表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
霊亀将  作者: 花鏡
妖魔王・布石編
60/104

第五十九話「郷愁を誘う情景」

いつもお読みいただきありがとうございます。

励みになります。

どこかで見た景色。

 ここまで乗ってきた豪華客船を降り、ウォルキアの街を歩く秋隆とルドヴィカ。

 和装の秋隆と露出過多なルドヴィカの二人が歩けばさぞかし目立つと思われたが、朝早い時間と言うこともあり、野次馬が出来るほど通行人の姿はない。


「……色々な船が泊まっているようだな」


 二人の行く道は港から小山に向けて一直線に伸びる坂道、振り返ってみれば港湾にたくさんの船が泊まっているのが見えた。

 秋隆らが乗ってきた豪華客船は元より、貿易船と思しき大型の船に装甲を張り巡らせた軍用船、少しばかり離れたところにはいくつもの漁船が停泊している。


「ここウォルキアはエテメンアンキからクリシアに行く場合の中継地点、対鬼紋獣にしても対ゼデキアにしても大体みんなここを通っていくのよ」


 先導をする形で秋隆の先を歩きつつ、ルドヴィカは得意げに口を開いた。

 地理的にもかなり良い位置にあるウォルキアはまさに西の玄関口、この先にあるクリシアやゼデキア方面に行く場合はほぼ確実に寄港し、補給をするとのこと


「それもあってか神官将テンプルナイトと接する機会も多くて、神官将テンプルナイト目指す娘が他の地域に比べて多いのもそこに理由があるって話よ」


「なるほど、な」


 神官将テンプルナイトの寄港地ともなれば、それに関係する仕事を生業とする者も数多くいるのであろう。

 その結果必然的に神官将テンプルナイトと接する者が多くなり、幼いころから興味を持つ者が出てくると言うわけだ。


「ついでに言っとくと、ウォルキア推薦の神官将テンプルナイトは意識が高い人間が多いって言われるわね」


「そうなのか?」


「血液型占いみたいなもんでくだらない話よ」


 ルドヴィカ曰く、ウォルキア推薦の神官将テンプルナイトは幼いころから努力しているため意識が高く、クリシア推薦の神官将テンプルナイトは学者気質な勤勉家。

 エメルス推薦の神官将テンプルナイトは身体を鍛えた武闘派、そしてトルキオ推薦の神官将テンプルナイトは都会的で洗練された者が多いという。

 そのため自分の性質に合致した地域の大神官に推薦をもらえれば神官将テンプルナイトになりやすいとか。


「くだらない話でしょ?」


 そこまで話して、ルドヴィカは馬鹿馬鹿しいと言わんばかりに鼻を鳴らした。


「ま、なんにせよ、そんな話が立つくらいにはいろいろな人が神官将テンプルナイトになりたがってるってこと」


 神官将テンプルナイトというものは鬼紋獣と戦い、時には指揮官としてゼデキアの最前線にも駆り出されるような苛烈な職業。

 同時に全ての理気使いに門戸が開かれ、一度ひとたび通れば元老院議員に匹敵する年収となるため、目指す者が後を絶たないのである。


「ルイズは物心つく前からお母さまに目指すよう言われてたんだけどね」


「大神官へのステップアップのためか?」


 ルドヴィカの母親はウォルキアの大神官であるシャダ・ウォルキア。

 将来的には娘に後を継いでもらわねばならないため、その箔をつけるという意味で多少強引でも実力を付けさせて神官将テンプルナイトにしたのではないだろうか?


