを食べながら見物しています。 】
俺はビールまみれの皮ぐつを抱きしめたまま、白目を剥いて公園のベンチから転げ落ちた。
続く




