最良を望む
戦いの後、夕焼けに染まった人気のない場所で、駆動鎧がオーウェンに頭を下げる。
「……すまない」
「いや、まぁ……なんだ。一緒に仕事する相手はちゃんと選んだ方がいいじゃないかね」
ミラはその肩にディンを担ぎ、見るからに項垂れていた。
何となくその姿がいたたまれなくなって、オーウェンは自分から助け舟を出す。
「……そうは言っても、このご時世だ。仕事を選んでもられないよな。色々、事情があるんだろ?」
「……そうだ」
重々しく、ミラが頷く。
魔王戦役、魔王再誕。
そしてギルド・グシオンの反乱。
それら数多くの事件は、この国アルテウルの暮らしをじわじわと蝕んでいる。日常から弾きだされた力ある者はギルドを組織し、それによって生活を成り立たせるが、そうでなければ取れる選択肢は多くはない。
彼等もまた普通の人々が暮らしていた日々から、何らかの形で飛び出してしまってであろう人種であることは想像に難くなかった。
「わたしは、彼等に従わなければならない。大切な親友のためにも」
「理由は色々あるわな」
「だが、オーウェン殿に刃を向けたのは事実だ。この始末は……」
「いいよ、別に」
懐から煙草を取り出して、魔法石で火をつける。
肺に吸い込んた煙を吐き出しながら、オーウェンはそう言った。
「しかしそれでは……」
「まあ敢えて言うなら、こんな男とはさっさと縁を切った方がいいとは思うがね」
「……う、む」
ミラが煮え切らない返事を返す。
先ほど言ったように、恐らくはそれができない理由もあるのだろう。その辺りを追求するつもりはない。
今のこの国、この時代ではよくあることだ。オーウェンも、そんな人達を数多く見てきた。
彼等を救えるのが英雄だと信じていた時もあったが、それが幻想であることも知っている。
「本来ならそいつは衛兵に突き出したいところではあるんだが」
「……そ、それも……」
「わかってるよ。ただし、起きたらちゃんと言っといてくれよ」
「わかった。約束しよう」
はっきりと、ミラはそう宣言した。
それが信じられるかどうかはわからないが、オーウェンとしてはこの件についてはそれで終わりにしようと決めている。
「……オーウェン殿、貴方は強い」
「急にどうした?」
苦笑しながら聞き返す。
「正直、この駆動鎧を使っても全く相手にならないとは思わなかった。自分に自信がなくなりそうだ」
「いやいや、いい線行ってたと思うぜ」
実際、並みの戦士ならば蹴散らせるだけの力は持っているだろう。オーウェンの実力が並ではなかっただけの話だ。
「それにまぁ、もっと調子を整えたら変わってくるとは思うがね」
視線で、先ほど購入した商品を指し示す。
それらを使って性能を高めれば、或いは今以上の性能を発揮することがあるかも知れない。
「そうだろうか?」
「ああ。それに自分で駆動鎧を作るなんて大したものだ。お前さんみたいなのがもっと増えりゃ、戦争も変わるのかも知れないな」
英雄ではなく、個人の優れた武勇でもない。
強力な武器を持った普通の人間が戦争を制する。そんな時代が来るのかも知れない。
何となくではあるが、オーウェンは目の前で立ち尽くす自分より大きな鎧姿を見てそんなことを想像していた。
――もっとも、次の瞬間にはそうまでしても人々が争っている未来しか予想できない己に対して小さな喝を入れたのだが。
「そう言って貰えると、ありがたい。わたしは弱いが、それでも親友の力になりたくて、できることをやっているんだ」
「……そうか」
何となく、自分のギルドの子供達を思い出す。
ルクスとベオが並び立ち、エリアスとアディがそれに続く。
後者の二人は実力が及ばない、不安定と問題がありつつもルクス達のために自分ができることを日々模索しながら進んでいる。
同じ空気を感じたからだろう。ミラを罰する気が起こらなかったのは。
「それがお前さん達にとって、最良の結果になることを祈ってるよ」
「……ああ!」
くぐもった声に、輝きが灯る。
「これで失礼する、オーウェン殿。……できれば、今度は違った形での手合わせを願いたい。わたしの作ったこの鎧が貴方に通用するかどうか、知りたい」
「そのパーツを組み込んだらどうなるかわからねえからな。まぁ、待ってるよ」
駆動鎧の奥で、弾んだ声がする。
恐らくは笑ってくれたのだろう。ミラは最後に大きくオーウェンに頭を下げてから、気絶したままのディンを担いで広場を後にしていった。
「……やれやれ」
残されたオーウェンは、槍の先端を見る。
綺麗にメンテナンスを終えたばかりの穂先には、新たな傷がついていた。
「俺もあいつみたいに使ってやった方がいいのかね? ま、柄じゃねえか」
そう呟いて、ギルドへと帰還していくのだった。




