元職場
シェーラの襲撃から数日後、休暇を終えたルクス達には再びギルドに寄せられた依頼を果たす日々が待っていた。
今日、ルクスとエリアスは亜人達の襲撃を受けて、すっかり焼け落ちてしまったゴードン邸にやってきていた。
「ここがルクスの前の職場かぁ」
「うん。ボロボロだったところを、サンドラさんに拾われて働かせてもらってたんだ。……まぁ、服装はメイド服だったけど」
「マジかよ? ……まぁ、お前は結構似合いそうだしなぁ」
さらっと流されてしまうあたり、どうやらルクスが女の子に見えるのはエリアスも同じ認識のようだった。
目の前にあるゴードン邸は、かつてルクスが働いてきたときの姿は見る影もない。あちこちが焼け焦げた、ぼろぼろの姿で寂し気にそこに佇んでいる。
メイド達が頑張って手入れしていた庭も、野生の動物か、それとも火事場泥棒に入った野盗に踏み荒らされて無残な姿を晒してた。
「しかし、本当に隠し部屋なんてあるのかね? おっさんの妄想だったりしないか?」
門をくぐり、庭に足を踏み入れたところでエリアスがそんなことを口にした。
今回の依頼主は他ならぬこの家の主、ヤルマ・ゴードン。かつてはルクスの雇い主でもあった男だ。
なんでも彼曰く、ルクスがベオと出会ったあの地下倉庫には隠し扉があり、その奥には先祖が残した財宝があるというとのこと。
それを金を借りに行った親類との話で聞いたヤルマが、ルクス達に依頼をしたというのが事の次第だった。
「どうだろうね。僕も何回か掃除したけど、それらしいものは見なかったような……」
「結構金に困ってるみたいだったしなぁ……」
「でも、全く信憑性がないってこともないと思うよ」
「どうして?」
喋りながら、二人は屋敷の中へと入っていく。中といっても天井も崩れているので、太陽の光はそのまま降り注いでいる。
何度も通った廊下が、炎と戦いの余波でぼろぼろになっているのも見るのは、不思議と心が痛む。
「ベオが封印されてた黒の剣も、あの場所にあったんだ」
「あー……古いものをとかを集める趣味があったってのは事実ってことか」
「多分。……まぁ、お金に困って売ろうとしてたみたいだけど」
瓦礫を踏み越えて、目的の場所に辿り着く。
地下へと延びる階段を、足を踏み外さないように慎重にくだっていくと、木でできた扉が見えてくる。
それを両手で押し開くと、ギギギと軋む音を立てて扉が開かれた。
「真っ暗だ……灯りを」
「ちょっと待ってろ。《エンチャント・ライト》」
ぼうっと、エリアスが取り出した短剣に光が灯り、松明のように辺りを照らしていく。
エリアスはそれを適当な位置に立てると、更に魔力を注ぎこんだ。そうすることで光量が増え、室内が明るく照らし出されていく。
それを見ながら、ルクスはぽつりと言葉を零す。
「やっぱりいいなぁ、魔法」
「へへっ、最近役に立つ魔法を覚えたくて、空いた時間に色々と練習してるんだ」
「勉強家だね、エリアスは」
空いた時間を使って、ルクス、エリアス、オーウェンの三人は訓練をすることも多い。それに加えて魔法の勉強をしているというのだから、恐れ入る。
「だろ? 次に何かあったときは、もっと俺を頼ってくれよな」
得意げに言いながら、ルクスの肩を軽く叩いた。
既にエリアスには充分過ぎるほど世話になっているのだが、恐らくそれを言っても彼は納得しないだろう。
「それより、探してみようぜ」
「うん」
それから二人は雑談を交わしながら、倉庫の中を探索していく。
屋敷が焼け落ちた際に持ち出せた品物は殆どないはずだが、ここには少なくともお金になりそうなものは何も残されていない。
恐らくは野盗にやられたのだろう。残っているのはどう見ても価値のない、古い鎧に錆びた剣や盾ぐらいのものだった。
「そういえば、なんで依頼主は直接来ないんだ?」
「何回か来ようと思ったことはあったみたいだよ。でも大きな動物が住み着いてたとか、野盗がいるって噂があるとかでね」
「護衛をつければいいじゃないか」
「それは僕に言われても」
「そりゃそうだ」
恐らくは普通に怖いのだろう。ヤルマからすればここは魔獣が襲ってきたり、亜人達に殺されそうになった場所だ。
安全が確保されない限りきたくないという気持ちも理解できる。
そんなことを話しながらしばらくの間探していたが、それっぽいものを発見することはできなかった。
「なんもねえな」
「そうだね」
ルクスは今、黒の剣が座っていた台座に腰掛けいて、エリアスは錆びた鎧に寄り掛かっている。
「これだけ探しても見つからねえなら仕方ないか。まぁ、一応少しは報酬はもらえるはずだし」
「うん。でもできれば見つけてあげたかったな。ヤルマさん、大変そうだったし」
家も家財も何もかも失った彼は、資金繰りに色々と苦労しているとのことだ。聞いてもいないが、依頼を受ける際に身の上話を聞かされていた。
「そうはいっても、ないなら仕方ないって。今日はルクスとベオさんの思い出の地を見れただけでも……おっと」
話すことに夢中になっていたからか、エリアスが余計に体重をかけたことで、鎧が傾いた。
「あっ」
そのまま派手な音を立てて、鎧が床に倒れれ、握っていた剣や盾、軽く固定されていた兜がガラガラと床に転がっていく。
「いててっ……やっちまった……。まぁ、どうせ誰も来ないし……」
などと悪びれもせず、そんなことをいうエリアスを他所に、ルクスの視線は別の場所を向いている。
倉庫の一番奥、何もない壁だったその場所が低い音を立てて動き始めていた。
「……え? ひょっとして、当たり……?」
エリアスが、壁と鎧を見比べる。
どうやらその鎧が、壁を動かすためのスイッチになっていたようだった。
音は次第に大きくなり、壁が動いてそこに出入り口が現れる。
ルクスとエリアスはお互いに顔を見合わせてから、その奥へと進んでいった。




