変わらぬもの
きょろきょろと辺りを見渡して周りが安全かを確認する。
城門をフィナが通るとゴリラさん達が驚いたようにフィナを見て夏希を見ていたが夏希はフィナの首に顔をうずめていたので気づかなかった。
顔パスで通れたフィナは何者だと思いながらも夏希は近づく城に声を無くす。
「ええい、女は勇気、凶器、鈍器だ」
「・・勇気しか合ってないって」
「ひょわゎゎゎゎゎ!!」
いきなり耳元で聞こえた声に変な悲鳴を上げながら暴れると落ちた。
「ふべっ・・!」
「暴れるからよ」
夏希が暴れると簡単に手を離したフィナを恨めしく見るが当の本人は素知らぬ顔だ。地面とキスをした痛さに顔を顰めていると目の前に影ができて優しげな声がした。
「もう夏希は駄目だなぁ」
そう優しく抱き起こしてくれるのはアベル。少ししか離れていないのに声を聞くとなんだか懐かしいような気分になる。
「夏希は動物みたいにちまちましてるんだから」
「動物に例えないでよ」
変わらない態度に安堵する。ちらりと顔を上げると呆れ顔のアベルが笑いながら夏希を見ていた。頭を撫でるアベルに気をよくしたもの、撫でているアベルがフィナに振り返って驚いた調子で話す。
「それにしてもフィナ、その化粧どうしたの? いつもと違って綺麗じゃないか」
「夏希がやったのよ。私としては、もっと濃くてもいい気がするけど」
「いや、いつもフィナの化粧は濃いんだから。せっかくの素顔が勿体なかったよ」
「そうかしら?」
この会話を聞いた夏希は口をあんぐりと開けた。
ま、まさかフィナの恋人はアベル!?
恋人じゃなかったらこんな会話しないだろう。いや、外人は素直に言うかもしれないが夏希は生粋の日本人。こんな歯痒い科白なんて聞きたくないぜ。
「この二股アベル!」
「はい? 夏希の話は突拍子がないんだけど」
また始まったというように肩を竦めるアベルは夏希の扱い方がだんだん分かってきたらしく溜息をわざとらしくついて生温かい眼で見つめる。
・・・いたたまれないのですが。
そんな思いを馳せながら頭を素直に撫でられているが夏希は急にはっとしてアベルの手を振り払って指をアベルに向かって突き刺す。
「頭撫で撫でなんかに騙されないぞ。私は大人なのだ、そんなことで嬉しがらない」
「そうだね、見た目と精神年齢は一緒だものね・・うん、夏希は大人だ」
「その間は何?」
「え、夏希って10歳でしょ」
そんな会話をしていた2人の間にフィナが入ってきて悪気なさそうに首を傾げながら率直に言う。
「ちょ、私が小学生な訳ないでしょ。どっからどう見ても・・」
「子供しか見えない」
「ちょっと、アベル、フィナさん。むきーーー!!」
2人仲宜しく合わせてないのに揃った発言は夏希の心を抉る。確かに身長は150センチにも満たないけれど(若干量増し)、しっかりと高校教育を受け、しまいには運動も大抵のものなら好成績を取ることが出来ると言うのに。
じたばたと足を踏んでいると、むぎゅうと声が下から聞こえた。
夏希が足を止めてみると白い兎が潰されて目を回していた。
よし、寝る準備OK