悲壮な伝令
「これで一通り片付いたか」
そういって、オーウェンが辺りを見渡す。
周囲には数名の亜人が転がっており、それらを青年達が急いで拘束している。
彼等は当然、ルクスのギルドの構成員ではない。ミリオーラで活動する、別のギルドの者達だ。
その中の一人、彼等を束ねるリーダー格の男が指示を終えてオーウェンの元に小走りに近づいてきた。
「ご協力、感謝します」
「いや、構わないさ。困ったときはお互い様だ」
彼等とルクス達は、同じミリオーラで活動するギルド同士ということもあってか、ある種の提携を結んでいた。
人手が必要なときは彼等の力を借りる。その代わりに、彼等だけではどうしようもないような荒事の際にはルクス達から出向していくといった形だ。
ミリオーラは大都市というほどではないが、それでも狭くはない。どうしても一つのギルドだけでは、治安を維持することは難しい。
「昔はこういうのも、騎士団がやってくれたんですけどね」
「……ああ、そうだな」
手早く倒れた者達を縛り、一か所にまとめる男達を見ながら、オーウェンは煙草を咥えて火を付けた。
「今となっちゃ、そんな余力は騎士団には残されてないさ」
「各都市に派遣されてくるのはお飾りみたいな書類仕事担当が数名、ですからね」
「それだって馬鹿にはできないがな。そういう奴等がいてくれるから、俺達の事後処理は圧倒的に楽になっている」
ギルドの活動は、あくまでも騎士団が許可を出す形で行われている。
ある意味では手柄の一部を彼等に吸われていることにもなるのだが、同時に面倒や国とのやり取りの一部を省略してもらっている形でもあった。
「そうはいっても、元はと言えば連中の力不足の所為で……」
「滅多なことは言うもんじゃねえよ」
少しだけ低い声色でそう言ってから、オーウェンが紫煙を吐き出す。
ギルドの青年も自分の言葉の過ちに気付いたのか、そこで口を噤んだ。
「例えガタガタでも、秩序が維持できてるならそれが一番だ。……血が流れないに越したことはないだろ」
「……かも知れませんね」
オーウェンより十は若いこの男は、素直にその言葉を受け入れることはできないようだった。
「一瞬は大人しくなったが、亜人達の暴走もまだ収まっていない」
ウィルフリードが起こした事件以降、亜人達による散発的な攻撃行動が増えている。彼の計画は失敗し、全てを失ったが、それでも彼がくべた薪は燻り続けていた。
「オーウェンさんは、ギルド・グシオンの行動。ウィルフリードのやったことが間違っていたと思いますか?」
「知らんよ」
たった一言、オーウェンはそう返した。
彼の言葉を全て否定しきれなかったのは、オーウェン自身も答えに悩んでいたからだ。
今起こっていることはなんだ?
騎士団が引き揚げ、それまで差別を受けてきた亜人達が少しずつ人に牙を剥いている。
その引き金となったのは魔王による災厄だが、それが全てではない。そんなことはあくまでもきっかけに過ぎず、それまで溜まっていた淀みが噴出しただけの話だ。
そしてそれらを先導した者達は今、何をしている?
自分達の庭に引きこもり、それ以外の防備を薄め、結果として起きているのは被害者同士の奪い合いだ。
「こんなご時世だから、怪しい奴等も次から次へと出てきますし」
「怪しい奴等?」
「ええ、はい。魔王を名乗るギルドマスターがギルドを作ったって」
「酔狂な奴もいるもんだな。このご時世、下手したらその名前を使うだけで潰されるぞ」
「注目を集めたいってのも理由としてはあるんでしょうねどね。ただ、そういう変な連中がのさばること自体が……」
「ギルドマスター! オーウェンさん!」
血相を変えて、彼等のギルドの団員が駆けてくる。
オーウェンも彼も、その理由を尋ねる必要はなかった。
少し離れたところから、こちらに駆けてくる巨大な姿があった。
その大きな影には見覚えがある。
つい先日、オーウェン達が捕えていた少女だ。駆動鎧をまとった彼女が、全力でこちらに向かって走ってきていた。
「なんだ、あいつは!」
「いや、大丈夫だ」
逸る若者達を、オーウェンが制する。
「俺の客だ。取り分は後でもらいに行くから、そいつらの護送を頼む」
「え、あ……はい」
素直に頷いて、彼等は言われた通りに捕えた亜人達を引っ立ててミリオーラの方へと歩いていく。
そこに丁度、見上げるほどの大きな鎧に包まれた影が、オーウェンのすぐ傍まで辿り着いた。
「オーウェン殿! オーウェン殿!」
くぐもった声は涙交じりで、時折しゃくりあげる声も交じっている。
オーウェンを見たことで安心して気が抜けたのか、大きな音を立てて駆動鎧が膝をつく。
例え駆動鎧による肉体の強化があっても、ここまでずっと走って来た負担は相当なものなのだろう。
「何があった? 落ち着いて話してみな」
「……シェーラが、イングリッドが……!」




