胸が潰れますから
先程の胸揉まれ事件から夏希はフィナから腕の中から少しでも距離をとろうとしたがフィナは決して離さなかったために夏希は早々に諦めて、城に着いたらどうしようかと頭を抱える。
(いや、別にそこまで怒ってたわけじゃないんだけどね。ただ、うーん、何と言うか。皆が仲良しだから焼き餅とか? あ、焼き餅食べたい)
ぷくーっと膨らむお餅を想像してぐーとお腹が鳴る。1人悶々と考えるがすぐに違うところに脱線してしまう。
「なに百面相してるのよ?」
唸っているとフィナがコツンと額を合わせる。
「ちょ、前見て!」
額を合わせながらも歩くフィナに危機感を感じる。というか自分が落とされるのではと心配する。
「はいはい、あんたは子供なんだから難しく考えなくていいのよ」
その言葉はすとんと入った。
――夏希は子供だからな、難しく考えるな。自分が思った通りに進めばいい。
それは、もう聞くことのできない言葉。どんなに会いたいと思っても、どんなにその腕に抱かれたいと思っても叶うことのできないもの。
単純だけれどもその言葉は夏希にとっては何よりも大事で大切な言葉だった。
「あう・・」
「何よ、あたし何か変なこと言った?」
今すぐ泣きそうな夏希の顔を見てフィナはぎょっとする。
きつく言いすぎただろうか、少し不安になったフィナだったが夏希はふるふると首を横に振って瞳にたまった涙をこらえる。
「違うのですよ。少し昔を思い出しただけなのです」
「昔?」
「はい、昔フィナさんと同じようなことを言ってくれた人がいたんですよ」
「・・そう」
フィナが夏希の顔を至近距離で見ると夏希は柔らかい微笑を浮かべていた。
「そう、ならいいけど」
まだ納得のいかないことばかりだったが夏希の顔を見て言葉を押し込む。
「私、フィナさんが大好きですよ」
「ありがとね」
夏希はフィナの首に齧りついてしかと離さない。
何かが夏希の琴線に触れたのだろう。それは夏希にしか分からないがフィナに対して親しみを感じる行為だ。最初に出会った時はやはり緊張をしていたようだが、今はまるで母の胸に齧りつく子供のようだった。
「あら、そうこうしているうちに着いたわよ」
フィナに抱えられながら首を正面にまわすと大きな城が見えてくる。
「あう!!」
しまった、結局何の案も浮かばずに来てしまったよ。まずいと頭を抱え出すがフィナの足は止まらない。そして夏希の腕を掴む力も何故か強まった。きっと夏希が逃亡すると睨んでいるのだろう。
「ふはは、ならば望み通りやってやろう」
夏希がじたばたと暴れ出そうとしたがフィナが先手を打ってそれを止める。
「また揉むわよ」
「いやあああああ!!」
揉むわよと言っておきながら、もう揉んでいる。夏希は泣きながら逃亡をしないとフィナに宣誓をして、やっとのことで離してもらったのだった。




