『誰か』になるために
そしてルクスとシェーラは、ミリオーラの郊外にある草原で対峙する。
どうやらイングリッドは店に残ってベオと何やら話をしているようで、ここにいるのは二人だけだった。
「これが三度目の正直……!」
シェーラが剣を抜く。
「シェーラさん、僕と貴方が戦う理由がありませんよ」
「うるさい!」
シェーラが駆け出す。問答無用とはこのことだった。
流石人造兵とでもいうべきか、小柄な体躯は一気に加速して、一瞬でルクスの目の前に躍り出る。
そのまま振り上げられた剣を、しかしルクスは冷静に見きって避けて見せた。
「このっ!」
「落ち着いてください! まずは話し合いから……!」
「最初から、話し合いの余地なんて……ない!」
横薙ぎの一太刀が、完璧にルクスを捉える。
とはいえ、ルクスもこのままただでやられてあげるわけにはいかなかった。
咄嗟に黎明の剣を抜き払い、その輝く刀身でシェーラの一撃を受け止める。
鋭く速度の乗った太刀ではあったが、今のルクスの体幹を揺るがすほどの威力はなかった。
「こいつ……!」
「少し落ち着いて!」
下から上への斬り上げが、シェーラの持つ剣を真上に弾く。
そのまま態勢を崩して、シェーラはたたらを踏んで後退した。
「戦う理由なら、ある!」
剣を持ち直し、改めて構えながらシェーラが叫ぶ。
「ミラさんなら無事です! もうこんなことはやめてくれれば、ちゃんと解放しますから!」
「そういうことじゃ……ない!」
再度の突撃。
速度はある、踏み込みも鋭い。
だが、シェーラはルクスに比べると未熟。
ルクスはその太刀を受け止めて、軽く押し返した。
「くっ……! あたしは、お父様に褒めてもらうんだ!」
「お父様……?」
「そうだよ! 同じ人造兵のお前を倒せば、お父様はあたしを褒めてくれる!」
刃が交差する。
そのお父様とやらが、彼女の創造主か今の主ということなのだろう。
「だからそうして僕を!」
二人は何度も剣を交差させながら、言葉を交わす。
といっても、速度はあれど直線的でしかないシェーラの攻撃をいなすことは、ルクスにはそれほど難しいことではない。
その気になればこのまま一気に倒してしまうこともできるが……。
「お前が、凄い人造兵だからだ!」
「す、凄いっ……?」
いきなり出てきた思いもよらない言葉に、ルクスの動きが鈍る。
一瞬、シェーラの放った突きが頬を掠めて赤い血の線を走らせた。
「お前はギルド・グシオンの反乱を止めたり、他にもなんか忘れたけど色々やった凄い人造兵だって聞いた! そのお前を倒せば、あたしはもっと凄い人造兵になれる」
「……それを貴方の『お父様』が望んでいるのですか?」
「知らない! でもそうすれば多分、褒めてもらえる。あたしは何をやってもお父様に怒られるから、そのぐらいのことをしないと……!」
「そんなことのために……!」
そう口にして、ルクスは後悔した。
ルクスだって彼女と変わらない。
誰かに認められて、居場所を貰うために。
『誰か』になるために必死で戦ってきたのは、他でもないルクス自身だった。
「あたしは、負けない……!」
シェーラが剣を強く握り込む。
それだけで次に来る一撃の重さが想像できた。
同時に、それは今のルクスを打ち破るだけの威力がないことも。
或いは、シェーラ自身もこれまでの戦いでそれを理解しているのかも知れない。
それでも彼女に退路はない。
ルクスを倒して、父に認められる。それだけが自分の成せる正しいことであると言い聞かせて。
「お前を倒して、お父様に!」
シェーラが突撃する。
先程と変わらない踏み込み。
速度も鋭さも段違いだが、それでもルクスには及ばない。
冷静にその一撃を受け止める。
黎明の剣は、シェーラの全力の一太刀をいともたやすく受け流す。
「そんな……!」
「とにかく、僕達の話を聞いてもらいます!」
そのままルクスは、シェーラの身体を押し戻す。
彼女が態勢を崩したところで持っていた剣を弾き飛ばし、そのままシェーラは草むらに尻餅をついた。
そこにルクスが剣を突きつける。
人造兵同士の戦い、その勝敗はあっさりと決したのだった。




