8.救いと終わり
国に戻り、私はライトと共に城へと戻ることが出来た。そして謁見の間にて、私はライトと共に玉座に手鎮座するお父様とお母さまの前に立つ。
私の口から報告を聞いたお父様とお母さまは泣きだしそうなりながらも、私の無事を喜ぶ。それと同時に、私のわがままで亡くなった家臣たちの死をひどく悲しんだ。
「ユリーラよ、この度の一件は様々なことがあっただろう。その中でも、大切な家臣たちの死は誰の命にも代えることのできない問題だ。まずはお前自身が受け止め、そして、その罪を深く理解した時、遺族たちへの謝罪をせよ。謝罪と綺麗ごとだけでは済まされない。生きているお前に出来ることはそれだけだ」
お父様の言葉を深く受け止める。
もとより、上っ面な謝罪などするつもりは無いが、私は拳を強く握り強く痛む胸に押し当てた。
「ライト様、改めてご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」
ライトと共に城を歩くさなか、私は改めて深く頭を下げ謝罪をした。何度目かもわからないが、ライトはまたですかと言ってしまいそうになる口を閉じ優しく微笑む。
「大丈夫です。この国の国民として、公爵家の騎士として、ユリーラ様のために戦えたことはこの上ない名誉ですから。それに、このタイミングで謝罪をするべきなのは私の方でしょう」
ライトに非などあるはずがない。一人で生き残った私を助け、見捨てずにここまで連れてきてくれたのだ。
そう思いつつも、私はライト自身がどのような罪に苛まれているのか気になり聞き返した。
「謝罪……ですか?」
「そうです」
ライトは言葉の間に一拍置き心の内を語った。
「私はこの国の公爵家、グレイッシュ家の長男として生まれました。グレイッシュ家は国に仕える騎士であり、この国を出ることはほとんどないといっても過言ではない。それこそ、今回の様に王女の一人が失踪でもしない限りは、です。そんなグレイッシュ家の長男として私は失格ともいえる生活をしてきました。十五歳でこの国の騎士団に入隊することが義務図けられているはずが、私はそれが嫌で逃げ出した。あまつさえ、この国すらも飛び出し他国の傭兵として戦った。私は逃げたのです。ブラム王国の公爵家という重圧と、この国を守る責任から……」
「それが謝罪することですか?」
「そこまでで終わっていれば、父上にしごかれるだけで済んだかもしれません。ですが私は知っていたのです。私はあなたが家臣を引き連れて森に入っていく姿を見ていた。見かけたうえで、父上に報告されることを恐れて声をかけなった。そして不幸にも死者を出した。国を守る騎士の家系の者として、私は失格です」
「そう……なんですね……」
正直、私は今回の一件で生き残れたことは、運が良かったことだとは思っていない。なぜならそれは、死んでいった家臣たちの死を運が悪かったからで片づけてしまうからだ。
家臣たちは私を守り死んだ。それが私に付き従ったが故のことで、運が悪かったからなどと片づけてしまえば私はこの責任から逃げることになる。
「もしかすれば、ライト様が声をかけていれば、もしくはライト様が最初から同行していれば家臣が死ぬ事もなかったかもしれませんね」
「そうです。私が最初から……」
「ではその選択肢を今思い返してなんの意味があるのでしょう?」
「え?」
そうだ。そんなことは所詮、過去の選択肢の一つに過ぎない。
それを今悔やんだところで、生まれるそれは後悔でしかない。
「言い方を間違えました。その選択肢を取ればよかったと思い続けることは無意味です」
「そ、そんなことはないはずです!」
「ではライト様は、今回のようなことがもう一度あったとしてその時も、あの時こうしておけばよかったと思い返すだけで終わらせるのですか?」
「そのようなことは……」
「死んだ者たちに次などありません。ですが生き延びた私たちには必ず次がある。にも拘わらず、死んだ者の様に進まずにいることなど死者への冒涜です。今回の一件を招いた元凶でもある私がこのようなことを言うのはおこがましいかもしれませんが、それでも、あなたが足踏みをし続けるようであれば言いましょう。
死者への謝罪はもうやめなさい。その分、今この国で生きる民たちのために励みなさい。私の騎士は、人を救えなかったライト・グレイッシュではなく、私を救った彼方なのですから」
「ユリーラ様……!」
私の名前を呼ぶライトの姿は、先ほどまでよりは明るく見えた。
心の中で引っ掛かっていた何かが外れたのなら喜ばしいが、少し立場の危うい発言だったかもしれない。
「……今のことは他言無用でお願いします」
「もちろんです! 私の胸に、私のための言葉として刻みます!」
そういうわけでもないのだが……。
私は内心でそう思いつつも、ライトが立ち直ってくれたことに安堵し、改めて王城を歩き進んだ。
――ッパン!
