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situation.14 部活動とプライド

 和田は最近部活動に精を出していた。自分でも信じられないくらい真剣にメニューをこなしていく。普段なら馬鹿にしている他の部員達と共に、手合わせまでしていた。全ては姫の渡辺を守るため。自分の告白を証明するために。


 顔面の防具を剥ぎ取り、滴る汗を拭いて回る。あの告白は本心だったと和田は信じて止まない。自分は渡辺の事が好きなのだ。どれくらい好きかと言うと、彼女を守りたいくらいに。だからその術が欲しい。

 和田は後ろ髪に引かれる思いであの晩、彼女を自宅まで見届けた。正確には後ろからついて行っただけなのだが。また彼女に拒絶されて胸が痛む。しかし一度守ると誓った以上、実行しない訳にはいかない。和田にもプライドがあった。途中で放棄するくらいなら、ふられた方がまだマシだ。それ程までに彼女を守ろうと躍起になっていた。自分のどこからそんな原動力が出ているのか分からない。これが人を本気で好きになるって事か。和田は真理を掠めたような気がして慌てふためいた。いつもの遊びらしくない。女好きの和田知裕はどこへ行ってしまったのだろうか。


「最近部活動頑張っているみたいじゃない。顧問の先生が褒めていたわよ」


 朝練が終り、竹刀を納めた所で同じ剣道部の木元が声をかけてきた。彼女はとっくに着替え終わったらしく、セーラー服に紺のハイソックスが光っている。いつもと違う雰囲気を感じたのは、スカートの丈が少し短いせいだった。太めの膝頭が醜く顔を覗かせている。


「まあね。そろそろ最後の大会も近いことだし、僕も頑張ろうと思って。そう言う木元も最近雰囲気が変わったんじゃないか? 髪の毛でも切った? 少し可愛く見えるよ」


 思ってもない台詞がすらすら出る。これが本来の姿のはずだ。木元は最後の台詞に照れたらしく、視線を下に落とした。


「そんな事ないわよ、私はいつも通りだわ」思い出したかのように顔を上げた。「ねぇ、池田ちゃんと別れたって、本当?」


 木元の表情が固い。少し前まで剣道部の後輩と付き合っていたのだが、渡辺と関わるようになってからは碌に連絡しない状態だった。和田は彼女の存在すら鬱陶しくなり、先日別れを告げた。池田は剣道部の中では可愛い方だったが、あの渡辺には敵わない。他に好きな女が出来たのだ、仕方のない事だろう。


「やけに情報が早いな。本人から聞いたのか?」


 和田の問いに木元が呆れて首を振った。


「昨日泣きつかれたの。和田君の女好きは有名だったし、そんな相手に告白した池田ちゃんも馬鹿だったのよ」


 深いため息をつく。和田はちょっぴり胸を痛めた。


「悪かったな、女好きで」

「もしかしてありさのせい?」


 木元の即答に和田は無視した。お前に一々教えてやる必要はない。気まずいと思ったのか、木元が話題を変えた。


「そう言えば和田君、ストーカー退治に協力してくれるんだってね」

「協力……まぁ、ボディーガードだけどな」


 自分の都合の良い方に解釈する。


「それでどう? 犯人わかったの?」

「いや、ここ何日か連続で渡辺をマークしているけど、出でこなくなった」


 そうなのだ。渡辺が煙たがるので遠くから尾行する形で守りに呈しているが、犯人と思しき人物は未だ現れない。あっちも馬鹿ではないらしい。やはりあの日、渡辺ともめた時に協力者だとバレてしまったのだ。こうなったら作戦を変更するしかないだろう。


「あんまり無茶しないでね。怪我でもしたら竹刀振る場合じゃなくなっちゃうから。じゃあ、また放課後に」


 ため息混じりに心配を寄こすと、木元は先に剣道場から出ていった。和田も朝のホームルームに遅れまいと着替える。渡辺に嫌がらせをする学校側の犯人もまた、和田は把握出来ずにいた。自分が下駄箱を運悪く見張れない時に限って、彼女の私物が返却されている。明らかに裏をかかれていた。こちらの犯人探しは簡単だと踏んでいただけに、余計ショックだった。


「くそっ、何で上手くいかねぇんだよ」


 和田はイライラしながら胴着を部室の奥へ押しやった。もうじき学校も夏休みに入る。そうなると下駄箱を見張る事自体難しくなるだろう。協力すると、渡辺を守ると決めた筈なのにそれが全て裏目に出ている。所詮探偵などなれっこないって事か。和田は諦めに近い心境で剣道場を後にした。




 この日も和田は放課後の部活動をきちんと終えると、竹刀を背負って渡辺のバイト先に足を運ばせた。今日はアイスティーだけを注文して席に着く。渡辺はもう自分がいることに慣れたのか、それとも視野に入っていないのか、淡々と仕事をこなしていた。


 ちぇ、面白くないな。和田はストローの先を噛じって店内を見回した。自分を含め五人の客がそれぞれ駄弁ったり、携帯をいじったり、本を読んだりして過ごしている。例の大学生はまだ来ていない。

和田はカウンターの方にも目をやった。今日は店長のハンサムな男と、細身のパーマをかけた大学生、派手なピアスを付けた女と渡辺の四人で店を回しているようだった。成瀬は休みらしい。


 あの二人のどちらかが渡辺の好きな人なのだろう。和田は思い切って派手なピアスを付けた女に話しかけてみることにした。


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