 そのように仮説を立てる秋隆であったがルドヴィカは微かに頭を振って見せた。


「それもあるかもだけど、本命は五清将ペンタグラムの方じゃないかと思うわ」


五清将ペンタグラムに?」


 最高峰の神官将テンプルナイトであり、エルメラには五人しか存在しない五清将ペンタグラム。その称号を得ることは確かに栄誉なことではあるが、大神官になるために必須な事柄とは思えない。


 秋隆の困惑を察したのか、ルドヴィカはこちらを一瞥してから説明を続ける。


「エルメラのトップ、神聖王になれるのも選べるのも、この国には九人しかいないのよ」


 そこまで説明を聞いて秋隆の頭の中に一つの単語を思い出した。


「以前にどこかで聞いたことがある。確か、選帝侯せんていこうだったか?」


 祭政一致の国であるエルメラの王にしてエルム教団のトップでもある神聖王。

 かの人物は血筋ではなく王への選挙権と被選挙権を持つ九人の人間、選帝侯によって決定する。


「そそ、んでその選帝侯って言う奴の内訳は大神官四人に五清将五人で合わせて九人ってわけ」


 つまり神聖王になれるのは各地域を統括する四人の大神官と最高峰の神官将テンプルナイトである五人の五清将ペンタグラム


 非常に狭き門であるが、女性であればだれでも神聖王になれるというのならばある種平等な仕組みと言えるかもしれない。


「そうか、五清将ペンタグラムは離反した神官将テンプルナイトを粛正するだけでなく、そのような仕事もするのか……」


「ま、選帝侯としての仕事をする機会なんてそれこそ一世一代、事実今の神聖王が即位したのが六十年位前だから、半世紀以上出番はなかったことになるわ」


 ルドヴィカの言葉を聞いて思い出すのは叙任の際に見た神聖王の姿。

 とんでもなく衰え、ヨボヨボという言葉がしっくりきそうなほどの状態であったが、もしもあれが芝居でもなんでもないならば、近々選帝侯の出番が来るかもしれない。


「ふむ、つまりウォルキアの大神官殿は神聖王を目指しているということか……」


 何故シャダがそのようなことをするのかと考えた場合、最初に思いつくのは自分が神聖王になるための布石と言うことだ。

 神聖王となるために選挙をするなら、当然その票の数を争うことになる。

 そのため、票数、すなわち選帝侯の中に一人でも自分の息のかかった者を入れておくことは至極自然な話だ。


「そうなんじゃないの? まあルイズは最強なんだから、そんなの関係なく五清将ペンタグラムになるけどね」


 心底政争というものに興味がなさそうなルドヴィカに対して、秋隆は可能な限り素早く、頭の中で情報をまとめる。

 もしも本当にシャダが神聖王の座を狙っているならば、当然自分を推薦したこともその布石であるはずだ。

 その場合、自身の推薦した神官将テンプルナイトが活躍すれば名を上げるチャンスとなる。


「……(陽華の指令、鬼紋王の調査命令があそこまで早く降りてきたのももしかするとシャダが裏で糸を引いているのか?)」


「と言うかさっきから話してるのルイズばっかじゃない!」


 ルドヴィカから発せられた鋭い言葉に、秋隆は一旦思考を中断し顔を上げた。

 見れば彼女は足を止め、こちらをじっと見つめている。


「少しはあんたからも何か話しなさいよ」


「私の話なぞ聞いても面白くないと思うが……」


「面白いかそうでないか判定するのはこっちなんだからさっさと話して」


 そのようなことを言われ、秋隆は困ったように頬を掻いた。


「……うむむむむ、どのようなことを話すべきか……」


「じゃこっちから訊くけど、あんたのとこに新しく来た郎党、入江尚左いりえしょうざって奴はあんたと同郷なのよね?」


 再び足を進め始めたルドヴィカを速やかに追いかけつつ、すぐさま頷く秋隆。彼についてはわからないことも多いがある程度のことならば話しが出来る。


「郎党ではなくどちらかと言えば対等な同盟者なのだが、どうやら同郷ではあるらしいな」


 秋隆も豊輝も四道将軍、本来ならば対等の立場にある同士と言えよう。


「それってエルメラのどっかなの?」


