デートの約束
「と言うわけでルクスさん! 明日、一緒に出掛けませんか?」
藪から棒にエレナにそんなことを言われたルクスは、サラダを突き刺したフォークを手に持ったまま数秒間固まっていた。
相変わらずの夕立亭。一日の仕事が終わり、夕食を食べに来た席での出来事だ。
現在ここにはルクスと彼の友人でありギルドのメンバー、エリアスの二人だけだった。ここのところ有名になって仕事が忙しく、全員で食事をする機会はあまり多くはない。
目をぱちくりとさせていると、向かいに座ってちょうど口の中のものを飲み込んだエリアスが助け舟を出してくれる。
「あー、ルクスは明日非番だったよな」
「う、うん。そうだけど……」
「はい。その辺りの情報は既にオーウェンさんに確認済みです!」
見せつけるように大きな胸を張り、そこに手を当てて得意げにエレナが宣言する。
青少年達には些か目の毒な光景に、二人は同時に目を逸らした。
じろりと、エレナが目配せをする。
エリアスはすぐにその意図に気が付いて、やや不自然さを滲ませながら口を開いた。
「ま、まぁ、いいんじゃないか? ほら、たまには遊ばないと疲れちまうだろ。この間は大事件を解決したばっかりだしさ」
「それはそうかも知れないけど……。やることは溜まってるし」
「そうやって働き過ぎて、いざという時に倒れてしまったら意味はありませんよ!」
エレナが強い口調でそう言った。
そう言われてみればそんな気がすると、ルクスの心が揺らぐ。
「でも、エレナさんの貴重な休みを使ってもらうのも……」
ルクスのその言葉に、エレナは頭を抱える。ひょっとしたら自分は嫌われているのではないかと思いかけたところで、エリアスが更に援護射撃をした。
「んなわけねーだろ。エレナさんはお前のことが心配なのもあるだろうけど、何より自分も遊びたいから誘ってくれてるんだよ。変な遠慮なんかしないで行ったらいいじゃん」
「そうかな……?」
「そうですよ! わたしが、ルクスさんと一緒にお出かけしたいんです!」
などと大胆な宣言に、騒がしい酒場の一角からも「おぉー」と感動の声が上がる。看板娘だけあって、エレナのことを狙っている客も多いが、同じぐらい彼女の恋路を応援している人達もいる。
それにはエリアスも目を見張っていたが、当のルクスだけはそこに込められた意味にはあまり気が付いていないようだった。
「そういうことなら、お願いします」
にへらと笑って、いつも仕事を頼むときと同じように了承する。
それにはエレナも少しばかり脱力したが、二人の今の関係ならばそのぐらいの対応が妥当だろう。これから深めていけばいいのだと自分に言い聞かせる。
「エリアスさんには、後で何か奢ってあげますね」
「お、ラッキー。……ま、俺も複雑な立場なんだけどね」
「……ベオさんには言わないでくださいね」
「それは約束できないね」
エレナはメニューを取り出して、それをエリアスの前に広げる。
「お好きなものを二つどうぞ」
「へへっ、じゃあ……あ、アディさんにはどうする……いや、冗談だよ冗談」
ぎろりと、先ほどと比べ物にならないぐらいに殺気がこもった目で睨みつけられて、エリアスは調子に乗るのをやめたようだった。
「一つはルクスに譲るよ。何が食いたい?」
「え、あー……」
ルクスとしては二人の間で交わされた内容がよく理解できなかったが、素直に好意に甘えておくことにした。




