第四十七話「流濁将帰還」
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理気による応酬と剣撃、周囲がにわかに騒がしくなる中、八本足の六耳獼猴ともう一体の六耳獼猴は何やら話し合う。
「υοσταιγανακορο,ιατιακυοικιχοουοστομινο」
「ιανονοματιτοακγονομυοοραομοτισγγασυοοτνικγ……!」
その意味するところは一切わからないが、ちらちらこちらに向けられる蔑むような視線に微かに上がる口角、どうやら秋隆を嘲笑っているようだ。
「υοσγγαιτοιγιασινγγαν!」
「αυουορακγαομιιτονιατνυοροοουκγαμ,απμιασοροκουοσταιγ!」
どうやら話が終わったらしく、二体の六耳獼猴はそれぞれ口の中に理気を収束、これを閃光として発射する。
「ひ、ひいいいいいいいい……!」
当たれば即死しかねない攻撃を前にして、頭を抱えしゃがみ込むカカンとは対象的に、秋隆は一歩も退く素振りを見せず、これを正面から迎え撃つ構えを見せた。
「甘いっ!」
秋隆が一喝するとともに闘技場の隅から銀色に輝く何かが飛来する。
理法念力によって彼の手に飛来したそれは先程ヨライが使っていたレイピアであった。
レイピアを握るや否や流れるような形で鼈甲霊亀とともに一閃、二つの閃光を打ち消す。
「落ち着け、冷静さを失えば死ぬだけだ」
油断なく二振りの武器を手に、カカンの肩を掴んで無理やり引き起こす秋隆。
「剣を取れ、それとも死にたいのか?」
「なんで、どうしてこんなことになったのよ……!」
秋隆の言葉が聞こえていないのか、カカンは虚ろな瞳で何やらボソボソと独り言を漏らし始めた。
「わ、私は、私は総長と宰相の指示に従っていただけ、私は、私は悪くない! 私のせいじゃない!」
この期に及んで自分には何の責任もないと言わんばかりの言い草。しかしこれを敢えて止めることはせず、黙々と二体の六耳獼猴が放つ閃光を捌き続ける秋隆。
「私は悪くない! 私は、私は総長就任記念武術大会の初代優勝者、特権階級!」
「己が選択の末の今だ」
独り言がひと段落したタイミングを見計らい、秋隆はレイピアをその場に突き刺すと、六耳獼猴から一切目を逸らすことをせずに口を開く。
「こうなったのはそなたが選択した結果、それ以下でもそれ以上でもない」
「わ、私は、私は奴らの指示に従っていただけなのよ! それを……」
「仮にそうだとしても、それを選んだのは他ならぬそなた自身であろう?」
「うっ!」
正面から突き刺さる正論にここまで勢いよく自己弁護をしていたカカンも思わず口を噤んだ。
「他者に委ねた結果であろうとも、その責任の全てを外に求めるのは無責任と言わざるを得ない」
今の秋隆に真相はわからないが、カカンの言う通りであるならば、彼女はただ自分よりも立場の高い者の言いなりになっていたのかもしれない。
もしそれが事実だった場合、彼女一人に全ての責任を問うのは酷過ぎるというもの。
しかし同時に、そうなることを選択した以上、何の責任もないと言い切ることは出来ない。
ましてや後から現状を悲観し、自分の責任から目を背けようとするなど、現実逃避以外の何者でもないだろう。
「だ、だったらどうすれば良かったと言うのよ!」
秋隆の背中を睨みつつ、カカンは口から唾を飛ばしながら内に秘めたものを爆発させた。
「お、お前にはわからない! どれほど強大な権力がエルメラを支配しているのか、それに逆らえば何が起きるのか!」
「他者に答えを求めるな」
「っ!」
