ベオの追跡
ルクスがエレナと一緒に出掛けた日。
彼が出ていくのを見送ってから、こっそりとギルドを後しようとする人影があった。
「べ、ベオさん……その、やっぱりついてくのはよくないのでは?」
と、病的なほどに白く、細い身体の、白金色の髪の少女が問いかける。彼女の周囲には、半透明の小さなクラゲのような生き物がふわふわと浮かんでいる。
「別に付いて行くわけじゃないぞ。私も偶然、奴等が行く方向に用事があるのだ」
ベオが答える。
勿論それは嘘で、コソコソと出かけていくのが気に入らないだけだ。
前日のうちに、あの乳女ことエレナがルクスを遊びに誘ったと言う情報は仕入れてある。
「そ、そんな誰にでもわかるような嘘吐かれても」
「うるさい。だったら貴様はここに残っていてもいいんだぞ?」
口では止めながらも、アディも既にお出かけする気満々の恰好をしている。二人とも午後の仕事はどうとかそんな話は、頭の片隅に追いやっていた。
「うぅ……正直ルクス君がどんなデートをするのか気になるところですけど、アディの中の真面目な部分が追跡は良くないって思ってるんです。でもでもやっぱり気になるので、ベオさんが付いて行くからそれを止めるためってていで監視……もとい観察しようかなとか思ってる次第なんですけど、聡いベオさんにこの辺りの思考が漏れていないか不安でなりません……」
「……全部口に出してるぞ……?」
呆れ顔でベオがアディを見る。
とはいえ、彼女能力は監視には最適だ。何せ、アディが召喚するあのうねうねした生き物たちは彼女と感覚の一部を共有できる。
もっともベオ自身もどうしてそれを監視する必要があるのか。監視したからといってなんになるのかまでは考えが及んでいないわけではあるが。
「やめときましょうよ、そういうの。悪趣味っすよ」
そう声が掛かって、二人の首が一斉にそちらを振り向いた。
「……おぉ……」
至極真っ当な意見を口にしたギルドの常識人、エリアスは同時に二人の少女から睨まれて思わず小さく声をあげる。
「ルクスだってたまには休みたいときもあるじゃないですか。自由にさせてあげましょうよ」
「……ぐっ、しかし……」
「まぁ、ベオさんの気持ちもわかりますけどね」
エリアスの言葉はあまりにも正論すぎて、ベオは何も言い返すことができない。
ルクスはこのギルドで一番働いている。それこそ休日も返上している勢いだ。
それがたまの休みに何をしようと、ベオが口を挟むことではない。むしろそれによってルクスがのんびり休めなくなったとしたら、本末転倒だろう。
「あ、アディもそう思いますです」
「お前はどっちの味方だ!」
「ぴっ!」
怒鳴られてアディが引っ込む。
「し、しかしだな……こう、奴等を放っておいてはあれだろう。ギルドの機密とか、そういうあれが……」
「エレナさんがそんなことするわけないでしょ。間違いなくルクスに惚れてるんですから」
「そこが問題なのだ!」
「何が問題なんすか?」
「奴があの胸で、無駄に蓄えた脂肪でルクスを誘惑するかも知れんのだぞ!」
「いや、だから……誘惑して何が悪いんすか?」
「……ぐ、ぬぬ……」
エリアスの表情は半ば笑っている。
ベオがその辺りの事情に素直になれないことがわかっていて、彼は揶揄っているようだった。
「エリアスさん、悪い顔してます」
ぼそりとアディが言うと、エリアスはそれに答える。
「そりゃ、たまには俺だって反撃ぐらいしますって。いっつもやられっぱなし燃やされっぱなしじゃないってことですよ」
「ぐぬぅ……」
一先ず自分の感情を口にすることができないベオは、拳を握り歯噛みすることしかできない。
それを見たエリアスは満足したのか、そこから更に追撃を繰り出そうとしていた。
「それにルクスだって、たまには胸の大きな女の子に癒されたいんじゃないっすか? うちのギルドときたらどっちもまったいらで目の保養にも……」
二人分の鋭い視線が、エリアスに突き刺さる。
先ほどまでは中立を保っていたアディもまた、自身の胸を馬鹿にされたことで完全にベオの側に付いていた。
「……さーて、俺は仕事しに行きますかね」
流石はギルドの斥候。
エリアスは危機を察知するやベオ達が行動するよりも素早く、ギルドの窓から外へと飛び出していく。
これにてエリアス自身の無事は守られたのだが、結局二人を止めることはできなかった。




