↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
霊亀将  作者: 花鏡
総長中将編
106/122

第百五話「最後の封印」

いつもお読みいただきありがとうございます。

励みになります。

右近衛権中将殿の現象。

 横殴りの凄まじい吹雪が立ち込める雪と氷が支配する極寒の世界。空間を割くような形で大気が震動し、白い光のドームが出現した。


「ここがツァリ……」


 時空捻転現象じくうねんてんげんしょうを潜り、吹雪の中に足を踏み入れた秋隆の第一声がそれである。

 それなりに過ごしやすい気候のエテメンアンキとは違い、雪しかない苛烈な場所、そのような反応も仕方ないことかもしれない。


「うむ、ひと月後に頭中将殿が行くことになるエメルスのさらに北に位置する最北端の島だ」


 後ろから聞こえてくる東香の言葉。横から叩きつけるように襲い掛かる吹雪の中での発言であるためか、聞き取りづらい声だ。

 しかし、このような恐ろしいまでの吹雪の中にあって、二人とも寒がるような仕草はない。


「それにしても、雪しか見えませんね」


 キョロキョロとあたりを見渡していた文良の姿はこの極寒の中にあっても普段通りの服装をしている。

 あばらの辺りまでしかないシャツにホットパンツという男性としては露出過多なものだ。

 信じられないことに、この環境下で鳥肌一つ立ててはいない。

 しかし、今この場にはそんな彼も霞むような装束の人物がいる。


「この地は365日ずっと吹雪が絶えない極寒の地、あまりの環境にエルメラ人すら一つ南の島を本土防衛の拠点としているほどらしいですわよ?」


 豊かな胸の下で腕を組み、雪と分厚い雲に覆われた空を見上げる凍子。彼女の服は肌の九割を露出し、隠れている場所と言えば胸の先端と股間くらいというとんでもないもの。

 にも関わらずいつもと変わらぬ涼しい表情、むしろ彼女の肌に触れた雪の方が蒸発するような勢いで溶ける有様だ。

 無論普通の人間がこんな環境に来れば二分と耐えられず凍えてしまうであろう。

 四人が平気な顔をしていられるのは理気を用いて常に体温をコントロールしているが故のことだ。


 さて、自分たちの異能に関して今更触れるようなことはせず、秋隆はすぐ近くに横たわる氷の塊に視線を向ける。

 一見したところそれは何の変哲もない岩石か何かの類のようだが、よく見るとそれはいくつかの漢字が刻まれた石碑であった。


「……人が住んだ形跡があるな」


 どうやら遥か昔は場所を示すための標識か何に使われていらしい。

 分厚い氷のせいで正確な文字は解読できそうにないが、辛うじて『樺……中市』と読める。


「かつてはこの場所にも人が暮らしていました」


 文良の発した意外な言葉、驚愕からか秋隆の瞳が微かに揺れ動いた。


「このような雪の中に人が?」


「はい、四千年前はここまで酷くはなかったと記憶しています」


 四千年前、つまり神州と言う国がこの世にあった頃は、ここに人が住んでいたのだろうか?


けいはこの地に来たことが?」


 周囲を油断なく警戒しつつ、秋隆がしようとしていた質問を先回りする形で投げかける凍子。直後、文良の身体が雪の中から浮かび上がり、そのまま凍り付いた石碑の上に着地する。


「ずいぶん昔の話ですが、何度か……」


「……四千年のうちにここまで環境が変わってしまったのか……」


 ぽつりと秋隆がそう零した瞬間、周囲の空気が急変した。


「……どうやら、向こうから来たらしい」


「ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」


 東香が錫杖を構えたのとすさまじい咆哮が聞こえたのはほぼ同時の出来事。

 猛吹雪を切り裂くようにして現れるのは異形の姿に額に光る紋章を備えた怪物、鬼紋獣である。


「早速おいでなさったようですね」


 石碑から飛び降り、文良が大地に降りるや否や、襲い掛かる鬼紋獣。しかしこの程度彼にとっては不意打ちにすらならなかったらしく、腰に下げていた刀を抜くことすらせず理気纏化を掛けた右翼で一閃、早速一体両断した。


