フィンリーとの再会
それから数日、ルクス達の元にはヤルマが賊に襲撃されたとの報告が入った。
幸いにも怪我はなく、古文書が奪われただけで済んだとのことらしい。
そしてヤルマからの話を聞くに、恐らく狙ったのはシェーラ達だろう。ルクスは知らないことだが、一緒にいた女エルフの魔導師にもベオとアディは覚えがあったようだった。
そしてそれによって、ある可能性をベオが唱えた。
ひょっとしたら、彼のいう『願いを叶える秘宝』は本物なのではないかというものだ。
というわけで……古文書を奪われたヤルマが可哀想という理由もあってか、これまでよりも頑張って探してみようといった空気にはなったものの、普段の仕事を蔑ろにするわけにはいかない。
そんな事情があるので、ルクスとアディは現在、二人でミリオーラから少し離れたところにある街へと、ポータルを使いやってきていた。
「ふへへっ、ルクス君とお出かけ……」
ポータルの魔法陣を出てその街の広場に現れると、隣でアディが嬉しそうにしていた。
ポータルに使う魔石は決して安くはなく、財政が安定していないルクス達のギルドではそれほど多様できるものではない。
にも関わらず今回、それを使ってこの街にやってきた理由――。
「遅いわよ」
ツンと澄ましたような声が、ポータルを出てすぐそこにあるベンチから聞こえてきた。
長い金髪に、切れ長の目。見た目は相当な美人だが、何処か厳しめな印象を受ける美女。そしてその印象は間違ってはいない。
「フィンリーさん!」
軍服を着て、ベンチに座り苛立たし気に足を組む彼女の元に、アディが小走りで駆け寄っていく。
「ちっ……」
立ち上がり、纏わりつくアディの頭をぐりぐりと煩わしそうに撫でまわしながら、フィンリーは舌打ちをしながらルクスを睨みつけた。
「あうあうあうあう」
あんまりな扱いをされているのだが、当のアディは嬉しそうだった。
「なんでこいつを連れてくんのよ」
「フィンリーさんがいるから、アディが会いたがると思って」
「あたし達がやるのは仕事よ。魔物退治。なんでこいつと慣れ合わなきゃ……鬱陶しいわね!」
「えへへっ……。魔王再誕のときはゆっくりお話もできなかったので、アディとしてはこの機会にフィンリーさんと交流を深めたいとか思ったりしている次第です。それに改めてルクス君のことも紹介したいなとか、そういう意図もあったりなかったり……」
「別にあんたに紹介されなくても知ってるわよ、こいつのことは」
ぎろりと、先程よりも迫力を込めてフィンリーが睨みつけてきた。
「随分とまぁ、有名になったみたいじゃないの」
言葉こそルクスを祝福するようなものだが、当然そこにはそんな好意的な意図は含まれていない。いや、フィンリーの性格上多少はあるのかも知れないが、少なくともそれが表に出ることはなかった。
「あはは……やっぱり、忙しいですか?」
「ええ。あんた達のおかげでね」
ルクスがウィルフリードを倒したことで、ギルド・グシオンは解散した。
二大巨頭と呼ばれた大規模ギルドの片割れの、急な解散。それによる弊害の大半は残った方であるギルド・フェンリスに降りかかっていた。
今回の合同での魔物討伐も、依頼が詰まりすぎて手が足りなくなったフィンリーが、「あんた達の所為なんだから」と連絡を寄こしたのが発端だった。
勿論、それを見たベオは上機嫌に笑っていたが、敢えてそんな情報を伝えて彼女の機嫌を悪くする必要もない。
「……とはいっても、こっちとしちゃ目障りだったウィルフリードがいなくなった挙句、仕事も増えたし悪いことばっかりじゃないけどね」
「えっと、じゃあ……なんで怒ってるんですか?」
「それはそれ、これはこれよ。急にそうなったらこっちも色々と大変だってぐらいはわかるでしょうが!」
八つ当たり的にぐりぐりとアディの頭を揺らす。
「あうあうあうあうあう」
当の本人はやっぱり嬉しそうだった。
ちなみに街の広場の中央でそんなことをやるものだから、街の住民は勿論のこと、周りに控えているフィンリーの部下達も奇異の目を向けているのだが、どうやらその辺りはあまり気にはならないようだった。
「……ま、悔しいけどあんたらが戦力的に役に立つってのはわかってるから。精々扱き使わせてもらうわよ」
「僕達で役に立てることなら、頑張りますよ」
「あ、アディも……ルクス君とフィンリーさんが喜ぶなら、全部ごくりと食べちゃってもいいかなって……でも、あんまり頑張りすぎても引かれるかもって心配だったり……」
「なんでもいいわよ、楽してあたしの出世に貢献してくれるならね」
今度は優し気に、フィンリーがアディの頭の上にポンと手を置く。
「ふへへ」




