うきゅ
剣を構えたルクスに、アディが戸惑ったまま助けを求めるような視線を向けてくる。
「残念だけど、戦うしか……!」
どちらにせよ、彼女達はヤルマから書物を奪っている。ここで見逃す理由はなかった。
イングリッドが魔法を唱え、無数の光弾が降り注ぐ。
「早いっ!」
「こいつ!」
忌々し気に、その数発をフィンリーが槌で打ち払う。更に襲い来る魔法の弾丸を、アディが彼女の操るスライム状の物質であるウーズを広げて防いだ。
その隙に、今度はミラが前進する。
アディの防御を貫こうと槍を振りかぶったその間に立ったのは、怒りを滲ませたフィンリーだった。
「フィンリーさん!」
「嬉しそうな声出すな、鬱陶しい! こいつが……!」
金属がぶつかる轟音と、衝撃が広がっていく。
突き出された槍を、フィンリーの槌が側面から叩いた衝撃だった。
駆動鎧の攻撃をいなしてなお、フィンリーの態勢は崩れない。同様に、ミラも全く堪えた様子もなく彼女に再度武器を振るう。
「一番ぶん殴り甲斐がありそうってだけよ!」
鈍い音がして、フィンリーの槌が駆動鎧の腹に直撃する。
「その程度!」
だが、内部のミラにはさしたるダメージもないようだった。少しよろけたが、すぐにまた態勢を立て直して武器を構える。
「ちっ」
舌打ちをして、フィンリーは攻撃を再開する。
そこに降り注ぐイングリッドの魔法による援護を、アディが全て受け止めるようにして防いだ。
「やっぱり、君は脅威だね」
「い、イングリッドさん……! アディはあんまり戦いたくないけど、ルクス君やフィンリーさんを傷つけるなら!」
目を見開き、アディが攻撃態勢に入る。
イングリッドは風の魔法を発動させて、アディが生み出したクラゲのような物体の触手を逃れ、光弾によってそれらを迎撃していく。
そして、ルクスの目の前には一人の少女。
自身と同じ、不思議な光彩を持つ瞳。
人造兵たる彼女が、その武器を構えて真っ直ぐにルクスに向かって駆け出していた。
「覚悟おおぉぉぉぉ!」
「そんな単調な動きじゃ!」
二つの剣が交差する。
ルクスの持つ黎明の剣が、込められた力に応えるように魔力による強度を高める。
「こいつ、やっぱり強い!」
シェーラは一度距離を取って、再びルクスに正面から向かってきた。
確かに人造兵である彼女は、その身体機能の多くが戦闘に特化しているのかも知れない。
肉体の強度も、人間よりは高く、蓄積した戦闘経験をすぐに実戦に生かすことができる。
だが、それでもその動きはまだまだ素人に毛が生えた程度のものでしかなかった。
何度目かの打ち合いの末に、シェーラを弾き飛ばす。
一撃の重さも、取ってくる手段の多さも、ルクスがこれまで死闘を演じてきた相手の比ではない。
「くっ、このっ!」
例え旗色が悪くても、シェーラは退くこと選択しない。
「強いけど……!」
「あんまりしつこいと……!」
下から上に、シェーラの剣を跳ね上げる。
そのまま一歩踏み込んだルクスの一撃を、シェーラは紙一重で交わしながら距離を取った。
「っとぉ!」
だが、彼女は気付いていない。
今のはルクスが致命傷を避けるための攻撃をしたから、避けられたのだと。
もし殺すつもりならば、そのまま胸を貫いて絶命させることができた。それをしなかったのは、彼女達が本当に悪人であると思えなかったからだ。
「まだまだぁ! あんたを倒して!」
「どうして僕に固執するんです! 同じ人造兵なら!」
「なおさらだよ!」
「どういう……!」
一瞬の隙を突いて、シェーラの剣が大きく振るわれた。
ルクスは態勢を低くしてそれを避けると、再び彼女の剣に黎明の剣をぶつけていく。
「あたしと同じ人造兵のあんたを倒せば、お父様が褒めてくれる!」
「そんな理由で!」
ルクスの一撃が、シェーラを捉える。
彼女は辛うじてそれを剣を盾にすることで防いだが、その威力を殺しきることはできず大きく体勢を崩しながら後退した。
「わっ、と……!」
「シェーラ!」
ミラの悲鳴のような声が、鎧の下から聞こえてくる。
彼女は槍を無茶苦茶に振り回して、フィンリーを突き放すとルクスとシェーラの間に入り込む。
英雄アレクシスが愛用した、黎明の剣。
本来ならば英雄が持つべきであるレリックの強度と切れ味は凄まじく、駆動鎧の装甲を切り裂き内部へとダメージを与えていく。
「うっ……!」
鎧をまとっているミラの身体を傷つけたのだろう、中から悲痛な声が響いた。
それでもミラは駆動鎧を起こし、決死の覚悟を持って槍を掴んで振り回す。
「イングリッド!」
彼女が叫んだ。
アディと戦っていたイングリッドは、すぐさま魔法を唱える。
それにより強い閃光が辺りに走り、彼女と対峙ていたアディの目が眩んだ。
「うええぇ?」
間抜けな悲鳴を上げるアディから距離を取り、すぐにイングリッドはシェーラに近づいていく。
「ちょ、ちょっと! ミラは!?」
「そのミラと話し合っていたんだよ、何かあったときは君を最優先に護るとね」
有無を言わせぬ態度で、イングリッドはシェーラを掴んでその場から離脱していく。
どうやら風の魔法による加速をしているようで、その速度はとてもではないが走って追いつけるようなものではない。
追撃を諦めたルクス達は、後に残されたミラへと視線を向ける。
三人に囲まれた彼女は、潔く槍を立てて無抵抗を示す。
「……二人を逃がせたのなら、もう抵抗する理由はない。お前達の好きにしろ」
「好きにしろって言われても……」
困ったように、ルクスはアディに視線を向ける。
成り行きで彼女達と戦うことになったが、どうにもルクスには彼女達が本当に悪人には思えなかった。
勿論ここで命を奪うなんてこともできはしない。どうするべきかと、思案を巡らせる。
「だが、わかってほしい。わたし達も世の中を混乱させたくてこんなことをやっているわけではない。全ては……うきゅ!」
間抜けな声を上げて、駆動鎧の巨体が崩れ落ちる。
見れば、そこには彼女の頭に槌を振り下ろした姿勢のフィンリーがいた。
「なんであんたのくっだらない話を聞かないといけないのよ。敵がいなくなったなら、あたしはもう帰りたいの」
「ふぃ、フィンリーさん……」
「こいつらを倒しても評価の一つにもなりゃしない。あんたらの客なんだから、責任持って預かりなさいよ」
不機嫌そうにそういい捨てて、崩れ落ちたミラを残してフィンリーは去って行こうとする。
「ったく、あんたらといると本当……ろくなことがないわ」
「あうあう」
最後に乱暴にアディの頭を撫でてから、彼女は部隊の面々と合流して本当に去って行ってしまった。
後に残されたルクスとアディは、一先ず二人でミラを自分達のギルドに運ぶことになるのだった。




