天使、りたーん
何やら苦しそうな声がすると思えば、夏希の足によって踏まれていたジョージが声を上げていた。
「のーーーーーー!! 私、殺人未遂!? ジョージ、死んだ?」
「・・・」
ああ、なんてこった。私がこのか弱き兎さんを殺してしまったのか? 確かジョージは子供、前途有望な少年の命を奪ってしまったというのか。
髪をかきあげ、壁に手をついていると人型になったジョージから恨み声が聞こえた。
「夏希、僕まだ死んでないんだけど」
打ちひしがれたポーズしか取らない夏希の助けを早々と諦めジョージは自力で起きた。
「ちょ、服、服!」
もちろん、服を着ていないジョージのために腹が少し濡れているジャージを渡す。もちろん、目を背けながらだ。
「ごめんね」
「いや、いいのさ。君が風邪を引く方が耐えないのさ」
似非紳士を気取るとジョージが呆れた顔をするが、夏希からジャージを受け取り羽織った。しかしその目が何か思いついたようにきらりと光ったが夏希は見逃していた。
「夏希、僕、心配したんだからね」
そう言って夏希の腰にしがみつくジョージは夏希を見上げて、その赤い目を潤ませる。
「ちょ、ちょー! 前、前!」
くっつくジョージは夏希のジャージを着ているがチャックは全開で見事な肢体が夏希の眼下に広がる。
ちょ、やばくね。私、これを見たら性犯罪者になるんでねえの!?
年下好きの友達の悪魔の声が耳に響く。
「大丈夫、少しくらい見るだけよ。そろりって。ほら、あなたの目の前には太陽など知らない白い陶器のような肌、まだ毛もなにも生えていない身体は何色にも染まってないのよ。さ、ごらんなさい」
「やめろーーー! 幸子!!」
友達の名前を叫んで邪念を払うことに成功したがいきなり大声を出した夏希に周りが静まる。
「あ、ごほん。ジョージ、前が開いてるから閉めようね」
「・・閉め方分かんないもん」
「・・・あ」
そうか、この世界にはジャージというものがないのか。ふと見れば、メイドの兎さんもアベルもフィナも皆、ゆったりとした服を着ていて腰を紐で止めていた。
「えと、こうやって」
なんとか動作で示すにも難しい。もう諦めようかと一瞬で思った。
「夏希がやってよ」
「ふえ、そんなことしたら前が、前が見えて・・・やめるんだ、幸子!」
「夏希は紳士なんでしょ?」
妙に煌めいた瞳とは裏腹に首を傾げる姿にぐっと迫るものがきた。は、これが世に言う「萌え」か。なるほど、これが「萌え」か。
それに「紳士」と言われて、はっとする。そうだ、私は紳士、紳士はこんなことでうろたえちゃいかん。目の前に裸の女の人がいたって驚かず、変な想像もしないで上着を貸してあげる。それが紳士道。
「私は紳士、紳士」
「そうだよ、夏希は紳士だよ」
邪な思いを捨てて、夏希はジョージの上着(夏希のもの)に手をかけてチャックを探す。目を閉じて。目を開いてしまうと鼻の下が伸びてしまいそうなので固く目を閉じてやる。けれど人のことをやるのは案外、難しくてなかなかはまらない。
「夏希、僕は子供なんでしょ? じゃあ見ても大丈夫だよ」
あ、そうか。ジョージは子供だし別に捕まる心配はないか。そう思って天使の囁きに目を開きそうになると現実的な声がする。
「夏希、あんた子供の裸を見て興奮するわけ?」
フィナの横やりに眉に皺を寄せて首を振る。
「んな訳ないわ! そんなことしたら変態・・って出来た」
罵声を浴びせているうちにジャージのチャックが丁度よくはまったので夏希はジッパーを上げて前を閉めさせてから目をそろりと開けた。
「やばい、私、神や」
達成感に身を震わせているとジョージが「ありがとう」と言いながら飛びついてきた。しかしジョージのアッタクは普通の子供と違って力が強いために後ろに倒れてしまった。何とか頭をヒットさせなくて安心したもののジョージはアメフト部に入るべきだと本気で思った。
「夏希、大好き」
「お、おう。どういたしまして」
夏希に馬乗りになりながら鼻と鼻がぶつかりそうなほど近い位置にある顔があるために夏希は頭を後ろにやるが、そうするとジョージが更に近づく。
「た、たんま」
「うーん、や」
「やっ、て子供やないんだから」
「僕、子供でしょ?」
ぐぬぬと夏希が困っているのに誰も助けてくれない。私、皆に見捨てられたのね。そうこうしているうちに、ジョージが胸にまで迫ってきた。
「っつ、ジョージは子供じゃない。子供じゃないから!」
子供がこんな色気を振り回してお姉さんの上に馬乗りにはならない。そう意を込めて叫んだのだがジョージは嬉しそうに微笑んで夏希の口に自身の柔らかい唇を押しつける。
2、3回押しつけては離れる行為をすると艶然と微笑んだ。
「僕、大人だから」
うん、ジョージは立派な大人に認定です。
もうR15にした方がいいんじゃね?
最近やっと思い始めたお年頃・・




