第13話 究極の二択とファミレスの平泳ぎ
「頼む……! もう許してくれ!! 俺が悪かったから!!」
ファミレスの脂ぎった通路。
俺は額を床にこすりつけ、誰もいない虚空――スマホの向こう側にいる『お前』に向かって絶叫していた。
エリートパイロットのプライドなど、とうの昔に消え失せている。
今はただ、この狂ったループから抜け出したかった。
だが、床に置いた俺のスマホが、無慈悲に『ブルルルッ!』と震えた。
【 読者に『究極の選択肢』が提示されました。 】
【 ターゲットの次の罰を、多数決で決定します。 】
[A]:他人から盗んだ女性のパンティを真顔で手縫いしている『工作動画』を、この店の客全員のスマホに一斉送信する
[B]:今すぐこのファミレスの床で、女性の『パンティの海』を泳ぐ(※脳内幻覚モード起動)
「……はぁっ!?」
画面の文字を読んだ瞬間、俺は息が止まりそうになった。
ふざけるな。
Aの動画なんて絶対にダメだ。
いい年したおっさんが、狭いボロアパートで女のパンティをハサミで切り刻み、チクチクと真剣に縫い合わせている姿。
そんなものを大画面で見られたら、詐欺がバレるよりもキツい、完全なる社会的な死だ!
「やめろ……! Aは押すな! 頼むから!!」
俺の悲鳴も虚しく、画面の下のメーターはギュンギュンと動き……そして、圧倒的なスピードで『B』に偏った。
【 読者の99%が『B』を選択しました。 】
【 これより、視覚ハッキング(幻覚モード)を起動します。 】
「やめっ――」
次の瞬間、俺の視界がぐにゃりと歪んだ。
ファミレスの安っぽい天井やテーブルが消え失せ、目の前に広がったのは…ピンク、白、黒、レースやフリルで彩られた、見渡す限りの『パンティの海』だった。
「うおっ……!?」
甘い匂いが鼻を突く。
俺の体は、自分の意志とは無関係に、その柔らかな海へとダイブした。
「うひょおおおっ!! すげえ! パンティの海だぁぁ!!」
――だが、それはあくまで『俺の脳内』だけの話だ。
現実のファミレスでは。 俺は、泥だらけの安全靴を放り出したまま、脂とホコリにまみれた通路の床にベチャッと腹ばいになっていた。
「スゥーッ、ハァーッ! ぷはぁっ!」
息継ぎの動作をしながら、床に顔をこすりつけ、両手両足をバタバタと激しく動かして『平泳ぎ』をしている。
顔面には、さっきのループでブラジャーのホックでえぐった生々しい傷。
そして、口からはだらしなくヨダレを垂らしながら、「パンティだ! パンティ最高おおお!」と歓喜の叫びを上げて床を泳ぎ進んでいく。
「ひぃぃぃッ!!?」
「な、なにしてるのあの人……頭おかしい……!! キャーッ!!」
ウエイトレスやA子、そして周りにいた家族連れの客たちが、蜘蛛の子を散らすように悲鳴を上げて逃げていく。
誰かがドン引きしながらスマホで動画を撮り始めている。店長が青ざめた顔で警察に通報している。
だが、幻覚に溺れた俺には、そんな現実の声は一切届いていなかった。
ただひたすらに、ファミレスの汚い床をクロールと平泳ぎで進み続けていた。
視界の端のスマホの画面には、無機質な文字が浮かんでいる。
【 読者は、床を泳ぐあなたの滑稽な姿を見て、腹を抱えて大爆笑しています。 】
エリート詐欺師の人生は、文字通り『底辺の床』で、誰かの暇つぶしのオモチャとして完全に溺れ死んだのだ。
続く