「これが北伐種か……!」


 秋隆の視線の先に見えるのは猛吹雪の中から続々と現れる鬼紋獣の姿。

 当たり前のことだが、その容姿は西戎種とも南蛮種とも異なる北伐種独特のものである。


 白銀色に輝く光沢を備えた肌に、まるでアンテナかなにかのような長い耳、一見したところはゼデキアの機械兵器のような見た目だ。

 しかし理気を聴覚に集中した場合に聞こえてくるのは機械の駆動音ではなく心臓の鼓動、もっと言うならば先日戦った半機械兵士ガイノイドが決して纏うことのなかった負の感情、殺気を全身に漲らせている。


「機械のように見えるが、あの肌はどちらかというと鉱石に近いらしい」


 戸惑いの表情を浮かべる秋隆をフォローするかのように説明を始める東香。どうやら完全に取り囲まれてしまったようだが、彼の声に焦燥感らしきものは一切ない。


「要は金属の肌を持つ生物と言うことだ。連中に生物と言う概念が通用するかは知らんがな」


「無駄話はここまで、仕掛けて来ますわよ?」


 凍子の言葉とともに四方八方から襲い掛かる攻撃。


「ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」


 相当数のコーポラル級がいるのか、その場はたちまち青白い属性閃光で覆われた。


「コーポラル級数十体に、あれはオーロラ級か?」


 吹雪の中にぼんやりと見える夥しい数の鬼紋獣に毒づきつつ、秋隆は鼈甲霊亀べっこうれいきを振るって攻撃を捌く。

 その動きたるや一切の無駄がなく、この乱戦中でも弾き返した属性閃光で鬼紋獣の頭を吹き飛ばすほどだ。


 無論、攻撃を命中させるのは敵勢力のみであり、友軍にはかすり傷一つ負わせていない。


「これだけ出るということは、この辺りに結界があるのは間違いないでしょうね」


 いつの間に呼び出したのか、誅仙剣を振るいながらそう呟く凍子。

 彼女の言う通り、これだけ鬼紋獣が密集しているということはこのすぐ近くに鬼紋王の結界があると考えて間違いないだろう。

 問題はそれがどこにあるのかと言うこと、普段ならばいざ知らず、こんな乱戦の中では落ち着いて探すことなど出来はしない。


「ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」


 そこで一体の鬼紋獣が両手に理気を込め、弾丸のごとき速度で突撃を仕掛けた。

 進路の先にいるのは文良、即座に秋隆の警告が飛ぶ。


「総三!」


「問題ありません」


 口から白い息を吐いて呼吸を整えると、身を低くして攻撃を躱す文良。無論回避の瞬間に理気を掛けた翼を立て、鬼紋獣を両断することも忘れない。


「ここは僕に任せてはいただけませんか?」


 真っ二つになった鬼紋獣が雪の中へ溶けるように消えたのを確認し、文良は翼を大きく広げた。


「久坂たちはこの先結界破りが控えています。可能な限り体力を温存すべきです」


「総三……」


 秋隆が何か言いだすよりも前に文良の翼に理気が満ち、周囲一帯の空間を振動させる。


「……もっとも、隙を見出すまでそこで観戦していただくことになるでしょうが……!」


「ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」


 どうやら鬼紋獣も文良の危険度を察したらしく、彼目掛けて一斉に属性閃光を放った。まさに光の速度、発射から着弾までに一秒もかからない。


 おまけに今の文良は翼を広げた状態、より被弾しやすくなっているといっても過言ではないだろう。


「すでに見切っています」


 だが刹那彼の翼、厳密に言えば羽毛が逆立ちそこからミサイルのような勢いで何かが射出された。


「!?!?!?!?!?!?!?!!?!?!?!?!?!」


 被弾した鬼紋獣の末路は様々、ある者は全身を炎に包まれて瞬時に焼滅し、ある者は凍結とともに微粒子まで分解させられる。

 共通することはいずれも生命を失う羽目になるということだ。


「あれは、羽毛か?」


