7.行いの恩恵
その声の発生源はわかっている。そしての方向に振り返ると、転移陣の中から見知った顔の騎士とそのほか10名のフルプレートアーマーの騎士が出てきた。
「父上!」
ライトは救いの神でも現れたかのように歓喜の声を上げた。
「お久しぶりです、ネイヴィット・グレイッシュ騎士団長」
「ユリーラ第二王女! ご無事でございましたか」
「はい。ライト様に助力いただき無事にここまで来られました」
心底安心したかのようにネイヴィットは胸を撫でおろした。
「では一度帰りましょう、国王が心配しております」
そうしたいのはやまやまだが、護衛として命を散らした護衛たちの遺体を回収しなければならない。一緒に帰ると約束したのだから。
「父上……いえ騎士団長、世界樹の森にユリーラ様をお守りし命を落とした者たちが残っています。どうかその者たちを救出する命をいただけないでしょうか?」
ライトは膝をつき父であるネイヴィットに頭を下げ願い出てくれた。本来であれば私から願い出るべきなのだが、恥ずかしい限り、先を越されてしまう。
だがネイヴィットの返答は頑としたものであった。
「私が王から受けた命はユリーラ様を国へお連れすること、おまえのエゴのために動くことなどできない」
その返答が意外なものだったのか、ライトは目を見開いてしまった。
しかしこの言葉の裏はこういうことだ。
「では私から命じましょう。これより私を国に連れ帰る命をライト・グレイッシュに一任し、他の者たちは森へと向かい、その任を果たし散った者たちの遺体を回収してください」
「ほかの者ならつゆ知らず、ライトはセルブラム王国の騎士ではありません」
「では今から私の専属護衛騎士に任命いたします」
「なるほど、専属護衛騎士であればその日付で任務が可能ですね。ですがよろしいので? ライト・グレイッシュの実力は確かですが、たった一度の専属騎士の任命権を使用することになりますよ?」
「問題ありません」
「では、セルブラム王国騎士団団長ネイヴィット・グレイッシュの認可とし現在を持って、ライト・グレイッシュをユリーラ第二王女の専属護衛騎士に任命する。この任はユリーラ第二王女の命が尽きるその時までが任期だ、心して励むように」
ライトがあっけにとられている隙にすべての流れを済ませた。
私は国内屈指の実力であるライトを自分の近くにいさせることができ、ネイヴィット様としては放浪癖のある息子を留まらせる口実が出来た。この話がトントン拍子で進んだのは、断られれば機会を失う二人の目的が一致したことが一番大きいだろう。
「あ、ええと……。その任、お受けいたします……?」
流されるがまま述べられた言葉には疑問符がつけられ、何が起きているのかよくわかっていない様子だ。だが大した問題ではない。ライトがうなずくことですべて丸く収まるのだ。
「ではよろしくねがいしますね、ライト様」
私とライトは、顔を真っ青にさせ震えつつも転移陣の準備をしている先ほどの男に案内され、陣の真ん中に立った。昔は広く感じたが、今ではその広さが半分程度に感じられた。
転移陣はダイレクト魔法に分類され、移動できる人数はその陣の大きさによる。国が管理している転移陣の定員は大人で12名であり、大人数で移動する場合には複数組に分ける必要がある。これは各国への奇襲を難しくするためだ。
転移陣はもともと机上の空論として何百年も前からあったという。それを五十年ほど前にある天才魔法使いカルザが実用出来るレベルにまで押し上げた。
本人曰く「転移魔法は、魔力の消費は少なく、それでいて最大の成果があげられる魔法が求められていた時代の産物だ。陣のサイズを大きくし魔力消費を高める代わりに安定させる方法はだれも試さなかった。いまでは魔石の質もよくなり、魔力を溜めることがさほど難しくなくなったためできた」とのことだ。
天才が身近にいると自分などまだまだだと感じてしまう。奇才のライト、天才魔法使いのカルザ様、天運を操る才能を持つモルガ・ヘル・ブラム第一王女。この三人は特にそうだ。運のよいことに、どの方もセルブラム王国に尽力してくれている。私も迷惑ばかり架けず、国のためになりたいものだ。
瞼を閉じていても感じられる強い光に包まれた。そして「目を開けていただいて大丈夫です」その声を聴きゆっくりと目を開けた。
「ご無事で何よりでございますユリーラ王女!」
普段この国の転移陣の管理をしている男、ヒルイ・カーメスが驚きながらも私にそう言ってくれた。
「随分と早いお戻りでしたね。もしや騎士団とはすれ違いになったとか?」
「いえ、私を捜索に来た騎士団には先ほどお会いしました。ちょうど私たちが帝国の領土に入ったころでしたので」
「そうでしたか。ああ、国王がお待ちしておりますので、このようなところで足止めをしてはいけませんね。外に馬車を待たせておりますご自由にお使いください」
「はい、心配してくださりありがとうございました」
私はそういうと頭を軽く下げ、外で待機をしている馬車に乗り込んだ。
しばらく馬車で揺られていると、ライトが思い出したように袋を探り始め、何かを見つけると嬉しそうにこちらへと差し出した。
「これはいったい?」
「私は貴女をお助けする前にエルフの里にて仕事をしておりました。その時にお礼としてもらったものです。一度はベベルガ……あの男に取られてしまっていたので言わずにいたのですが、戻ってきたのでお渡ししますね」
私は中身が気になったが、焦る気持ちを抑え周りの包みをゆっくり開いた。
中に入っていたのは一枚の葉だった。とても綺麗で、私が求めているものによく似ている。図鑑で見つけてからというもの、何年も探し続けた伝説の葉によく似ている。ライトが私に渡したのは間違いなく、霊葉フェニルであった。




