第十二話「霊亀の将」
第十二話「霊亀の将」
魔獣の放った閃光によって直感的に敗死を確信し、いよいよこれまでとばかりに覚悟を決めるルドヴィカ。
だが次の瞬間、空を切る音とともに秋隆が割って入った。
「って、え?」
「はああああああああ……!」
秋隆が右手を翳すと掌から青い花弁の蓮花が出現し、魔獣の放った閃光を理気に変換して吸収、瞬時に無効化する。
「ιιιιιιιιιιιιιιιιιιιναν!!」
驚いたように咆哮する魔獣をしり目に役目を終えた花弁が周囲に散華し、微かに花の芳香が周囲に漂った。
「どうやら、間に合ったらしいな」
涼しげな表情でルドヴィカの腕をつかみ、助け起こす秋隆。
「なっ! あんた……」
周囲に漂う青い花びらを見ながらルドヴィカは呆然と立ち尽くす。
「……(植物? まさか、こいつも現象を……)」
理気を使えないと思われていた男性が超能力者であったばかりか、超高難易度の技術たる現象術すらも使いこなしたのだ。
あまりにも短時間のうちに信じられないことが立て続けに起きれば頭が混乱しそうになるのも無理はない。
「οοοοοοοοοοοοοοοομυοκοιγ,ομυοκοιγ!!]
攻撃を容易く防がれ、激怒した魔獣は二撃目を放たんと口を開き、エネルギーのチャージを始める。
「甘いな……!」
瞬間、鼈甲霊亀を引き抜き投擲する秋隆。
狙いは過たず魔獣の口腔に命中、行き場を失ったエネルギーは暴発し魔獣の顎を吹き飛ばした。
「αααααααααααααααααααααικγ!!」
秋隆が理法念力で鼈甲霊亀を回収する間あまりの苦痛に表情を歪ませ、のたうち回る魔獣。
しかし数秒後には何事もなかったかのように回復、顎も元通りとなる。
「信じられない再生力、だな」
鼈甲霊亀を構えなおしつつ、その再生力と耐久力に秋隆は内心舌を巻いた。
顎を吹き飛ばされたことに加え、ルドヴィカの放った霧で火だるまとなりながらも再生し、氷漬けになっても生きている。
そのような怪物が相手となれば、こちらも相応の覚悟が必要かもしれない。
「……(さてどうしたものかな?)」
攻撃しても攻撃しても再生されるならば、対応はおのずと決まってくるもの。
「……(一見無敵に見えても、この世に存在する以上は必ず弱点がある)」
いくらでも再生できるといってもそれは生命あってのこと、ならば再生できないように即死させてしまえばいいだけのことだ。
「αααααααακασυοκοζυοραιγιατισοροκ,υοραιγιατισοροκ!!」
「っ!」
秋隆が対策をまとめるとともに、凄まじい殺気を放ちながら襲い掛かる魔獣。
信じられない高さまで跳躍し右手を振り上げ、こちらの首を狙う。
「ααααααααααααααααααααααχ!!」
「なめんじゃないわよ!」
直後横からルドヴィカが乱入、双刀一閃、魔獣を斬りつけた。
無駄のない一撃、しかし金属のようなその肌に阻まれ、彼女の斬撃は魔獣を弾き飛ばすにとどまる。
「生意気! 意外と硬いじゃない……!」
転がるようにして地面に着地する魔獣の姿にルドヴィカは苛立たし気に舌打ちした。
「ιανιατακινισαταυοαυοιατναμασικ!」
煽るように舌を出し、何事かを叫ぶ魔獣。知性らしいものは一切ないかと思ったが挑発するだけの頭はあるらしい。
「何言ってるかわかんないけどその態度、むかつくのよ!」
「……あの女、まだ余裕がある辺りどうやら我々では自分には勝てないと思っているらしいな」
「は?」
意外過ぎる言葉にルドヴィカは目を丸くして、魔獣と秋隆を順番に眺める。
「っていうかあんたにはあの怪物が雌に見えてんの?」
「え?」
ルドヴィカに言われて秋隆は微かに首を傾げた。彼自身今の今まで気づいていなかったのだが、どういうわけだかあの魔獣が雌に見えていたのである。
「……(そういえば確かに妙だな)」
人間に近い造形とは言えその見た目は全く異なる魔獣の姿、一体何をもって雌と判断していたのだろうか?