 間髪入れずに飛んできた鋭い指摘に秋隆は内心冷や汗をかきながらも、冷静を装って口を開いた。


「……一応、五大洲ごだいすではあるらしいが、今はどうなっているのかは聞いていない」


「ふうん……」


 そこで振り向き、こちらを見つめるルドヴィカ。足を止めるということはせず、後ろ向きに歩く形である。


 しばし後ろ手に両手を組み秋隆を眺めていたルドヴィカであったが微かに嘆息を漏らし、また前に向き直った。


「……ま、別にあんたがどこの出身だろうとルイズにとって杏は杏なんだけど」


 微かに頬を染めるとルドヴィカは顔を上げ、坂道の終着点に視線を向ける。


「もう少しってとこね」


 目的地が近づいたことではやったのか、少しばかり急ぎ足になるルドヴィカ。


 無論秋隆もこのまま置いていかれるつもりはないため、苦笑しつつも足早に彼女を追いかけていった。


「これは……!」


 坂道の果てにあったのは小さな公園のような広場。それなりの高さの山にあることもあって、開けた場所からはウォルキアの港町が一望できる。


 眼下に広がるのは朝日が煌めく海原に、朝もやがかかったかのようにうっすらと霧がかった街。

 建ち並ぶ家屋が古式ゆかしい木造住宅と言うこともあって、どこか郷愁を誘う景色だ。


「どうよこの景色、中々なもんでしょ?」


 どうやら彼女が秋隆に見せたかったのはこの景色らしい。

 確かに朧気に浮かぶ港町に、会場に輝く朝日、ここに画家がいれば思わずスケッチをしそうな風景である。

 一方の秋隆は得意げに胸を張るルドヴィカのすぐ隣で眼下に広がる光景を前に、奇妙な感覚を覚えていた。

 胸の中から何かがこみあげてくるような、そんな感覚である。


「これと似た景色を、どこかで……?」


 直後、秋隆の脳裏に失われた記憶の中にある光景が浮かび上がった。


_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_


亀童丸きどうまるよ、この景色をよく覚えておけ」


 小高い山に私を連れてきたのは橘の紋章が染め抜かれた羽織の青年。

 彼は私の脇に手を回すとゆっくりと持ち上げ、眼下に広がる景色を私に見せた。


 それは海原の向こうから少しずつ顔を見せる太陽とうっすら朝靄のかかった港町の景色。

 ちょうど朝食を準備する時間帯なのか街のあちこちから炊事の煙が上がっている。


「この地に根付く者はいずれも私やそなたの愛し子、神州皇陛下の國民おおみたからだ」


 かの者の声は決して大きくなかったが、不思議と耳に残る不思議な力を帯びていた。


「もしも一旦緩急あるならば、その身投げ出してでも主命に務めること、これはそなたのみに与えられたことではなく、我らの父祖が代々背負ってきたことでもある」


 そこで青年は一瞬だけ笑みを見せ、私を肩に乗せる。


「務めよ亀童丸、それが四道将軍としての使命だ」


 私がその景色をしっかりと目の奥に焼き付けるまで、彼はその場にずっと佇んでいた。


_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_


「……今のは?」


 突如として頭の中にあふれ出した情景、己が幼いころの記憶。


「杏? どうかした?」


 あまりにも無言の時間が長かったためか、ルドヴィカは心配そうに秋隆の顔を覗き込む。


「え? いや、なんでもない」


「そう? なんか顔色悪いけど……」


「昨夜あまりよく眠れなかったせいかもしれぬな。疲れ目に朝日が染みて……」


 なんとか言い訳をひねり出そうと口を開いた直後、突如として空間が震えるほどの轟音が辺りに響いた。


「っ!」


「は?」


 慌てて音のした方向に目を向けてみれば、港町に停泊していた船舶がいくつか炎上している。


「い、一体何が起きてんのよ!?」


「とにかく一旦戻った方が良さそうだ」


 二人は頷きあうとすぐさま港町への道を下って行った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