「そなたもまた、己の力ですべきことを見出していた時期があったはずだ」
宰相に総長、エルメラでも有数な権力者と対峙して己を貫ける者などそうはいないだろう。
しかし、秋隆はカカンならば、かつて神官将を志した幼き日の彼女ならば、十分抗うことが可能だと考えていた。
「ιαιαιαιανισ…! ακιραυοοαυοισαναχ?」
「……来い、桜の木の下で眠るのが誰か、教えてやろう」
六耳獼猴の雄叫びに対して、真っ向から勝負をつけるべく秋隆の刀が鈍い光を放つ。
瞬間周囲の理気が爆ぜ、秋隆は攻撃を仕掛けるべく、八本足の六耳獼猴に突撃をかけた。
「……(私は、私はこれまで何を、してきたの……?)」
一人になったカカンは周囲で巻き起こる凄まじい激闘にも構わず、その場にがくりと膝をつく。
ヴァルナ・ウルベリウムの貧民街で生まれ、その日暮らしをしながらも理気を磨き、神官将を目指した。
そして運良くミディアン・ヴァルナーが総長になったことで開催されることとなった総長就任記念武術大会に出場し見事優勝、その時点で人生の絶頂にあったと言っても良いだろう。
しかしその後は? 神官将と市長、二つの座を手に入れたが、結局自分は何を為せたであろうか?
八年もの時間の果て、散財に埋もれ、怠惰が身体を蝕み、権力に溺れ、ただただ堕落するだけの生活。
一体自分は何のために神官将を目指し、数多の勇者を押し退け優勝を果たしたのだろうか?
「……(久坂、杏一郎……)」
呆然自失と言った様子のカカンの目に、先程秋隆が地面に突き立てたレイピアが映った。
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秋隆と二体の六耳彌猴の戦いはまさに激戦と呼ぶに相応しい様相を呈していた。
閃光からの属性攻撃を仕掛ければ、それを現象攻撃で以て防御、即座に反撃に転じる秋隆。
二人がかりでもどうにもならない戦況を前に八本足の六耳彌猴も苛立たし気に顔を歪める。
「ακγονομιακαπμονοκ……!」
それなりの時間戦闘しているにも関わらず有効打を与えられないばかりか、こちらが追い込まれてるとなると苛立ってくるのも当然だ。
「ιαρονο……!」
毒づくように叫び声を上げた刹那、鼈甲霊亀を振り上げ秋隆が距離を詰める。
「はあああああああああああああ……!」
「αααααααααααααααμασικ,ικ……!
慌てて八本足を振り上げようとする六耳彌猴だったが、最早懐に飛び込まれた状態では満足に動くことは出来ない。
「そこだっ!」
「っ!」
二度、三度、四度、複数回鼈甲霊亀が煌めき、次の瞬間には八本あった六耳彌猴の足が半分の四本にまで減少していた。
「ααααααααααααικγ……!」
絶叫こそ上げるものの、六耳彌猴が一度欠損部に理気を集中させれば即座に新たな足が生成される。
「やはり、一筋縄では行かぬか……」
粘液にまみれた新しい四つの足が生えてきたのを見て、秋隆は一旦後ろに退いた。
「ατνυοοτν,αχαχαχαχαχαχαχιακγ……!」
得意げに新たな足を晒す八本足の六耳彌猴に、にやにやと見るからに馬鹿にした笑みを浮かべるもう一体の六耳彌猴。
「ιαιαιαιαιαιαιαιανις,γγιακγακιι……!」
全身に雷を纏い突撃を仕掛けてくる六耳彌猴の動きを瞬時に見切り、秋隆は鼈甲霊亀を一閃、その胴体を腰の辺りから両断する。
「ααααααααααααικγ……!」
断末魔の叫び声を上げる六耳彌猴だが、これでもまだ致命傷にはならない。
宙を舞う胴体からは血が止まり、数秒後には下半身が生成され始めた。
