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9.振るう理由

 ――俺はそれからもしばらく剣を振るい続けていた。

 何かを忘れてしまうように、何かを明確にするために。

 そして二時間ほど無心で振るい続けていると、背後からゆっくりと、明確にこちらを驚かそうとする意志を持って近づく者がいた。

 

 「わぁぁぁーーーー!」

 

 その人物は俺が気づいているとも知らず、背後を取ったことを確信し叫びをあげた。

 

 「俺が言えることでもないが、相変わらず王族としてのマナーがなってないな」


 その人物は小さな背丈からこちらを見上げる形で俺を見つめ、赤くなるまで含まらせた顔をこちらに向けた。

 この人物の名前は『アルラ・ヘル・ブラム』。

 年齢は五歳でこの国の王女の弟の娘。つまりは俺の従妹に当たる人物で、普段は王城の離れに住んでいる。

 離れと言っても特別不遇な扱いを受けているわけではなく、本家と分家を完全に割り切っている状況が生んだ別居のようなものだ。

 実際、同じ王城ないであるため、離れの環境は俺たちが住んでいるものと大きくは変わらず、食べている物もほとんど同じだ。本家との違いは活動の自由度だろうか。こうして王城で鍛えている第二王子の背後を取っても、お咎めが無い程度には自由だ。

 

 「お兄さま、たまには驚いてくれてもいいのですよ?」

 「たまには普通に話しかけてくれてもいいだぞ。少しでも気づくのが遅れたら切ってしまいそうだ」

 「はーい。次は気を付けるね」

 

 生返事。多分理解はしていないだろう。しかし、何かの拍子に気づかずに話しかけられたら剣を振るってしまうのも事実。叔父上に頼んで何とかしてもらいたいのだが……。

 言われて治るような年頃でもないだろう。逆に注目されたと過激化しかねない。

 

 「……はぁ。すこしお茶にしよう」

 「やったー!」


 俺は洗濯物を持って偶然近くを通りかかった使用人を呼び止め、お茶の準備をするよう頼んだ。

 使用には「かしこまりました」と返事時をして急いで厨房の方へと向かい、それから大した時間もかからずに、高級な紅茶と茶菓子の準備が整えられ。

 個人的には紅茶よりも珈琲派なのだが、この国ではメジャーどころか認知すらされていない状況、またいつか飲みたいものだ。

 

 「おいしいーーー!」

 

 一挙手一投足が大げさなアルラは、紅茶を一口飲むごとに、茶菓子を一口含ませるごとに笑顔を張り重ねる。

 そんな輝かしい表情をキープしながら、アルラは俺の剣を見つめて質問を問いかける。


 「お兄さまはなんで鍛えていらっしゃるのですか?」


 なんとも答えづらい質問が投げかけられた。

 特別な理由があって俺は剣の腕を鍛えているわけではない。しいて言えばこの世界で生きるため、もしくはこの国の国民を守るためだろうか。

 この世界生きるためというのは言わずもがな、生まれ変わる条件を達成するために世界を見聞きしなければならないときのための自衛手段。この国の国民を守るのは、この国の王族として生まれた自分の宿命。転生前の自分と転生後の自分、その二つの魂の役割でもある。

 しかし、これを五歳の少女にわかりやすく説明することが出来るだろうか。自分自身でもまとめ切れていないこの状況を説明するのは簡単なことではない。

 そこで俺はこの際、自分の置かれている状況をアルラに説明するついでに自分でもまとめることにした。

 

 「実は俺は神様の使いなんだ」

 「ええ! すっごい! 本当に神様の使いなの?」

 「誰にも言わないでくれよ」

 「うん!」

 

 もしかすればこの世界の人に言ってはいけないことなのかもしないが事前に口止めはされていないため、俺は自身の身に起きたことをすべて話した。


 「要約すれば、別の世界で生まれ変わるためにこの世界で生まれ、この世界に生きる者たちを知るために旅をする。その時の自衛手段として鍛えているってわけだ」

 「うんうん!」


 アルラは話の内容を理解しているのか、それとも何かの絵本のお話か何かと思っているのか何度も頭を上下させながら「うんうん!」と良い反応を見せた。

 こんな反応を見せてくれると、話しているこちらまで楽しくなってくる。会話において聞き手の役割が大きいというのを実感するとともに、王族として身に着けるべき技術だとも感じた。それを自然にこなしているのだから、中身が自宅警備員であった俺とは違い中身までもが王族であることがわかる。

