助けを求める
「無事か、ルクス!」
ルクスの隣にベオが立つ。
少し後ろを見れば、そこではアディが鎧をまとったミラを助け起こしているところだった。
「こっちは大丈夫、そっちの様子は?」
「アディが張り切っていてな、全力で片付けて向かってきてやった」
そう言って、ベオは胸を張りながら手に炎を灯した。
「またこの手の敵か、嫌になるな」
巨大な一つ目の、黒い球体。周囲から触腕を伸ばし魔力を放つそれは、確かに以前戦った魔王を思い起こさせるような不気味な見た目をしていた。
ベオの言葉に反応したわけではないだろうが、その目が輝き一斉に黒い触手が伸ばされる。
その先端は鋭く、ルクス達を串刺しにするつもりのようだった。
「アディ、ミラさんを護って!」
「は、はいぃ!」
「ベオは援護を!」
「任せておけ!」
ベオの炎が触手を一気に吹き飛ばす。
その隙を逃さず、ルクスが鋭く踏み込み、再び球体の目の前へと躍り出る。
近づけば、頭の中にあの声が響く。
願いを求めるその無機質な声は、まるで懇願しているようにすら聞こえてきた。
近づけば衝撃波がルクスを襲い、再び距離が離される。
相手の攻撃は何とかベオが迎撃してくれるが、ルクス達としても勝機を見出すことができないでいた。
アディとミラが加勢しても、それは同じことだ。
例え多少手数が増えたところで、全方位を無制限に攻撃できる相手からに有効打を与えることはできない。
「……あ、あいつ、護ってるの、かも」
アディがルクスの横で、そんなことを呟いた。
「護ってる?」
「う、うん、うん。えっと、た、多分だけど。なんか、ほら、離れるとあんまり攻撃してこないし」
「そう思うのは、私が迎撃してやってるからだ!」
苛立ちを込めてベオが叫ぶ。
彼女の放った炎が、こちらに飛んできた黒い刃を全て焼き尽くしたところだった。
同じようにミラも前衛に立って、駆動鎧の装甲を生かしながらルクス達を護り続けている。
「シェーラ! シェーラ、目を覚まして!」
ミラの必死の問いかけは虚しく、目の前の球体は声を無機質に願いを求め続ける。
「あ、あれはアディとは似て非なるもの。同じだけど、違う。アディは外から来たけど、あいつはこの世界にいた」
「……何を?」
「わ、わかんない。けど、多分、同類というか、親戚というか、なんか、そういう、うん」
などとアディは勝手に納得しているようだが、それで戦況が好転するわけではない。
「確かに離れれば攻撃の勢いは弱まる。だが、だからといって逃げられる状況でもないだろう。我がギルドの、無料でコキ使える下っ端を得るためなのだからな」
両手に炎を灯して、ベオが球体を睨みつける。
「……まつろわぬ神か」
そうして呟いた一言は、恐らくは無意識だったのだろう。ベオ自身も、その言葉に気が付いていないようだった。
「だが、どちらにしてもこのままではいずれ負ける。取れる手段は多くはないが」
ベオがルクスを見る。
どうやら彼女も同じ考えのようだった。
「そうだね。一か八かで、やってみよう」
「お前はいつもそれだな」
「……勝機は?」
「あるさ。……奴があの時戦った魔王と同種の存在であるのならばな」
ルクスとベオがお互いに頷きあい、それを見たアディが少し遅れて察する。
「……あ、あの時と同じってことは」
「アディ、奴を抑え込め。今回は私が露払いをして、突入するのは」
「僕の役目だ」
ルクスが構える。
光源など殆どない闇の中で、黎明の剣が強く輝きを放った。
「き、危険だよ?」
「今まで危険でないことがあったか?」
「あ、確かに。……それじゃあ、アディにできることは」
一斉に、アディの周囲の虚空から何かが染み出してくる。
青白く透き通った触腕を持つクラゲのような何か、同じ色のウーズ。それらは一塊になって体積を増やしていく。
「あ、あの時は夢中だったからなんか大きいの出せたけど、今はこれが限界、かも」
「充分だよ、ありがとう。相手の動きを抑え込んでくれればいいから」
「う、うん。が、頑張る! ミラさんの友達を助けるためだもんね」
アディの召喚したそれらが、不気味に蠢く。
常人が見ればとてもではないが味方には思えない、穢れの塊と呼んでもいいようなそれらは、ルクス達にとっては頼りになる戦力だ。
「まずは私が全力で一発をぶち込む。ルクスは再度飛び込め」
「お前達、何をするつもりなんだ……?」
それまで呆然と話を聞いていたミラが口を挟んだ。
「見ての通りだ、ルクスが黎明の剣で奴の目玉を切り裂き、内部から破壊してやるのさ。あの手の生き物には、これが一番効く。経験則だがな」
「無謀すぎる! それに近付いてもあの衝撃波が……!」
「そう思うなら手を貸せ。私達は勝機があってやってるが、お前が手伝えばもっと確率が上がる。……奴を助けたいのだろう?」
ベオの言葉は強く、有無を言わせぬ態度だった。
同時に、不思議と人の心を奮い立たせる、そんな力が籠った声だった。
ルクスとて同じだ。
これまで幾つも無謀な戦いを潜り抜けてこれたのは、このベオの声があったからに他ならない。
彼女がそう言ってくれるだけで全身に力が入り、高鳴る心臓の鼓動は黎明の剣と共鳴して強く輝かせる。
「ミラさん。あの子を、救いましょう」
「……それは、シェーラが人造兵だからか?」
「違いますよ。助けを求めて、生きようとしているからです。貴方も、あの子も」
シェーラの問いかけに、ルクスははっきりとそう答えた。




