作られた命の使い方
ルクス達のギルド。
オーウェンが連れてきたミラから、今しがた全ての話を聞き終えたところだった。
彼女が言うには、シェーラは彼女が『お父様』と慕う人物によって生み出された人造兵。彼の目的である『秘宝』のために今回の事件を巻き起こしていたのだという。
「それで、そのお父様とやらの目的が」
ソファにだらりと寝ころんだまま、ベオがそう口にする。その続きを、ミラが答えた。
「彼の娘である、本当のシェーラの蘇生だ」
「……本当のシェーラってことは……つまり、俺達が見てきたあの子は」
エリアスが尋ねると、ミラは静かに頷く。エリアスの顔色は蒼白といってもいい。お父様、ニコラス博士が何をしたのか気が付いているのだろう。
「実の娘と同じ顔の人造兵を、造ったってことかよ」
「……そうだ」
くぐもった声で、兜の下からミラが答えた。
「ニコラス博士か」
オーウェンが咥え煙草をしながら、話し始めた。
「元々は騎士団所属の研究者だ。かなり優秀な人物で、研究内容も多岐に渡る。色々な場所に顔を出してたみたいだな。……英雄計画の現場にも」
一瞬、オーウェンがルクスとアディを見た。
心臓がチクリと痛む。彼のいう英雄計画とは、ルクス達がかつていたあの場所のことなのだろう。
「だが、魔王戦役で妻と子を喪った。それから職を辞して、何処で何をしていたのかと思ったら。まさかそんなことをしていたとはな」
「で、でもでも、酷い扱いをするぐらいなら、どうしてシェーラちゃんを造ったのかな? も、もし道具にするためなら、娘さんの顔にする必要は」
「まー、予想だが。最初はそれで満足しておくつもりだったんだろう。だが、顔を似せただけの別人だ。……次第に実の娘との差異に、心が軋んでいく」
アディの疑問に、オーウェンが答えた。ミラはその辺りの事情は知らないのか、それに対しては何も言うことはなかった。
「じゃあ何か? 自分で代わりとして生んどいて、やっぱり思ったのと違ったから次は別の手段ってことかよ! そんなふざけたこと……!」
「それが許されるのが、人造兵。人間によって生み出された作り物の命」
「だからって!」
「わかってるよ。エリアス、ありがとう」
エリアスの怒りは、ルクスにとっては救いだった。彼がこうして怒ってくれているだけで、心が軽くなる。
そして恐らくこのミラという少女は、シェーラにとってそういう人物だったのだろう。
「……わたしは、弱い。シェーラのことを大切にしてきたつもりだが、ついぞ彼女をニコラス博士から引き離すことができなかった」
「どうしてだ?」
尻尾をパタつかせながら、ベオが問う。
「本人がそれを望んでいたからだ。シェーラにとっての希望は、父であるニコラス博士に褒められ認められること。……本人が言うには、少なくとも幼少期は仲のいい親子だったそうだ」
「その時の思い出をずっと引きずってってことか? ……惨い話だ」
「で、でもアディはちょっとだけ、ちょっとだけわかるかも。アディも、アディもルクス君との思い出で頑張って生きてきたから」
アディの言葉にルクスも心の中で同意する。
英雄アレクシスに憧れて、それだけを望みに生きてきた。
今でこそ違うが、ルクスの泥の中の日々を支えてくれたのはたったそれだけの小さな希望だ。
恐らくはシェーラにとってはそれが、父と過ごした幼少期の思い出なのだろう。
「わたしは、わたしとイングリッドはシェーラの友達だ。彼女の明るさに救われてきたんだ! だから、頼む……!」
「随分と都合のいい話だな」
と、そう口を挟んだのはベオだった。
ソファから立ち上がり、ミラの前に立つ。
「お前達は私達の邪魔をしてきたばかりか、あの貴族からも物を盗んだのだろう? それが今になって助けを乞うなど」
「虫のいい話なことは理解している。でも、わたし達にはもう縋れるのが貴方達しか……!」
兜の下の声は、くぐもっていても涙に濡れていることがすぐにわかった。
それを聞きながらも全く表情を崩さず、ベオは両腕を組んでその場に立っていた。
「……だが、考えようによっては都合のいい話ではある。私達にその『秘宝』と、体のいい雑用係が手に入る」
その直後、ニヤリと笑ってルクスを見た。
「その博士とやらとチンピラを叩きのめしてそれだけの報酬なら、悪い話ではないな。ギルドマスター?」
「そうだね、行こう。彼女を助けに」
「それは人造兵だからか?」
意地悪く、ベオが尋ねる。
彼女はそうやってルクスの意志を確認し、道を踏み外さないように矯正しようとしてくれていた。
「違うよ。誰であっても、助けを求めているなら助ける。それが僕達のギルドだ」