 

 「お兄さまは、いつかどこかに行ってしまうのですか?」

 「どうだろうな。少なくとも今はまだだ。父上を説得できる程度に強くならなければ、その話を持ち出すこともできない」

 「では、まだまだ強くならないとですね!」

 

 「ファイト」と言わんばかりに両手を突き上げ、アルラは嬉しそうにほほ笑んだ。

 

――アルラがお茶と茶菓子を満足するまで食べ終え、元気に走り回るだけの体力を回復させると楽しそうにその場から駆けてどこかへと行ってしまった。

俺が近くにいた使用人にアウラについていくよう頼むと、それを見計らって新しい人物が俺の前へと足を運ぶ。


「稽古中に面倒を見ていただいたようで、ありがとうございます。グライト第二王子」


かしこまりながらも慣れたようにこちらへ挨拶をしたのは、母上の弟である叔父の『アラクレス・ヘル・ブラム』様だ。

叔父上は、王族でありながらこの国の大臣まで務めており、財政関係の問題はすべて叔父上を通せば解決すると言われるほどの人物で、財政問題の取り扱い方を兄上に教えている教師の一人でもある。

 兄上は教え方がとても上手くとにかく数字に強い人物だと言っていた。翌々考えると、叔父上の好評はすべて兄上から聞いた気がする。が、その程度には兄上から尊敬されていることで間違いない。

 叔父上は椅子に腰を下ろし深くため溜息をつくと、少し心配そうな表情で娘のアルラについて話した。

 

 「アウラはですね、とにかく動くのが好きな子でしてね」

 「存じ上げております」

 「この家……。セルブラム家の人間は極端なんです。子供の頃からよく泣いたり、動きまわったりする子は剣の道。物静かで、他人の顔色を無意識に伺ってしまうような子は政治の道へ進みます。良く言えば才能がわかりやすく、悪く言えばもう一つの才能が否定さる。ユリーラ王女、姉上の様に文武両道の方もいましたが、何世代に一人程度であったそうです……」

 「つまり……」

 「グライト様であればご想像に難くはないともいますが、アルラは多分、剣の才能が強いタイプです」

 「危険なことをしてほしくないのが親心ってやつですか」

 「その通りです。日常的に起こる、転んでケガをしたことですら心臓に悪いのに剣で切られたなんて聞いた日には……」

 

 自分が切られた時よりも悲鳴を上げてしまいそうなタイプではある。

 一見過保護なようにも聞こえるが、俺が元居た世界と違ってこの世界は刃物での怪我というものが大方大惨事だ。包丁で指先を切った様な感覚で、胴体の薄皮を切られたという話を兵士たちがしていてさすがに耳を疑った。

 そのぐらい切った切られたが当たり前であると、かわいい一人娘に剣を持つ人生を送らせたくないと思うのも当然だ。

 

 「でしたら、その積極性を生かして社交性を鍛えるのはいかがですか?」

 「積極性で社交性を鍛える……」

 「外交問題だとかそういう難しい話をするのはほかの者に任せるとして、そこまで繋ぐ立場になるのです」

 「確かに、世間話や関係づくりをするのなら、政治の仕組みを覚えるよりかは多少感覚的な話になる。感覚的なことなら僕の様なタイプよりもアウラの方が向いているね」

 

 良い考えにまとまったと言わんばかりの顔で嬉しそうに何度もうなずく姿は流石親子だと思う。

 叔父上はそのそっくりな笑顔のまま改めて俺の顔を見つめる。

 

 「ありがとう、おかげで一つ悩みが解決したような気がするよ!」

 「いえいえ。お役に立てたようなら良かったです」

 

 叔父上は俺の手を強く握り占め、何度も上下に振った後満足したように帰っていった。

 俺はそれをどこかうらやましい気持ちになりながら後姿を見送った。


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