「ιαιαιαιαιαιαιαιαιαιαιαιανις!!」
咆哮とともに接近する魔獣。無防備な状態の二人をまとめて屠ろうとその巨大な両腕を振り上げた。
しかしこのような攻撃を予測できないような秋隆ではない。タクトを扱うかのように鼈甲霊亀を振るえば地面から大量の竹が出現、魔獣の一撃を阻む。
「っ!」
「ふむ、どうやら冷静に考えをまとめているような時間はないらしい」
瞬間竹の表面から突き出すのは大量の竹槍、弾丸のような勢いで放たれた打撃をまともに喰らい、魔獣は後方に跳ね飛ばされた。
「αααααααααααααααααααααικγ!!」
普通の人間ならば串刺しになって死ぬだろうが、そこは人知を超えた魔獣、目立った損傷を与えられてはいないばかりか、命中した竹槍の方がズタズタとなってしまう。
どうやら、この程度では傷一つつけることすら出来ないようだ。
「ちっ! 正体はわかんないけど、正面から倒すには面倒すぎる相手ね」
なかなか決定打を与えられないことが相当ストレスなのか、ルドヴィカはイライラと地面を蹴とばす。
そんな様子を見て秋隆はここぞとばかりに口を開いた。
「ルドヴィカ、ここは協力して奴を倒すぞ」
「は? あんた何言ってんのよ、先に倒した方が格上だって言ったでしょ?」
「残念だが、そのようなことを言っているような場合ではない」
軽く嘆息してからそう呟くと、秋隆は鼈甲霊亀の切っ先で魔獣を指し示した。
ここまでそれなりの時間を戦っているにも関わらず、疲れた様子がないばかりかその身にも傷は一切ついていない。
「οοοοοοοοοοοοοοοοοοοοοοοοοοοοοοοοοοοοοο!!」
「っ!」
耳にビリビリとくる咆哮に思わず耳をふさぐルドヴィカ。そんな彼女をかばうように秋隆は前に進み出る。
「我々が対処に手間取れば、街の方に被害が出かねない、そうなっては必要ない犠牲を出すことになろう」
万一この場でこの魔獣を取り逃がすことになってしまえば、エテメンアンキにも被害が出るかもしれない。
そうなれば本来死ななくても良い命が散らされることになるのだ。
「君が私のことをよく思っていないというのは重々承知している。しかし今はそのようなことを言っている場合ではない!」
凄まじい熱のこもった秋隆の言葉にルドヴィカは悔しそうに奥歯をかみしめる。
「……ふ、ふん、このルイズにルドヴィカ・ウォルキア様に随分上からの説教をしたものね」
「ιαιαιαιαιαιαιαιαιαιαιαιανις,ακγυοσακ!!」
魔獣の突撃を軽やかにかわすとともにルドヴィカは理気を刀に込めて一閃、魔獣の右腕を切り落とした。
「でも、あんたの言いたいことも理解できるわ。守るべき民に犠牲を強いてまで序列を決めるというのは間違っているもんね」
魔獣が断末魔の叫びを上げる中、いいわとばかりに頷くルドヴィカ。
「あんたの話に乗ってあげる。格付けするって言うならそいつを倒してからゆっくりやってやるわよ」
とりあえず今この場では協力するとのこと、秋隆はすぐさま頭を下げた。
「感謝する、ルドヴィカ」
しかし感謝の言葉を受けたルドヴィカは日本刀をクルクル回し、不満そうに鼻を鳴らす。
何か気に障ることをしてしまっただろうかと秋隆が気をもんでいると、ルドヴィカはか細い声で口を開いた。
「……ルイズ」
「え?」
「特別にあんたにはルイズのことルイズって呼ばせてあげる」
どういう心境の変化であろうか? 先ほどまで敵視していた人間に愛称まで許そうとするとは……?
