第八十四話「避け得ぬ試練」
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半機械兵士との戦い。
距離を取るとともに雨のようにガトリング砲から弾丸を放つ半機械兵士。
攻撃自体も一見したところは単調そのものだが、その実しっかりと照準を合わせて攻撃しているため対処しづらい。
「半機械兵士という性質ゆえに、容赦と言うものがまるでないらしい……」
空間内に所狭しとばらまかれた弾丸を理気の先読みを最大限に活かして回避しつつ、秋隆はそう呟いた。
凍子の話によれば半機械兵士は脳を除けば肉体を機械で構成された存在。
当然、人間のように疲れるということもなければ他者に対して心を動かすこともないのであろう。
機能を停止するその瞬間まで、ただ与えられた任務を遂行する機械、そう考えると生命よりも機械に近いと考えるべきかもしれない。
「杏一」
少しばかり離れた場所で戦いの趨勢を見守る凍子は、一見したところ防御一辺倒で翻弄されている弟子に声をかけた。
「わかっていると思いますけど、このような存在を相手にして出し惜しみなどするものではありませんわよ?」
この先に控える五清将との戦いを見越しての体力温存策、それも重要なことだが力加減を見誤ればそこにたどり着く前に致命的な重傷を受けるかもしれず、場合によっては命も落としかねない。
凍子の言葉にすぐさま頷くと秋隆は理気を集中、半機械兵士の足元に木の幹を発生させる。
「理解しています。問題は……」
「理力センサーに反応、理気使用までの時間を予測……」
しかし半機械兵士は秋隆がどこに理気を収束させ、どのタイミングで攻撃を仕掛けてくるのかを瞬時に予測、素早く大地を蹴ってこれを躱した。
「出し惜しみせず戦ったところで勝てるかどうか、と言うところです」
「はあ、情けないわね」
やや後ろ向きな言葉にルドヴィカは腕組みを辞め、腰に下げている双刀の柄に両手を載せる。
「手間取るって言うならルイズが変わるけど?」
「いや、それには及ばない」
油断なく半機械兵士の様子を探りながら秋隆は静かに首を振ると、民家の屋根の上でこちらを冷ややかに見下ろす文良を一瞥した。
「これはあくまでも私の戦い、丁と出るも半と出るも私次第、それにこのようなところで足踏みをしているようでは五清将は元より鬼紋王にも後れを取る」
「杏……」
「それでこそ、ですわね」
ルドヴィカと凍子の言葉を背後に受け、秋隆は鼈甲霊亀を正面に構え直す。
「……(とは言ったものの、状況は決して優しくはない)」
どうにか半機械兵士との戦いも慣れてきたが、それでも未だ決定打を与えることが出来ていない。
幸運なことは外付けの重火器を持ってはおらず、攻撃手段は半機械兵士自身に内蔵された武器に頼らざるを得ないこと。
「……(弾切れを狙ってみるか?)」
先ほど内部構造を探ってみたところ、内蔵火器の大半はミサイルやガトリング砲といった実弾兵器の類。
ならば弾切れを起こすまで粘れば勝機は見えてくるのではないだろうか?
「……(いや、無理だな)」
そこまで考えはしたものの、即座に首を振る秋隆。その作戦が現実的ではないことは内部構造を透視した彼自身が一番よく知っていることだ。
実はミサイルなどはともかくとして、ガトリング砲に使用する弾丸は全て半機械兵士の体内で生成が可能なのである。
材料となるのは無論理気で、空気中から取り込んだ理気を体内の超小型プラントで物質化の後弾丸に形成、弾切れを起こす前にリロードし、弾切れを起こさない銃撃を実現しているのだ。
仮に弾切れを起こすとしても半機械兵士にはレーザーを始めとする非実弾兵器も内蔵されている。
つまるところ、そもそも弾切れを狙った持久戦を仕掛けるということそのもが自殺行為と言うわけだ。
「……(しかし逆に言えば、半機械兵士の構造は相当複雑なはず)」
理気を動力とするだけでも相当無理をした構造、そこに弾切れを起こさない機構を仕込んだりすれば内部の複雑さは避けることが出来ないだろう。
「……(逆転の可能性があるとすれば、そこがカギとなるか……)」
秋隆がそう結論付けた瞬間、先ほどまで絶え間なく続いていた弾丸の雨が止み、代わって微かな地鳴りが周囲に響いた。
正面に目を向ければこちらに猛スピードで迫る二輪バイク、半機械兵士の変形形態だ。
先ほどとは違い車体の正面は理気による強化がされており、もしも理気纏化による防御をしなければ肉体の原型すら留めず砕け散るであろう。
「っ!」
瞬時に大地を蹴って大きく跳躍、間一髪と言うべきタイミングで秋隆は半機械兵士の突撃を回避した。
「……さすがに今のはヒヤリとしたぞ?」
「ふふ、果たして本当にそうでしょうか?」
ここまで無言のまま戦闘を見守っていた文良だったが、秋隆の独り言に思わずと言った様子で言葉を返す。
「もし御手前が僕の知る久坂であるならば、半機械兵士程度何とでも出来るでしょう」
「簡単に言ってくれる……」
「出来ないというのならばこれまでです。僕は御手前を見誤っていたということになります」
いささか厳しめの言葉、しかし文良の表情は万人を魅了し得る美しくも儚げな微笑、秋隆の勝利を微塵も疑ってはいないと言わんばかりのもであった。
「では、この戦いで勝利を飾りそなたの見る目は確かであることを証明するとしよう」
秋隆は鼈甲霊亀を右手に握ると左手に理気を集中、半機械兵士目掛けて水の弾丸を放つ。