 微かに目を細め、攻撃の正体を見極めてから放たれた秋隆の言葉に小さく頷いて見せる凍子。


「ええ、五大属性を纏っているようですわね」


 凍子が言葉を発する前に、また複数体の鬼紋獣が内側から弾け飛び、欠片すら残さずにこの世から消滅する。


 その圧倒的な実力に東香もまた感心したように深く頷いて見せた。


「一発一発が理力剣の威力とは、奴めまた腕を上げたな……」


「ふふふふふ……。本番はここからですよ」


 楽しそうに空を舞い、一度だけウィンクするとその身に理気を収束させる文良。


「このままハチの巣になるのと高熱で焼かれるのとでは、どっちが好みかな?」


「ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」


 何が起こるのかは把握していないながら、自分たちの不利を悟った鬼紋獣からの対空射撃が空間を走る。


 しかしそれらは文良に届く前により大きな現象によってかき消された。


「では、このような形でどうですか?」


 彼の右手から発生した現象に雪は瞬時に蒸発し、凄まじい熱気が空を焦がす。

 それは激しく泡立つ赤黒い溶岩、この星のエネルギーそのものと言える現象であった。


「そらっ!」


「!?!?!?!?!?!?!?!!?!?!?!?!?!」


 まるで噴火直後の惨状、広範囲に向かって放たれた火山弾は一発で複数体の鬼紋獣を吹き飛ばし、長年降り積もった万年雪すら瞬時に蒸発させる。


「ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」


 ここまで大規模な攻撃を加えられては最早鬼紋獣に逃げ場などありはしない。

 会敵からわずか十数分足らずで周囲一帯の敵勢力は根絶やしとなった。


 そして、文良の放った現象攻撃は鬼紋獣を全滅させるのとは別の結果も周囲にもたらす。


「おや? 急に視界が開けたと思っていましたが、少しやりすぎてしまったようですね」


 溶岩の熱によるものか、それとも何らかの形で理気が作用したのか、先ほどまで吹雪いていた雪が失せ、いつ以来とも知れぬ青空がツァリの大地を照らしていた。


 そして環境が変わり、冷静に理気の流れが追えるようになったのならば、次にするべきことは一つ。


「そこです!」


 気合とともに誅仙剣を一閃させる凍子。直後ガラスが割れるかのような音ともに空間が割け、巨大な建築物がその姿を現す。

 それは鬼紋王の結界に繋がる道、ツァリに満ちる環境が穏やかになったため、先ほどと比べ集中して入口を探すことが出来るようになったのだ。


「これは、仏舎利塔か何かか?」


 秋隆の言葉通り空間の中に突如として現れたのは頂点も見えぬほどに巨大な尖塔、固く閉ざされた扉には閂のようなものまで確認できる。

 東洋風の意匠に天を突くばかりの威容、神州風の五重塔ではなく、大陸で見かけそうな見た目だ。


「この先に、鬼紋王がいるのか?」


 さすがの東香も初めて見る現象に戸惑っているのか、秋隆に向けて放たれた声は微かに震えている。


「うむ、以前見た西戎種の王とはまた異なる入口だがこの気配、間違いないだろう」


「雑談はここまで」


 音もなく一歩前に進み出ると、凍子は誅仙剣を大きく振り上げた。


「総員、覚悟は出来ていますわね?」


 ここにきて躊躇するような人間はこの場にいない。これは言うなれば単なる確認だ。


 誰も何も言わなかったことに内心満足しつつ誅仙剣を一閃、固く閉ざされた扉を切り裂く。


「むっ!」


 直後、空間全域に広がった不穏な気配に弾かれたように顔を上げる秋隆。

 否、いやな気配を感じたのは彼ばかりでなく他の三人も同じであった。


「この気配、以前にも……」


 呆然とした表情で凍子がそう呟いた瞬間、ツァリ全域を照らさんばかりの凄まじい光と衝撃が空間を走る。

 光が消える頃、そこには人の気配はおろか尖塔すらも消失していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。