第14話 シャバの空気とリサイクル革靴の消防士
「もう、あんなマネはやるなよ。今度やったら精神病院の檻の中にぶちこむぞ」
警察署の冷たいベンチで、年配の警官から吐き捨てるように言われた言葉を思い出しながら、俺はとぼとぼと夜道を歩いていた。
あのファミレスでの大失態。
だが、結局のところ俺は「床で泥だらけになって平泳ぎをしていただけ」のヤバい奴だ。
実害がないということで、厳重注意だけですぐにシャバに出ることができた。
(ふん、バカな警察め。俺の天才的な頭脳と演技力に騙されやがって)
強がりを心の中でつぶやくが、ふと、あの幻覚の光景がフラッシュバックした。
「……でも、あのパンツの海はすごかったな」 思い出すだけで、思わず口元がニヤけてしまう。
いや、待てよ。俺が好きなのはパンティそのものじゃない。
パンティをはいてる『女』なんだ。
「じゃあ次はどうする? 痴漢か? ……いや、リスクが高すぎる。バツだ」
歩きながら一人で作戦会議を開く。
のぞきか? 盗撮か? 盗聴か? それともソープか? 「んー、ソープは高いな。金がもったいない」
結局、行き着く答えは一つだった。
「やっぱり、マッチングアプリしかないか?」
だが、もう『エリートパイロット』の設定は使えない。
あんな騒ぎを起こしたんだ、すぐにバレそうだ。
しかし俺はそこそこ顔はいい。このルックスを活かさない手はない。
「待てよ……パイロットと消防士の制服って、なんとなく似てるよな? …これだ!」
俺はポンッと手を打った。
「あのパイロットの制服をちょっといじれば、消防士に見えるはずだ。衣装代も浮くし、俺ってマジで天才だな!」
あのアプリではもう顔バレしているから、一旦退会して、ちがうアプリを探そう。 ターゲットも変更だ。
今度は少し条件をゆるめて、35才以上をねらうのがよさそうだ。
「コンプレックスの塊みたいな女を狙えば、あんなのイチコロだろ。チョロいもんだぜ」
ボロアパートに帰り着いた俺は、玄関に転がっていた『泥だらけの安全靴』を思い切り蹴り飛ばした。
「安全靴も、もうやめだ。これからは、ちょっと高そうな革靴にしてやる」
もちろん、リサイクルショップで買ってきた中古の安物(リサイクル品)だが、暗い店で会えばそれなりに見えるはずだ。
「へへっ……やっぱり俺は、進化してるな」
俺はリサイクルショップで、980円で買ってきた中古の革靴を抱きしめながら、俺はニチャアッと薄気味悪い笑みを浮かべた。
自分がどれだけ無様に転げ回ったかも忘れ、反省する様子など微塵もない。
――こいつは、救いようのないクズだ。
だが俺は気づいていなかった。
新しくダウンロードしたマッチングアプリのアイコンが、あの『黒い目玉』の形をして、俺の顔をジッと見つめ返していることになど。
続く