強く何かが弾けるような音と共に俺は我に返る。
聞き入っていた状況が終わると、気が付けば数十分ほど経過していた。
そして母上の過去、とても話の後が気になるがそれを考えるのは後で良いだろう。問題なのは……。
「母上、俺はその話を聞いた上で何を得るべきなのでしょうか?」
「貴方ならもうわかっているのでしょう?」
母上は見透かしたように笑みを浮かべた。
この話から受けるべき教訓それは、王族という立場がどれだけ危険であるかと、重圧と責任があることだろうか。
母上が起こした問題、誰の命令からか命を狙ってくるアサシン。
どの話も俺自身に降りかかる可能性がある。その上で、外で自身を守る事の難しさを母上はこの短時間で教えてくれた。
そして話に上がった父上の活躍。普段自分に剣を教えている人物の活躍は聞いていて楽しかった。
しかしだ。
どうしても本来聞きたかった話とズレがある。
確かに話の内容はとても面白かった。こじつければ手掛かりになる内容ではあるのだが、やはりはっきりとした答えとは言えない。
これはやはり深追いするべきではないという母上からの忠告なのだろうか。はたまた、あの話の中に母上の伝えたいことがある……。
いくら考えても答えとしてまとまることはなかった。
「あなたが私の話をどうとらえたかは分かりません。ですが、賢いあなたならこの話にきっと意味を見出せることでしょう。もし、どれだけ考えても分からないときは、あるがままの流れに身を任せない。あなたならその波にも対応できるはずです」
母上は優しい笑みを浮かべて俺の頭を撫でてくれた。
無償の愛。その手はとても暖かく優しい。もらい受けたこの感情は、俺の心の中でざわついていた不安をかき消してくれた。
「なんだか悩みが晴れたような気がします。お話を聞いて下さりありがとうございます、母上」
「良いのです。子を心配するのも相手をするのも親の務め。あの人が努力してそうし続けているように、私もあなたたちを愛しています」
母上は俺の頭に乗せた手を下ろしそういうと、忙しい身の上からかすぐにその場を離れてしまった。
――子供たちと話す時間すらまともに取れないなど、お姉様が聞いたらなんといわれてしまうでしょうか。
ライトは剣術指南のためと時間を取っているが、私はたったの数十分話をするので精一杯。やはり私は未熟者なのですかね。
ライトとは、フィルトがうまれるずっと前から約束したことが一つありました。
それは子供に対して父親としての威厳を保つこと。剣術や武力だけの話ではなく、元々と王女とその護衛の騎士であったという経歴から生まれた話し方のこと。父親が母親に対し頭が上がらない状況というのはよくあることだというが、私たちの関係性はそれとはまたズレたものになる。
「おはようございます、ライト様」
「ユリーラ王女、おはようございます。本日もより良い国の発展のため、力を合わせて頑張りましょう」
このような話し方はどうも夫婦らしさというものが損なわれてしまいます。
ですので、ライトには……。
「おはよう。ユリーラ」
「おはようございます。ライト」
と、出来る限り単的かつ、お互いがお互いをわかり合っていますというコミュニケーションをとるように努力しました。
その成果もあってか、この国でライトの威厳を損なうことなく、子供たちからも尊敬される良い父親になれたと思います。
賢いあの子たちのことです。もう少ししたらバレてしまうかもしれませんが、その時はもう一度、一緒に対策を考えましょう。
子の未来も、国の未来も、どちらも苦労が絶えることはないでしょう。でもそれだけ、とても素晴らしい姿に成長してくれるとお姉様は言っていました。
その時まで頑張りましょう。ライト様。




