火花散る
夏希は向かい合って火花を散らしている2人を交互に見るがどちらも動かない。
長く思われる時間が過ぎた(実際は10秒もなかった)がアベルが動いた。
アベルは夏希の後ろに立って年中部活で動きまわっているために無駄な肉がない夏希の腹へと手を回して寄せる。
「ごぉら、どこに触ってんじゃ」
顔面に拳を沈めようとするが両腕も一緒に抱えられているため、動けない。以外に力があるアベルに感心するが、それは違う人にやってくれ。
「ほら、やっぱり分かってなかったでしょう」
「何が」
「相手に名前を贈ることは結婚を表すってこと」
「・・はい?」
「だから普通は男から女性に名を贈るんだけど夏希はその兎に『ジョージ』って名前を贈ったでしょ。だから夏希は私て結婚して下さいって意味。本当は両方が大人の時にするから、まだ子供な兎とは婚約って関係」
夏希は何も言えず、開いた口が塞がらないとは正にこのことだ。
夏希が唯一思った言葉とは「異文化コミュニケーションは難しい」だった。
「・・いや、でも私さ、地球に戻るし。そもそも動物とは結婚できないしさぁ」
ジョージには悪いが誰が動物と結婚するのだろう。確かに動物と結婚してもいいと言う人はいるかもしれないが夏希は違う。
だが振り返った夏希を待っていたのは大きな瞳から流れる涙。
ぽたり、と落ちた涙は床に小さな染みをつくる。
「ジョージが泣いてる!?」
どうしよう、こんないたいけな子供を泣かせるなんて自分はなんて最悪な人間だ。生まれ変わった方がいいかもしれない。
「う・・心が痛い」
「大丈夫大丈夫、あんなの嘘泣きだから」
心の無い奴が悪魔の囁きを耳元でするが私は悪には屈しない。
こんな綺麗な涙を流す子供がいるか、いやいない。って、それだと否定してるよ。
自分に突っ込んで、もう一度ジョージを見る。
「うむ、まるで真珠のような涙じゃ」
「夏希って詩人?」
「うん、今、目覚めた」
茶々を入れてくるアベルはさておき、夏希はジョージを抱き上げて視線を合わせる。
「多分、歳が違うよね」
「そうだね、ジョージはだいたい人間で言うところの9歳位かな」
やべえ、自分、こんな子に手を出したら犯罪じゃん。9歳というと小学生、夏希とは7歳もの年齢が離れている。
うわあ、友達がいたら「夏希のロリコン」って言われてたな。遠い目をして回想するが、うるるとしているジョージの瞳を見て現代へと戻る。
「おっと、そうだね。多分ジョージが大人になってる頃には私はおばさんになってるんだよ。それに色々な出会いがこれから先、ジョージには待ってるよ」
あの時に間違って入ってしまったベイビー兎の部屋を思い出す。あんなにいたのならジョージは選び放題だ。
きっとハーレム状態だね。
だけどジョージはふるふると顔を振る。しかし、言葉が通じない夏希には何を否定しているか分からないのだ。
アベルは分かっているのだろうか、顔を向けるが意地悪くあからさまに顔を背けた。
「うおーい、その顔は分かってるだろう。いいから教えんか」
「ええ、やだ。だって言っちゃうとさ、つまんないじゃん」
大の男が「じゃん」なんて言っても可愛さの欠片もない。むしろキモイに相当する。
「では、私が」
「うわっ!」
なんと兎さんメイドが真後ろに立っていたではないか。何でここの屋敷の人達は人を驚かせるのが好きなんだ。
そう思っている夏希の腕からジョージを受け取って、代弁してくれた。




