願いを叶える秘宝
結論からいえば、ゴードン家の地下にすぐにお金になるようなものは見当たらなかった。
ルクスとエリアスはあれからヤルマを呼びに行ったのだが、隠された倉庫にあったのは大半が書物や古いガラクタばかりで、売っても幾らにもならないというのが本人の見立てだ。
ヤルマ自身はかなり落胆していたが、仕事自体はやったのだから報酬を貰わないわけにはいかない。ルクスは少しばかり心が痛んだのだが、その辺りはエリアスがしっかりと取り立てていた。……ルクスがそうならないために、予めベオに言い含められていたとのことだ。
それから数日後、夕立亭。
ルクスは再びヤルマに呼び出されて夕立亭の奥、ルクス達のギルドが依頼を受ける際に使う席に座って彼を待っていた。
今日はエリアスはおらず、ルクスとベオが応対している。
「しかし、何故ギルドに呼び出さずここなのだ?」
と、ルクスの隣に座ってジュースを飲んでいるベオがそんなことを口にする。
「さぁ。なんか、あんまり聞かれたくない話みたいだったから。この時間の夕立亭はあんまり人がいないし」
時刻は昼を過ぎたころ。ちょうど昼食時が終わって、店は夜のための仕込みの時間に入っている。
実際店内を見渡してみても、掃除をしているエレナと厨房のサンドラしかいない。
「まさか前回の依頼の金を返せとか言うんじゃないだろうな?」
「多分違うと思うよ。あの時は、そんなにお金を渋ってた様子もなかったし」
落胆こそしていたが、報酬はしっかりと払ってくれた。もしここで返せと言ってくるようなら、そのときにもう少し何か文句をいっていただろう。
「どうしてわざわざ特別に話を聞くことにしたんだ?」
実際、わざわざギルドとは別の場所に呼び出して依頼をするというのは少しばかり怪しさもある。そこからトラブルに発生したという事例も、別のギルドではなくはない話だ。
「一応、ヤルマさんにはお世話になったから。ベオに会えたのもそのおかげだし」
「……ふん」
ルクスの曇りなき言葉に、ベオはそれ以上は何も言うつもりはないようだった。むしろ何処か上機嫌で、尻尾をぱたぱたと振っている。
そうやってしばらく会話をしていると、身なりのいい小太りの中年が入ってくる。
彼はエレナと少しだけ会話をしてから、彼女に案内されてルクス達の元にやってきた。
ルクスとベオの向かいに座り、エレナに飲み物を注文する。
そしてベオが何用かと尋ねる前に、向こうから口を開いたのだった。
「先日、お前には我が家の倉庫を発見してもらったな?」
「ええ、はい。それで、何かありましたか?」
「うむ。あの祖先が残した蔵書の山にな」
言いながら、ヤルマは一冊の本をテーブルの上に乗せる。
分厚い表紙のそれは、汚れや掠れが目立つがそれでも不思議な重厚感を漂わせている。もっともそれがその書物の価値を証明するものであるかどうかは、ルクスにはわからないのだが。
「なんだこれは?」
「先祖が残した書物だ。ミリオーラ地方に点在する遺跡や古代の残滓をまとめたものとなっている」
「ほう」
ぴくりと、ベオの頭の上の三角耳が反応する。
「そしてこのページなのだが」
ぺらぺらと、少しばかり逸る様子でヤルマは頁を捲る。
それがある一点で止まり、そこにある一文を指さす。
「これを見ろ」
「……えっと、『願いを叶える秘宝』、ですか?」
「その通りだ! わしの祖先は、願いを叶える秘宝の在処が、この辺りの地方に眠ってるというところまで辿り着いたのだ!」
「……はぁ」
熱が入るヤルマとは裏腹に、ルクスは今一つピンと来ていない。
隣を見てみれば、ベオもまた胡散臭いものを見るような目でヤルマとその本を交互に見ていた。
「願いを叶える秘宝だぞ? そんなものが手に入れば、再びゴードン家に栄光を取り戻すことも不可能ではないのだ!」
「えっと、つまりそれを探すというのが……」
「そういうことだ! 流石は元は我が家のメイドだ。話が早い」
得意げにそういうが、実際のところルクスを雇ったのはサンドラの一声だ。
「それを見つけてくれば、報酬を約束しよう! 何、心配はいらん。何せ願いを叶えるというぐらいだからな、金なんて幾らでも湧いてくるだろうよ!」
「ほ、他に手掛かりとかは……」
「それを探すのがお前達の仕事だろうに。地道に聞き込みや調査でも、方法は幾らでもあるだろう!」
などと、偉そうにそんなことを言ってのける。
「もし見つからなかったらどうなるんですか?」
「そのときはそうだな……まぁ、我が家の倉庫で見つかったものをくれてやろう。好きに持って行っていいぞ」
どうやら、それらの品物には殆ど価値が付かなかったようだ。
「……他の依頼を受けながらでもいいなら」
「構わん、わしは心が広いからな。では、頼んだぞ」
エレナが飲み物を盛ってくる前に、ヤルマは本を持って夕立亭を後にしてしまう。
「本気か?」
黙っていたベオが、ルクスを尻尾でペシペシと叩きながらそう尋ねた。
「……まぁ、僕もあるとは思ってないけど」
「幾らなんでも胡散臭すぎる。何が願いを叶える秘宝だ。そんな都合のいいものがあるなら、この世界の大半の問題はとっくに解決しているだろうに」
「ただまぁ、前回の依頼は殆ど成果もなかったのにちゃんとお金ももらってるし、その分のお返しって考えれば」
「お人好しが過ぎる」
その一言で一蹴しようとするが、ルクスはそこに更に言葉を付け加える。
「それに、そういう依頼も面白そうだなって。みんなで調べたり、聞き込みしたりするのも」
「……ふん」
それを聞いて、不機嫌そうな態度は相変わらずだったが、ベオがそれ以上文句をいうことはなかった。
こうしてルクス達のギルドは、仕事の合間を縫って、ヤルマに頼まれた、『願いを叶える秘宝』の捜索をすることになったのだった。




