路地裏のお店
やってきたのは、ミリオーラの路地裏にある一軒の店だった。店とはいっても、小さな建物の軒先で売り買いをしているだけの、一見すればとてもそうは見えないような場所だ。
相変わらず無駄に大きな駆動鎧で路地裏に入り込むのは苦労し、何とか誰ともすれ違えない状態ではあるが辛うじて移動はできている。
当然店の中に入ることなどできず、店先でオーウェンは店主に声を掛けた。
「おやっさん、いるかい?」
オーウェンの声に応えるように、のっそりと店主が現れる。
白髪に髭を生やした、老人と呼んでもいいぐらいの年齢の男だった。厳めしい顔立ちをしているが、流石に店の前に立っている駆動鎧を見て驚いていた。
「……他の客の迷惑だ」
それでも瞬時にそう言ってのけるだけ、確かな胆力がある。
「他に客なんていないだろうに」
オーウェンがそう言うと、不機嫌そうに鼻を鳴らす。
じろりと睨まれて、鎧の人物は少し後ずさろう。厳密には後ずさろうとして、背後の壁に背中をぶつけて破壊しそうになっていた。
「何の用だ? 流石に駆動鎧の買取はやってねえぞ」
「ああ、ほら。なんだっけ?」
オーウェンが促す。
「アルヴ鋼と、高純度の魔石を……」
「……ふん」
聞こえているのかいないのか、店主は奥へと引っ込んでいく。
「我は何か、奴の気に障ることをしたか?」
「……元々気難しいお人だからな」
実際に駆動鎧でこんな狭い路地裏に入ってくると言う行為自体が相当なものなのだが、流石にそれを指摘するのは憚られた。彼がどんな理由があってこれを着込んでいるのかもまだ知らないのだ。
「しかし、こう言っては何だが我が求める品があるとは思えん店構えだが」
「まー、一見すりゃそうだな。だが、結構な掘り出し物が揃ってみる店でもある」
実はここは、以前ルクスがゴブリンを倒した際の戦利品を買い取ってもらっていた店だった。
その時の恩を忘れたくなかったルクスは、他のギルドの人達にこの店を宣伝し、そこから魔獣殺しが贔屓にする店として噂が独り歩きしたという経緯がある。
そうなれば妙なもので、色々と珍しい品物を売りに来る客が増えた。店主としては不本意だったが来たものを買い取って、それをまた売っている間に珍しい品物が集まる隠れた名店になっていたというわけだった。
のっそりと、店主が後ろから出てくる。
その腕には、鎧の人物が指定した品物が抱えられていた。
「あった!」
「よかったじゃないか」
こくこくと、鎧の人物が頷く。
そのまま商品に手を伸ばそうとして、店の屋根を破壊しそうになっていた。
仕方がないのでその代わりにオーウェンが品物を受け取り、代金を払っておいた。
「坊主は元気か?」
金のやり取りをする際に、店主がそう尋ねてくる。
「元気そうにしてるよ。今度、顔を出すように言っておく」
「別にいい」
ぶっきらぼうにそう言って、店主は店の奥へと引っ込んでいった。
それから二人は路地裏を脱出し、大通りを通って街外れまでやってきていた。
ここまでくれば駆動鎧の行動は制限されないものの、今度は人が多いので非常に目立つ。
「色々と感謝する。おかげでこの駆動鎧の改造も捗りそうだ」
鎧の人物が自身の腕の辺りを数度叩くと、どうやらそこが収納するためのポケットのようになっているようだった。
開いたそこから先ほどオーウェンが払ったのと同じだけのお金を取り出して、大きな手で掴んで差し出してくる。
「どういたしまして。そいつは自分で作ったのかい?」
「ああ! 戦場で捨てられていたジャンク品を集めてな! ……本来ならあまり褒められたことではないのだろうが」
とはいえ、出どころももう不明だろうしまさか返せとも言われまい。実際、駆動鎧に限らず戦場で打ち捨てられた武具を拾って金にするという話は聞かないことではない。
「大したもんだな、自作しちまうなんて」
少なくともオーウェンは、個人で駆動鎧を自作したという話は聞いたことがない。
「そうだろう! こんなことができるのはこの国広しと言えど我と……まぁ、ひょっとしたら他にも何人入るかも知れないが、とにかくそれほど多くはない!」
誇らしげに胸を張る。無骨な鎧ながらその仕草が微笑ましくて、思わずオーウェンの口からも笑みが零れていた。
「これから大きな仕事があるかも知れぬ。だからこそ、少しでも強化をしておきたかったのだ」
「穏やかなじゃないな。ってことはお前さんも何処かのギルドの?」
当然のように繰り出されたオーウェンの質問に対して、鎧の人物は少しばかり言い淀んだ。
「……ん、まぁ、そのようなものだ」
それに付いてあまり詮索するのも野暮というものだろう。オーウェンはそれ以上は何も聞かない。
言葉は悪いが、そもそもこんな平時から駆動鎧を着こんでいる人物が、真っ当なわけがない。
「しかし、本当に今日は助かった! ミリオーラには来たばかりで、右も左もわからなかったもので」
「役に立てたならよかったよ」
鎧の人物はもう少し話したそうにしていたが、仕事が終わった後とはいえオーウェンも何の用事がないわけでもない。
どうやって会話を切り上げたものかと考えていると、背後から男の声がして、二人は同時にその方向へと振り返った。




