表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
NTRから始まる鬱ルートを回避するのに必死過ぎて、ヒロインが激重感情を持ち始めた話  作者: アルファベータ
第1部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/12

第6話

 インターホンの電子音が鳴り響く。モニターの中で、麗日リオナは嘲笑を浮かべ、背後の黒服たちにドアを破る合図を送ろうとしていた。


「開けなさい、朝霧紫音。あなたが隠し持っている『不純物』を、私の手で処分してあげるわ」


 だが、その傲慢な言葉が最後まで紡がれることはなかった。


「……うるさい」


 低く、地這うような声。


 僕の腕の中から、琴音が音もなく抜け出していた。彼女の足取りは、もはや恐怖に震える少女のものではなく、獲物を屠る瞬間の野獣のそれだった。


「琴音、待て! 出るな!」


 僕の制止も虚しく、琴音は玄関のロックを解除し、ドアを勢いよく蹴り開けた。


「あら、自分から出てくるなんて――」


 リオナが勝ち誇った笑みを浮かべた瞬間。

 銀色の閃光が走った。


「――っ!?」


 鈍い音がして、リオナの白い肩から鮮血が噴き出す。琴音が隠し持っていた果物ナイフが、迷いなくリオナの肉を割き、骨に達していた。


「あ、あああぁぁぁ……ッ!!」


 悲鳴を上げるリオナを、琴音は馬乗りになって床に押し倒した。黒服たちが動こうとしたが、部屋の隅でスタンガンを構えていたアイリが、その無機質な瞳で彼らを牽制する。


「動かないで。彼女の頸動脈を切り裂くのが先か、あなたがたが私たちを制圧するのが先か……賭ける価値はないわよ」


 アイリの冷徹なバックアップを受け、琴音はリオナの喉元に、血に濡れた刃先を突き立てた。


「ねえ、リオナさん。紫音くんのこと、ゴミみたいに言ってたよね?」


 琴音の瞳は、一点の曇りもない漆黒。

 返り血を浴びた頬を歪め、彼女はうっとりと微笑んだ。


「今すぐ冷泉に電話して。スピーカーにして。……私が今から言うことを、そのまま伝えなさい」


 リオナは恐怖でガタガタと震えながら、震える指で冷泉の番号をタップした。


『やあ、リオナ。無事に「害虫」を駆除できたかな?』


 スピーカーから流れる、冷泉の余裕に満ちた声。


「冷泉……。よく聞いて。……今すぐ、紫音くんに関するデマを全部取り消して。……全部だよ? 『僕の捏造でした』って、実名で謝罪文を出しなさい」


 琴音の声に、電話の向こうが沈黙する。


『……水瀬さんか。面白い冗談だ。リオナはどうした?』


「……トオル、助けて……っ! こ、この女、本当に、刺して……っ!」


 リオナの悲痛な叫びに、冷泉の息を呑む音が聞こえた。


 冷泉にとって、リオナは利用価値のある駒であり、婚約者候補という「所有物」だ。それを壊されることは、彼のプライドが許さない。


「選択肢は二つだよ、冷泉トオル。……このまま麗日リオナが、私の手で『ゴミ』として処分されるのを見るか。……それとも、負けを認めて、紫音くんを自由にするか。……どっちがいい?」


 琴音の刃先が、リオナの皮膚を僅かに切り裂く。赤い筋が、リオナの首を伝い落ちた。


「……っ、ふふ……。あはははは! 素晴らしい、水瀬琴音! 君をここまで『完成』させたのは、朝霧君、君の仕業か! 最高だ、これこそが僕の見たかった地獄だ!」


 冷泉の声には、怒りよりも、狂気じみた歓喜が混じっていた。


 だが、彼は悟ったはずだ。


 今の琴音には、理性など一片も残っていない。彼女は、僕のためなら、自らの手を血で染めることに躊躇がない。


『わかった。……僕の負けだ、水瀬さん。……デマの撤回、特待生資格の復帰、すべて手配しよう。……ただし、朝霧君。君は一生、その「化け物」の愛に食い殺されながら生きることになる。……それが僕からの、最大の復讐だよ』


 電話が切れる。


 琴音はナイフを捨て、力なくリオナの上に崩れ落ちた。


「……やったよ、紫音くん。……これで、二人きりだね」


 血まみれの琴音が、僕に向かって手を伸ばす。NTRルートは、完全に、物理的に粉砕された。冷泉は屈服し、社会的な地位も取り戻せるだろう。


 けれど、僕の目の前にいるのは、愛する幼馴染ではなく、僕を守るために「人」であることを捨てた、美しくも恐ろしい怪物だった。アイリが静かに歩み寄り、血の海の中で僕たちの写真を撮る。


「……これで、私たちの『生活』の基盤が整ったわね、朝霧くん。……もう、誰にも邪魔させない」


 勝ち取った勝利。だが、僕の隣に残されたのは、血の香りと、二人の少女からの、逃げ場のない「激重感情」だけだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