仁の逡巡
短めです。
揺れるカーテン、まんじりともせずに一夜を明かす仁。手には、いつの間にかやめたはずのタバコだ。仁は、うつろに、記録を取るために話し出す。
「いつからだったろう。彼女の姿をキャンパスで追い求めるようになったのは。もう研究も手につかない程だ。大学に聴講に来ていた彼女、どうみても20歳以上だと思っていた。噂の10歳の天才少女が彼女だったとは。しかも、私の属しているゼミに来て、色々大学院生の俺に、質問して来た彼女が、10歳だったなんて。信じられない。この思いはどうしたらいいんだ。」
ライフログ。生まれてから死ぬまでのログを取り、新シミリとして復活することさえ可能な現代。しかし、それは、形骸なのだ。単なる人間の形をした残響だ。それでも、再び生を得たいと思い、皆ライフログを取っている。
「まぬけなことに、彼女にもう告白した後なんだ。なんということだ。10歳の少女に愛をささやいていたとは。」
仁は、タバコの灰が落ちたことにも気がついていない。
「あきらめなくては。それがいい。忘れるんだ。だが、本当に忘れられるのか。しかし、こちらは、もう25歳、向こうは10歳。後6年待ったらこちらは、31歳、いやいや、何を真剣に悩んでいるんだ。考えることはない。もう奇麗に忘れるんだ。」
その時、ドアをたたく音がした。「誰だろう、こんな朝方に。」ドアを開けると立っているのは、葵だ。仁は凍り付く。「落ち着くんだ。落ち着け。」しかし、彼女が、彼に倒れ込んだ時、仁は、全くどうすればいいか分からなかった。
話は前後しております。