やがては完全に再生するであろうことは明白、これを再び破壊せんと秋隆は鼈甲霊亀を構えなおす。
しかし六耳彌猴が再生することはなく、一瞬鼻を突くような刺激臭がしたかと思うと、突如としてその身が凄まじい炎に包まれた。
「何っ!?」
「ααααααααααααικγ……!」
恐ろしい絶叫とともに業火が渦巻き、六耳彌猴の上半身は一瞬にして消し炭と化し、そのまま崩れ去る。どうやらここまで破壊されると再生も出来なくなるらしい。
「し、集中して! わ、私の現象なら奴の体内を焼き尽くすことが出来るはずです!」
「カカン・キラミス……!?」
はあはあと息を荒げながらも真剣そのものと言った表情で秋隆の隣に立つカカン。
もうすでに疲労困憊と言った様子だが、その瞳に宿る光は先ほどまでとはまるで別人である。
「αααααααααααυοιααμο……! γγαααααακακ……!」
仲間の死に激昂したのか、八本足の六耳彌猴が前足を振り上げ、カカンに躍りかかった。
「……っ!」
「やらせはせん!」
瞬間、秋隆は二人の間に割って入ると鼈甲霊亀の峰で六耳彌猴の蹴撃を阻む。
「ααααααααακατυοραν,ακασυοκ……!」
絶叫しながら六耳彌猴の前足に収束する理気。どうやらこの至近距離で閃光を放つつもりらしい。
この場合一旦後ろに下がるか、あるいは蓮の花に理気を吸収させるかのどちらかだが、結果から言うとどちらもする必要はなかった。
「ααααααααααααααααυοκγ……!」
シンナーを思わせる刺激臭とともに六耳彌猴の前足から火の手が上がる。
あまりの炎に絶叫とともにのたうち回る六耳彌猴。どうやら外甲が燃えているわけではなく、節の間からの発火のようだ。
「っ! はあはあ……」
どうやらこれもカカンの現象によるものらしく、全身から脂汗を垂らしながらも理気の制御に務めている。
「助かったぞ」
「……心にも、はあはあ、ない、ことを……!」
あまりの疲労感にレイピアを杖代わりにしてどうにか立っている状態のカカンを見て、微かに首を振る秋隆。
「まさか、私は共に戦う同胞に対しては世辞を言うことはせぬ」
「はあ、はあ、はら、から……?」
「同胞だとも、共通する敵に対して力を合わせてともに戦う、一時的なものだとしてもこれを同胞と呼ばずして何と呼ぶ?」
あまりの衝撃に雷に打たれたような表情のまま立ち尽くすカカンに向かって、秋隆は静かに目を伏せた。
「我こそは霊亀将久坂杏一郎秋隆、神官将カカン・キラミスよ、ここが正念場、そなたの力を貸して欲しい」
「っ! 無論、そのつもり、です……!」
「よろしい、参るぞ!」
恐らくはこれが最後の攻撃、秋隆の纏う理気が強まり周囲に満ちる。
「ιαιαιαιαιαιαιαρονο,ιαρονο……!」
どうにかこうにか火炎を払いのけ、八本足の六耳彌猴も一発逆転を果たさんと口と前足に理気を収束、閃光を放った。
しかし最早この程度の攻撃が通用するような秋隆ではない。
「遅いっ!」
瞬時に距離を詰めるや否や、神速の斬撃が六耳彌猴に炸裂、特徴的な八本の足を切り刻む。
「行けっ!」
「は、はいっ!」
秋隆の掛け声とともにカカンが理気を収束すれば、瞬く間に六耳彌猴の全身が炎に包まれた。
そして最後のダメ押しとばかりに鼈甲霊亀から凄まじい理気が溢れる。
「理力剣!」
放たれた理気による斬撃は炎に包まれた六耳彌猴を一瞬にして飲み込み、その身を原子にまで分解、消滅させた。
「αααααααααααααααακατυορανακασυοκ!ομιατισαταμ,αμ!」
「……再生を夢見て眠れ」




