満月の夜
口がきけない、というか夏希には伝わらないジョージが言わんとしていることを兎さんが語り出した。
「夏希様が言った年の差なんて関係ない。それにもうすぐで大人になるって言ってますわ」
「いやいや、大人ってまだ先でしょ」
「いえ、ここでの大人とは人型になれるかです」
「人型?」
ぽわわーんと頭の中でフランシスのことを思い出した。鹿から人間・・のおおおお!!は、はだ、はだだだだ、奴は裸・・・・いらんことを思い出した。
ごほんと咳払いして夏希は赤くなった頬を押さえた。
つまり、小さい時は動物そのままの姿だが大人、つまり人間の姿になれると大人として認められるそうだ。
「大人って直ぐになれるんだ」
「それぞれですが、だいたい15位でしょうか」
「じゃあ後6年もかかるよね?」
「ジョージは直ぐに大人になれそうですわ」
「なんで?」
「愛の力ですわ」
ぽくぽく、ちーん。
なるほど、ジョージはアベルに恋してるから早く大人になりたいんだ。
ん・・?となると訳も分からず勝手に婚約などしてしまった夏希は邪魔者でしかならないのではないか。
なんて空気が読めない奴なんだ、自分。
申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
しゅんとしてアベルとジョージを見る。
「2人とも、ごめんね。邪魔者は消えるから」
「は?」
ジョージもアベルも分かっていない様子で首を傾げる。
ほら、息がぴったりだ。
「だから、ごめんって。愛し合う2人を切り裂いていたなんて私って、なんて空気が読めてなかったんだろうね。生まれてきてごめんなさい」
「・・いや、今の方が空気を読めてないよ。どういうこと?」
「え、私の口からわざわざ言わせたいのですか」
「・・夏希の思考は俺達には理解できないほど常人とは異なってるからね」
もしや、褒められている。どきどきしながらアベルを見るが、アベルはまるで先生が物覚えが悪い生徒を見守るような生温かい目で見ていた。
「・・その目って馬鹿にしてる?」
「いや、夏希の頭を一回見てみたいって思ってるだけ。で、何だって。俺とそこの子兎が愛し合ってるって、その口は言ってるのかな?」
夏希の小さく、水水しい唇を見つめながらアベルは微笑みながら言う。夏希はアベルの目しか見ていなかったため、彼の口元が全くといっていいほど笑っていなかったのを見ていなかった。
真一文字に唇がきゅっと結ばれているのを夏希は勝手に脳内で繰り広げられていた妄想により見逃してしまったのだ。
「だって、満月が出ている夜、ちょうど厚い雲が明るい満月を隠した時に2人は噴水のある場所で密会を重ね、ジョージが『まだ子供だけど、そしてアベルは王族だけど側にいることを許してもらえますか』って言って、そんなジョージにアベルが『馬鹿だな、王族なんて関係ない。大事なのは今、この瞬間だ』って、そんなこと言う唇は塞いで・・・」
「このお頭には何が入っているのかな」
がっと夏希の頭蓋骨を鷲掴みにして夏希の頭を揺らす。
あわわと前後左右に揺れる身体をなんとか保たせながらも夏希は横目でジョージと兎さんを見る。
そこには完全に固まったジョージと肩で笑っているが表情には出していない兎さんの姿がそこにあった。




