ボコボコにする
ルクス達が戦場に出てから三日ほどで、フェンリスとの共同作戦は特に大きな問題もなく終えることができた。
仕事の内容としてはこの街の近くにある遺跡群に発生した、大量の魔物の討伐だった。確かにフィンリーの部下達には荷が重いかも知れないが、ルクスとアディにとっては大した敵でもない。
報酬も受け取り、ルクスとアディは来た時と同じようにポータルの前で別れの挨拶を済ませている。
「ま、今回はいい働きをしたんじゃない」
「ふへへっ……フィンリーさんに褒めてもらって、嬉しい」
「ありがとうございます」
とはいえ、別にルクスとアディだけで戦ったわけではない。フィンリーは部隊を的確に指揮しながら、本人も愛用の槌を振り回して多数の魔物を薙ぎ倒していた。
その実力は傍から見ても相当なもので、ルクスだって正面から戦って勝てるかと問われれば怪しいほどのものだ。
「ウィルフリードを倒したってのは伊達じゃなかったみたいね。……あんた達と戦う日がこないことを祈ってるわよ」
「……戦う日、ですか?」
「お互いギルドなんだし、何か大事があればそういうこともあるかも知れないって話よ」
そう語るフィンリーは、まるでこれから起こる何かを、ルクス達に伝えようとしているようにも見えた。
もっとも彼女が本当にそう思っているかはわからないし、ルクスはそんな日がこないことを願っている。
「る、ルクス君とフィンリーさんが喧嘩したら……アディはどっちに付けば……? フィンリーさんには恩もあるし、でもでもルクス君の方が……」
「あんたはそっちのギルドのメンバーでしょうが!」
「あう」
こつんと頭を軽く小突かれる。恐らくは、それはフィンリーなりに彼女に気合を入れてあげたということだろう。
アディはしばらく呆然としていたが、やがては決意を込めたような表情をする。
「その日が来たら、アディがフィンリーさんと戦います。フィンリーさんを止めて説得して、戦いをやめてもらいます」
「……頑張ることね」
意外にもフィンリーがそれに対して、憎まれ口を叩くことはなかった。
これで話も終わり、ルクスがアディを伴ってポータルに入ろうと踵を返したそのとき。
広場の外側から、人々のざわめきと共にやかましい叫び声が響き渡った。
「ちょっと待ったあああぁぁぁぁ!」
その甲高い声には聞き覚えがある。
平和な広場のひと時を完膚なきまでに破壊しながら、シェーラがそこに現れた。
「君は……!」
「イングリッドさん?」
シェーラの少し後ろを、エルフの魔導師と駆動鎧を着こんだ人物も付いてきている。彼女達は流石に、シェーラほどの勢いはないがそれでも街の人達に不安を与えるには充分な迫力を持っていた。
「何よこいつら? 知り合い?」
呆れた顔で、フィンリーがそう尋ねてくる。
「……まぁ、一応」
知らない仲ではない。
親しい仲でもないが。
とはいえ、シェーラ達には聞かなければならないこともある。
「シェーラさん! ヤルマさんを襲ったのは、貴方達ですね?」
「ヤルマ……?」
シェーラが首を傾げる。
「誰?」
と、隣にいる駆動鎧を着ん込んだ少女、ミラに尋ねた。エルフの女魔導師イングリッドの話をベオ達から聞いていたように、駆動鎧の戦士ミラのこともオーウェンから聞き及んでいる。
代わりに、イングリッドが前に出て話し始めた。
「如何にも、彼を襲ったのはボク達だ。彼の持っている古文書に用があったのでね。……田舎貴族が持っていても意味はない、と言い切れるほど悪人になったつもりもないが」
「イングリッドさん!」
名前を呼ばれて、イングリッドがアディを一瞥する。
「残念だけどそういうことだよ、アディ君」
「だったら、願いが叶う秘宝っていうのも本当に……?」
「さてね。ただ、それに近しいものの存在は突き止めている。ボク達の仕事は、その障壁になる君達を痛めつけることさ」
「そうだぞ! 仲間達から逸れたのは不覚だったな! 三対二だぞ! 卑怯かもしれないけど、お父様のためだからあたしも手加減しないからな!」
そういって、シェーラが腰に差していた剣を抜き払う。
それを見た広場の人達からは悲鳴が上がり、あちこちに散っていく。
それを見たフィンリーは、周りに残っていた部下達に素早く指示を飛ばした。
「何ぼさっとしてんの! 街の連中を避難させなさい! それから集まってくる衛兵の足止めも!」
そういわれて、フィンリーの部下達は一斉に散っていく。
「どういうつもりだ? わたし達の戦いにギルド・フェンリスは関わりないはずだろう」
「はぁ? あんた馬鹿じゃないの? ここで流血沙汰なんて起きたら、あたしの評価に響くじゃない! だからここで!」
目配せをして部下に持ってこさせた槌を、フィンリーが構えた。
「あんた達はボコボコにする。いいわね、ルクス、アディ!」
「はい!」
「い、イングリッドさんと戦うのは心苦しいけど……」




