番外編1-2
「百三十センチ、ですね」
荒野の頭のバーと目盛りを見比べて店員は言った。
測られた当の本人は、ショックを受けたのか、体を固まらせている。
(元々百九十近くあったもんなぁ)
長身で、運動部でも活躍していた人間が、理由が理由とはいえ短期間でここまで縮んでしまった。
ショックを受けるのも仕方ないと鴨居は思う。
「百三十センチでしたら、黄色のハンガーがサイズになります」
そう言って、店員が気を利かせて持ってきた服が、あまりにも小さく可愛らしいサイズで、荒野は僅かに体を震わせた。
鴨居は店員の案内に礼を言うと、項垂れながら歩く荒野と共に店内を歩き始める。
流石に揶揄いすぎたと反省した鴨居は、一度咳払いをすると、気を取り直して口を開いた。
「――それで、どうする?」
「……なんでもいいよ」
自認していた自分の体格と現在の自分との大きなギャップに打ちひしがれて、荒野はうわごとのように答えた。
鴨居は顎に手を当てる。
「じゃあ、機関車のキャラとか……」
「それはやめろ、絶対に」
殺意すら感じる荒野の顔に少し安心しながら「ごめん、ごめん」と鴨居は謝る。
「でも見てみなよ。僕らの時代と違って、あからさまにキャラクターっていうのは少ないよ」
フロアを見渡せば、大人と変わらないデザインの子ども服が何点もハンガーに掛かっている。
「それは、そうだけどさ」
荒野は唇を尖らせた。
鴨居はその様子を横目に、ズボンから取り出したスマホを見る。
――十九時半。
「悪いんだけど、あまり時間はないみたいだ。」
荒野は鴨居の方へ、力なく顔を向けた。
「このままだと君の身長を知った僕が、君の趣味と絶対に違う服を、明日買いに来ることになる」
荒野の表情が歪む。
「クソっ!」
そう叫ぶと荒野は下着コーナーに向かって一目散に走って行く。
鴨居は、その隙に買い物カゴを取りに足を進めた。
「――どんな感じ?」
しばらくして、鴨居は下着コーナーのワゴン前にいた荒野を覗き込みながら声をかけた。
荒野はフッと笑うと、鴨居の持ってきたカゴに下着のセットを三つ叩き込む。
「次は服だな!」
そう言って荒野は次のコーナーへと急ぐ。
鴨居は、叩き込まれた商品を拾い上げた。
それは大人用のボクサーパンツが、そのまま子どもサイズになったようなデザイン。
「へぇ、今こんなにシンプルなものがあるんだ――」
そう言いかけて、口を噤んだ。
静かに商品をカゴに戻す。
「……まぁ、本人が選んだ訳だし」
裏面に小さく犬や恐竜の刺繍が施してあったことを、鴨居は黙っておくことにした。




