響の死〜或いは甘美な終末
短めです。
響に最後の時が訪れていた。今まで、会った数えきれない人々の懐かしい姿が、脳裏をよぎった。そこには、自分を生んでくれた、懐かしい坂口教授の姿もあった。坂口教授が死んだということは、地球との交信でずっと後で知った。
響を見守る律子と葵。彼女達は、いつまでも美しい。その点どうだろう。力だけ見るなら、上かもしれない自分には、もう耐久限界が訪れているのだ。
響は思った。これでよかったのだろうか、と。私は。結局、私は本当の意味での人間の心を知らずに死ぬことになる。それは残念だが、仕方のないことだ、と。
誰にでも公平に訪れるはずの死、それを殆ど、超越してしまっている律子達。彼女らは、これからどんな人生を歩んで行くのだろうか、もちろん、もはや、それは響の預かりしるところではないが。
「私は、あなた方が羨ましい。残念なのは、本当に羨ましいというのがどんな気持ちか分からず死んで行くことですが、まあ、よしとしなくては。」と、声を必死に振り絞る響。
律子達は泣いている。「なくということも、自分には、分からない感情だった。」ーー結局、最初から最後まで真似だけだったのだ。自分の存在はーー響はそう思った。最後の時が訪れようとしていた。
「お父さん」と響は、坂口の名を呼んだ。それが響の最後の言葉であった。響のデータは最後の瞬間までスキャンされ、将来の復活のために蓄えられた。しかし、誰も、そこにいるシミリの末裔は、復活は望むまい。
響は、火葬にされた。それから、すぐ、後を追うかのように死を選択する新シミリ達がぽつぽつと現れて来た。限りのある生だからこそ、美しいとシミリ達の間にも考える者が現れて来たのだ。響は、ロボットであったが、他のどのシミリよりも人間らしかったのである。そう律子は思った。響の墓を雨が優しく濡らし始めた。火星もついに、雨期が迎えられる程、環境が整っていたのであった。
順番は、バラバラです。