しかし彼女に搭載されたセンサーは優秀そのもの、即座に攻撃を見切り、身をひるがえすような形で回避して見せた。
「……(ふむ、やはり牽制程度にしかならぬか)」
続いて秋隆は鼈甲霊亀の柄を両手で握るとともに大地を蹴り半機械兵士と肉薄、白兵戦を仕掛ける。
「っ!」
次の瞬間、半機械兵士は腰のあたりから刀の柄のような形状をした筒を取り出し起動、防御姿勢を取った。
「むっ!」
驚愕したのはここから、刀の柄から青白い光の刃が伸び、鼈甲霊亀による斬撃を防いだのである。
「……(光学兵器を応用した非実態剣か……)」
否、そればかりではないと秋隆は即座に看破した。
もしも単純な非実態剣であるならば理気纏化した刀身に接触した瞬間霧散してしまうだろう。
そうならずに秋隆の攻撃を阻んだというのならば、その答えは明白だ。
「……理気纏化を使用している、ということだな」
そう、理気纏化による攻撃を防御するためには対象と同等以上の理気を武器に纏うしかない。
こうして防御されたということは半機械兵士の非実態剣にも理気が通っていると見て間違いないだろう。
「……(ふふ、どこまでも私を驚かせてくれる)」
楽し気に口元を歪めると、秋隆は全身から理気を放ち、半機械兵士を後方に吹き飛ばした。
「っ!」
無論、彼女もそのまま何の備えもなく地に倒れることはせず、空中で受け身を取り、余裕をもって地面に膝を着く。
「……(理気そのものは大したことがなくとも、マルチに活動できる手数に人工知能など比ではない柔軟な判断力か)」
地面に着地した直後、ガトリング砲を展開しこちらにその銃口を向ける半機械兵士の姿を見ながら、秋隆は最終的な評価を下すべく、思考をまとめた。
「しかもこれが量産されているというのならば、脅威と呼んでも差し支えないな」
準備完了とともに彼女がガトリング砲を使用するその直前、秋隆は理法念力を用いて、周囲に散らばる瓦礫を浮遊させる。
「っ!」
「……もっとも、無視できぬ弱点も存在する」
瓦礫を次々放り投げてやれば、半機械兵士は瞬時に優先順位を判断、恐ろしく効率的なやり方で瓦礫を捌いて見せた。
「センサーの精度は上々、だが……」
相手が瓦礫の対処に追われている間、秋隆は鼈甲霊亀に理気を収束、そのまま理力剣を放つ。
「っ!」
これも半機械兵士にとっては予想の範囲内、素早く跳躍して秋隆の一撃を回避した。
しかし、彼の真の狙いは瓦礫で目くらましをして理力剣を命中させることではない。
理力剣を回避したその瞬間、秋隆は鼈甲霊亀を返して接近、再度攻撃を試みる。
「?!?!?!?!?!??!?!?」
先ほどまで半機械兵士はセンサーで理気を捉え、秋隆の攻撃を全て見切っていたはずだが、今回は何の防御手段も取れず、正面から秋隆の一撃を受けた。
「それ故に理気の濃度を濃くしてやれば処理しきれなくなる」
柄頭による突き上げを顔面に受け、半機械兵士はその衝撃から地面を転がる。
そう、秋隆が狙ったのは理力剣によって出来を破壊することではなく、これを放ち一時的に周囲の理気を濃くすることにあった。
半機械兵士に内蔵されたセンサーは理気を見ることに関しては文句のつけようのないレベル、しかしそれは裏を返せば高精度過ぎて想定以上の理気を感知しようとした場合、処理し切れず手間取るということでもある。
さらに言えば半機械兵士側も索敵の一切をこのセンサーに依存しているならば、一旦処理落ちを起こしてしまうと行動に致命的すぎる遅延が出てしまうのだ。
「そして、理気が使えると言っても所詮は六識レベル、一旦攻撃を見切り、組み付いてしまえばあとはどうとでもなる」
鼈甲霊亀の柄頭に息を吹きかけ、正面に持ち直す秋隆。彼は全身に土をつけながらも起き上がる半機械兵士に憐憫の眼差しを向け、彼女が次にとる行動を見守る。
微かな駆動音とともにガトリング砲を展開する半機械兵士。どうやら遠距離から実弾兵器を叩きこむ散弾らしい。
「そこだろう?」
しかし秋隆が鼈甲霊亀を彼女に向けると、先ほどまで何の問題もなかったはずのガトリング砲が微かに震え、銃口が根元から外れた。
「っ!」
「最大の欠点は精密機械故に一旦内部構造を把握されてしまうと内側から崩せてしまうということだ」
秋隆の言葉とともにガトリング砲の銃身からいくつかのネジが落ち、無事だった箇所もバラバラになって地面に転がる。
半機械兵士がガトリング砲を展開する間に内部機構に干渉、理法念力を応用してネジを外してしまったようだ。
これが生命力溢れ、理気の宿る人体の細胞であったならばここまで簡単にはいかなかったであろう。
人工物、しかも理気の通っていない部品であるからこそここまで容易に分解できたというわけだ。
「これでもう飛び道具は撃てまい、時間さえかければ修復できるだろうが……」
「っ!」
次の手を打たんと彼女が動き始める前に秋隆は理法念力を用いて彼女を引き寄せ、同時に鼈甲霊亀に理気を込める。
「そのような隙を与えることはしない」
「っ! 理気纏化、防御障壁全開……!」
即座に秋隆の攻撃に対応しようとする半機械兵士であったが、六識レベルの理気で封神霊廟を踏破した超越者の理気を防ぐことなど出来はしない。
「理力剣!」
秋隆の放った一撃は展開された理気を易々と貫通し、腹部から下を完全に焼滅させた。
「!?!?!?!?!?!?!?!!?!?」
「……再生を夢見て眠れ」




