第12話 パッチワークの悪夢と夢精の果て
何度目かのループ。
ファミレスのメロンソーダの味も、もう吐き気がするほど覚えちまった。
俺は逃げ場のない絶望の中で、ボロアパートの万年床に倒れ込んでいた。
(クソッ……どうせまたあそこに戻されるなら、今のうちに『これ』で癒やされるしかねえ……)
俺は、枕元にある『特製枕』を引き寄せ、うっとりと頬を寄せた。
この枕カバーは、俺の「才能」の結晶だ。
中学時代、家庭科の授業で唯一ほめられた裁縫のスキル。
それをフル活用して、今までコインランドリーや物干しから命がけでパクってきた戦利品(女性の下着)を切り刻み、丁寧な手縫いでパッチワーク状に繋ぎ合わせた最高の一品だ。
色も柄もバラバラな、他人の生活の匂いが染み付いた下着の集合体。
俺はその「変態パッチワーク」に、現場の排気ガスで汚れた頬をこすりつけ、脂ぎったヨダレを垂らす。
スマホで、電車の中でこっそり撮った女の盗撮動画を再生する。
画面の中で無防備な女が映るたびに、股間が熱くなる。
下着枕の生温かい感触に包まれながら、俺は意識を手放し――だらしない顔でよだれを垂らしながら、眠ってしまった。
そして俺は夢の中で『夢精』してしまったのだ。
だが、その絶頂と気だるさが混じった最高の気分の最中。
『ポンッ』
不気味な通知音が鳴り響いた。
【 読者が、あまりの気持ち悪さに「通報ボタン」を連打しました。 】
「……あ?」
その瞬間、ボロアパートの薄暗い廊下から、「ドンドンドンドンッ!!」と、ドアを壊さんばかりの激しいノック音が響いた。
「谷口!! 警察だ! 下着泥棒の容疑で家宅捜索に入る! 開けろ!!」
(……は!? なんで、なんで今ここに警察が!?)
パニックになった俺は、飛び起きた。
下半身は夢精のせいでグチャグチャだ。
しかも警察がすぐそこにいる。証拠隠滅のために、慌てて『パッチワーク枕』を布団の中に隠そうとした。
だが、焦って力任せに枕を引っぱったせいで、パッチワークに縫い込まれていた『ブラジャーの金具』が、俺の頬を勢いよく「ガリッ!」と引っ掻いた。
「いってえええッ!!」
顔を押さえて悶絶した拍子に、飲み終えたビールの空き缶に足を取られ、俺は無様にすっ転んだ。
「開けるぞ!!」
バタンッ! とドアが蹴破られた瞬間。
そこには、夢精してパンツを汚し、女の下着で作った枕を抱きしめたまま、頬から血を流して転がっている中年の男の姿があった。
突入してきた警官たちの顔から、一瞬でスッと感情が消えた。
怒りでもなく、正義感でもない。ただの『圧倒的な軽蔑』と『ドン引き』だ。
「……おい、手袋二重にしろ。素手で触るなよ」
警官の吐き捨てるような声。
俺は下着の隙間から、床に転がったスマホを見た。
【 読者は、あなたのこの上なく惨めな姿を見て、腹を抱えて笑っています。 】
【 エラー:ターゲットの尊厳が完全に失われました。ループをやり直します。 】
「……めちゃくちゃ俺のタイプだな。ごめんね、こんなこと言って」
次の瞬間、俺はまたあのファミレスの冷たい椅子の上にいた。
頬には、ブラジャーのホックでえぐられた傷が、生々しく残ったままで。
続く




