残念な頭
ぐわしぐわしと頭を揺さぶられ、脳が揺らされて気分が悪くなっていく。
またリバースするのはどうしても避けたいお年頃だ。
「や、やめてぇ。お代官様、頭がぐるぐるしてます。世界が回ってますぅ」
「一度、夏希の脳みそを壊して新たな脳を埋めつけたい気分だよ」
何か不穏なことを言いながら、アベルは手を離してくれた。
だが、がっと肩を掴んで夏希の身長に合わせて自分も屈んで、視線を合わせる。
「ち、近いのですが」
「これくらいの距離で言わないと夏希の頭は理解してくれないと思うからね」
拳一つしか入らない距離でアベルが話すものだから、アベルの息が夏希の睫を揺らす。
おおう、これはラブラブなカップルがすべきことであって赤の他人がすることではない。
「いや、あのですね。一般ピーポーはそんなことはしないのですが・・」
「・・あのね、俺とそこの子兎は言わばライバルみたいなものなの。いい?絶対に恋人同士じゃないし、そんな妄想もするな」
え、私の抗議はシカッティングですか。
というか目が恐ろしいです、がたぶるです、全身が痙攣を起こします。
「え、沈む太陽を水平線越しに眺めながら浜辺で追いかけっこするのではないのですか。『待てよ、ジョージ』、逃げるジョージをアベルが追いかけ、『ここまでおいでー』ってジョージが・・ふがっ」
「いい?次言ったら、この口、本気で塞ぐから」
こくこくとまるで首振り人形のように頷いて、もうそんな妄想はしないと誓った。
これは本気だ。次に何か言ったら本気で塞がれそうだ。
脳内に針と糸が浮かぶ。
上唇と下唇が一生「こんにちわ」しないように黙った。
だが頭の中ではジョージが女役でアベルが男役で変換されている。しかし、このことは口に出さない方が宜しいようだ。
ぶうたれながら、静かにしているとアベルが手を唇から離して頭を撫でた。なんか子供にやる仕草にむすっとしながらも傍観している兎さんとジョージを見た。
「・・視線が痛いのですが」
「いえいえ、微笑ましい光景だと思いまして」
「いい子だな、夏希は。ほうら、よしよし」
「離さんかい!」
拳を振り上げると、ようやく頭を撫でる行為をやめたのだが、手は頭にのせられたままだ。
「私、高校生なんだけど」
「はいはい」
「テストで毎回10位には入るんだぞ」
「はいはい」
「ハンドボール部のキャプテンなんだぞ」
「はいはい」
いくら言っても離そうとしないアベルの足に蹴りを入れるがかわされた。
ぐぬぬ、なんか自分が小さく見えてしまう。
「あらあら、ジョージが妬いていますわよ」
兎さんの声に抱えられたジョージを見るが別段変った様子は無い。変わったといえば、今にもこちらに飛びかかりそうで髭をぴくぴくと震わせているだけだ。
「・・普通じゃない?」
「夏希の目は腐っているんじゃないかな」
「はい!?視力、両方とも1・5ですけど」
友達はコンタクトやら眼鏡などしているが、夏希は裸眼で過ごしている。生まれてこの方、目に困ったことはない。
「ごめん、夏希と話していると疲れる」
呆れたような声に兎さんが同感しているのが見えた。