「その代わり無様な戦いをしたら許さないんだから!」
しばしきょとんとしていた秋隆であったがそこはひとかどの戦士、すぐさま切り替えると魔獣を睨み据える。
「わかった。ではルイズ、頼むぞ」
「ふん、足引っ張るんじゃないわよ。杏!」
「ιανισοτασσασαραν? ακιραυοοαυοισαναχ!!」
恐ろしい叫び声を上げ、両手に理気を集める魔獣。
瞬間両手から放たれるは青白い雷、先ほどの閃光ほどではないだろうが、それでも当たればただで済まないのは明白だ。
「そう簡単に我々を倒せるとは思わぬことだ」
鼈甲霊亀に理気を込めると一閃、秋隆によってはじき返された電撃はそのまま魔獣の胸に直撃する。
「αααααααααααααααααααααικγ!!」
相変わらず大げさに痛がりはするものの、結果的に再生してしまうのだから致命傷にはなり得ない。恐るべき耐久力だ。
「?!ακγαμασικιαδαν ?!ακυορασυορ」
とは言え全く何のダメージもないと言うわけではないらしく、のたうちまわりながら、咳き込むかのように荒い呼吸を繰り返している。
「?ατιαριατνοτταιγ」
「さて、この戦いもそろそろ決着をつけたいところだな」
「ふん、ならさっさとあいつの息の根を止めることね」
秋隆の言葉にルドヴィカは面白くなさそうに応じた。
「私がとどめを刺しても?」
「好きになさい、まあ出来るのなら、だけどね」
やれるものならやってみろ、そんなルドヴィカの意思を感じ、秋隆は挑戦的な笑みを浮かべる。
「では、勝ちに行くとしようか」
「?ικυοσοροκοουουορακασαμ」
牽制のためか慌てたように両手から雷を乱射する魔獣。しかしそのようなものに臆することなく二人は距離を詰める。
「!……ινοναττοτνομινικυοοιςυοκαιγυοοιγ !ιανιανις」
焦った魔獣はここにきて両手に集めた理気を直接二人にぶつけようと腕を振り上げたが、その一瞬の隙をルドヴィカは見逃すことをしなかった。
「やらせるわけないでしょ!」
理気を集中するとともに現象を発現、魔獣の両目にルドヴィカの放った超高熱の蒸気が直撃する。
「αααααααααααααααααααααιγι!!」
瞬時に燃え上がる魔獣の眼球、その熱は両目に留まらず、眼窩を通して頭蓋骨にまで達し、脳中枢を内側から完全に焼き尽くした。
しかしここまでの損傷を与えても完全に殺すことは出来ないのだろう。
本来脳がなければ思考そのものが出来ないが、この魔獣の場合当人の意思に関係なく、時間さえあれば肉体の損傷は完全に再生するからだ。
「破壊は必然……」
故に必要となるのは再生のしようがないほどの損傷を一瞬の間に与えて即死させること、それを果たすべく秋隆は鼈甲霊亀に理気を込めると魔獣との距離を詰め、刀を振り上げる。
「理力剣!」
「ινιαττιαζ!ιανιανις!」
一気に解放された攻撃的な理気は斬撃の形をとり標的の胸元に直撃、そこから全身に亀裂のようなものが走った。
まさに必殺の一撃、頑強であるはずの魔獣の肉体は一瞬にして吹き飛ばされ、目もくらまんばかりの閃光と白い光の明滅が空間を支配する。
「再生を夢見て眠れ」
空間を割く電流のような力と凄まじい光、巨大なクレーターを残し、魔獣が完全に消え失せたことを確認すると秋隆は鼈甲霊亀を鞘に納めた。




