↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
沈む海鳴  作者: えるま
7/9

番外編1-1

  荒野(こうや)鴨居(かもい)に病院へ連行され、通院を余儀なくされて数日、問題が一つ浮かんできた。


「服?」


 定期検診後、疲労で少しぼんやりしていた荒野は首を傾げる。

 鴨居は車を運転しながら「うん」と頷いた。


「率直にいうと、君の着る服がほとんどない」


 体が鴨居の頭一個分高い状態から、頭二個分低くなった荒野の今着ている服は、鴨居の着なくなった部屋着と学生時代のジャージを何回も折っている状態だった。


 今はそれでなんとかなっているが、残りの服といえば病院側の温情で貸して貰っている入院着一着。

 どう考えても、これからの季節乗り越えられる服の数ではない。


「おい……ちょっと待て鴨居。この道、帰り道じゃねぇよな?」

「十九時か、まだギリギリ開いてるかな」

 気にせず走行を続ける鴨居に、荒野は呻いた。

「無視すんなって!」

「腕掴まない。事故るよ」

 有無を言わせぬ鴨居に、荒野はぐぬぬと歯を噛み締めた。


 車が停まった先は、大手こども衣料品店駐車場。

 本日の営業時間残り五十分といった所で、店内に入らず、二人は車内で言い合っていた。


「だから! 俺はこれでいいから!」

「本格的にこれから暑くなるんだから、下着も買わなきゃだし。いつまでも僕のシャツ着られてても困るんだって」

「下着って……あの店にあるような、日曜ヒーローの? バカ言うな、ナリはこんなんだが三十路だぞ?!」

「探せば無地もあるって」

「そうじゃなくってだな!」

 荒野はガシガシ頭を掻いた。


 そんな荒野に対して、鴨居はため息を吐く。

「これは真面目な話だけど、僕は国から君の生活費を貰っている。――つまり君の生活を整える様に言われてるんだよ」

 鴨居の声は、車内に静かに響いた。

「衣食住すら整ってないって思われたら、君が嫌がっていた病院で暮らすことになるでしょう?」

 鴨居は納得いっていない様子の荒野の背中を優しく撫でた。

「大丈夫だよ、誰も君のことを知らないし、わからない。閉店間際だからスッといってスッと帰ればそれで終わるよ」

 そう言って優しく微笑む。

 荒野は観念した様に「……分かった」と小さく呟いた。

「たださ、俺、車で待ってちゃダメか?」

 鴨居を上目遣いで荒野は見つめる。

「いや、それは無理。身長分からないし」


 即答で否定された荒野は、再び文句を言い始めたが問答無用で鴨居に手を引かれ、車を後にした。


 二人は店内の軽快なBGMに迎えられる。

 三十路の男二人で行くには縁遠い店だ。

 少しずつ片付けを始めていた店員が「あら」と入店に気づく。


「いらっしゃいませ、何をお求めでしょうか?」

 その明るい接客に荒野はたじろいだ。


「あぁ、ええっと」

 鴨居はどう説明しようかと、考えを張り巡らせる。


「この子……甥っ子なんですけど。うちに遊びに来たんですが服を家に忘れてきちゃったみたいで。しばらく泊まるんですが、何枚くらい服を買えばいいかなぁ、と」


 (状況的には大体合っている筈だけど、伝わったかな?)

 鴨居は自信なさげに首に手をやる。


 店員は「そうなんですね」と相槌を打った。

「そうですね、大体上下三枚ずつあれば安心でしょうか。この子の身長はご存知ですか?」

「いいえ、知らなくって」

「このくらいの時期は、すぐ大きくなりますものね。レジ前に簡易な身長計があるので――ボク、お名前は?」


 荒野は話しかけられると思わず「え?!」と小さく叫んだ。するりと鴨居の背中に隠れると「え、えっと荒野、です」と答える。


 (なんで苗字なんだ)

 鴨居は吹き出しそうになるが、咄嗟に口内を噛んで事なきを得た。


「こうやくん、お姉さんと身長測りに行こうか」

 そう言って店員はにっこり笑うと、荒野に向かって手招きをした。


「行こっか」

 笑いを堪えながら鴨居は声を震わせる。


 それに対して怒りと羞恥で顔を赤くした荒野は、鴨居の足をペチンと叩いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。