悪い奴じゃない
「そこまでだ、そこまで」
決着がつくと同時に、離れたところから声がする。
視線を向けてみればそこには、オーウェンに連れられた鎧姿のミラが立っていた。
その少し後ろには、ベオと談笑しているイングリッドの姿もある。
「……余計なお世話かも知れないけどな、お前さん達。もうちょっと色々と話し合いをした方がいいんじゃないかい?」
煙草をふかしながらそんなことを言って、オーウェンがミラを前に促す。
巨大な鎧がシェーラに近づいていき、尻餅をついたままの彼女に対して手を差し伸べた。
「……シェーラ、帰ろう」
鎧の中からくぐもった、それでも優しさが感じ取れる声がする。
「この人達は悪い人達じゃない」
シェーラはそれを聞いて、しばらく黙っていた。
ルクスと同じ不思議な彩色を持つ瞳が揺れる。
やがて彼女は目元を強く拭い、自分の足で立ち上がる。
ルクスの前に大股で歩くと、深々と頭を下げた。
「ごめんなさい」
「いや、僕は別に……。ただ、ヤルマさんの件が」
「その辺りに関しては、ボクが彼女のお父様と交渉するよ」
会話に割って入ったのは、イングリッドだった。
「お父様はいわば、ボク達の雇い主だ。勿論、その人を槍玉にあげてボク達の罪を見逃せなんて言うつもりはない」
「こっちとしては、古文書が戻ってくればそれ以上を追求するつもりはありません」
シェーラやミラ、そしてイングリッドの態度を見るに向こう側も訳ありということだろう。
それに対してルクスも、無駄に事を荒立てようとするつもりはなかった。
古文書に載っている願いを叶える秘宝とやらについては、上手いところ誤魔化すしかないだろうが。
「……助かるよ」
イングリッドも頭を下げる。
それに倣ってミラとシェーラももう一度、深々とお辞儀をした。
「お前、悪い奴じゃないな」
シェーラが前に出て、ルクスにそう声を掛けた。いつの間にか、表情には笑顔が浮かんでいる。
「それに凄い強かったし。あたしも同じ人造兵だから、頑張れば強くなれるかな?」
「……なれますよ」
そう答えたルクスだが、内心は少しばかり複雑だった。
ルクスは自分自身が強いとは思っていないし、何よりも人造兵であるからという理由で彼女に剣を握ってほしくはない。
それでも、今はそう返答を返すことしかできなかった。
「やった! お前には負けたけど、また別の方法でお父様に褒めてもらうんだ!」
シェーラは無邪気にそういって、踵を返す。
その後に続くイングリッドの表情には全く気付く気配もなく。
「これで一応は、終わりってことかね?」
それまで黙って話を聞いていたオーウェンが、ルクスの背中越しに声を掛けた。
「恐らくは。彼女達のお父様のことは気になりますけど」
「どっちにせよ、俺達が口を挟むことじゃないな」
そういいながら、オーウェンは煙草に火をつけた。その表情は明るいものではなく、恐らくは彼女達のこれからを憂いているのだろう。
「ミラさんを連れてきたのはオーウェンさんですか?」
「ああ。ベオの嬢ちゃんから話を聞いてな。お前さんと決闘をするって知ったら、必死に騒ぐもんだから」
「どうしてでしょう?」
「殺されると思ったんじゃないか? 友達を護りたくて一生懸命だったんだ。見過ごせなくてな」
「……おかげで助かりました」
「みたいだな」
そういってオーウェンは、彼女達が去っていった場所を見つめていた。
ルクスも同じように、その行く先へと視線を向ける。
全ては解決した。後はイングリッドを信じて待っていればいい。
そのはずなのに、妙な胸騒ぎがするのは、ルクスだけではないようだった。




