5‐16
瓦礫の山から立ち上がってくる人造兵を前に、オーウェンは愛用の槍を構えながらそれを迎え撃つ。
彼の背後ではエリアスとアディも、それぞれ武器を構えたり謎のクラゲのような軟体生物を召喚したりして戦闘態勢を整えていた。
「改めて心強いね、このギルドは」
たった三人での戦いだが、これまで共に戦場を駆けた仲間達と比べても劣らないほどの信頼を寄せることができる。
いいギルドに所属できたものだと自身の幸運を喜びながら、先ほど吹き飛ばした人造兵の一人に視線を合わせた。
「え……?」
最初に声をあげたのは、エリアスだった。斥候として活躍する彼は、付近の状況を把握する能力に長けている。
「う、そ……?」
続いてアディが、そう声を漏らす。そこには明らかな動揺が見て取れて、現に彼女が呼び出した生き物はそれに呼応するように存在が揺らいでる。
「なるほどな。確かにこういうことも、全くあり得ないって話じゃなかったが」
「なんで……!」
立ち上がった人造兵は頭部に衝撃を受けて、その兜が破壊されれいた。
そしてそこから覗いたのは、青い髪、人造兵特有の光彩の瞳。少女と見間違えるような端正な少年の顔。
彼等にとってよく知る、ギルドマスターと同じ顔がそこにあった。
「ル、クス君……?」
アディの声に反応したわけではないだろう。
単に彼女が武器を構えておらず丸腰に見えて倒しやすそうだと判断したのか、ルクスの顔をした人造兵は剣を構えてそちらに突進する。
そしてそれは正しく、動揺したアディは自分の力で身を守ることもできない。
「おっとぉ!」
咄嗟にオーウェンが割って入り、振り下ろされた剣を受け止める。
そのまま人造兵を弾き飛ばし、残りの二人を含めた三人を視界に捉えた。
「考えてみりゃ、そう言うこともあるわな。何せ人造兵だ、連中は同じような顔つきをしていることも多かった」
元々がホムンクルスの技術で生み出された人造兵は、当然だが兵士として利用するために造られた。
そこに容姿の良し悪しは関係なく、成長の過程で多少の差は出ようと基本となる顔立ちは同じようなものが多かった。
違いがあるとすれば、何処の施設で生み出されたかによるものだろう。
で、あれば。今目の前にいるルクスと同じ顔をした人造兵達のように彼と『同郷』の出と相対する可能性も、ゼロではなかった。
「来るぞ! 構えろ!」
オーウェンが叫ぶ。
「構えろって、だからって……!」
「だ、だって、だって! ルクス君が……! ルクス君と同じ……!」
二人は動揺を隠せず、反応が遅れる。
その好機を逃さず飛び込んできた三人の人造兵を、オーウェンの槍がまとめて薙ぎ払い、吹き飛ばした。
「……まぁ、確かに友達と同じ顔をした奴等とは戦いにくいわな。エリアス! アディを連れて下がってな!」
「で、でも……!」
「俺だってお前等がルクスと同じ顔をした奴を躊躇なくやれるような冷血漢だとは思ってねえ! いいから、ここは俺に任せろ!」
「あ、アディを安全なところに連れて行ったらすぐ戻ります! ほら、行くぞ!」
動揺して震えるアディの肩を揺すり、そのまま手を引いて戦場から離れていく。
二人を追おうとした人造兵の前に、オーウェンは槍を構えて立ちはだかった。
「考え方によっちゃ運が良かったな、俺は」
人造兵三人が構える。
どうやら目の前に立つ男を強敵と認めたようだった。
エリアス達を追いかけ、戦力を分散して勝てる相手ではないと。
その辺りの戦術眼と判断の早さもまた、ギルドマスターを彷彿とさせて嫌気がさしてくる。
「入団してから見せ場の一つもなかったからな、俺は。汚れ役とは言えこうやって役に立てるなら、願ったりだ」
同時に攻撃を仕掛けてくる人造兵達の攻撃を器用な槍捌きで防ぎ、弾き、隙を見せた相手に突きを打ち込む。
一体の人造兵の頭部に直撃し、その兜が立ち割れた。
中から出てきたのは、やはり一人目と同じ顔だった。
「さあ来いよガキども。例えお前等が戦うために生み出されたとしても、こちとら何十年と戦場を渡り歩いてるんだ。……年季の違いを見せてやるよ」
挑発に乗るように、一人目が剣を構えながら前進してくる。
残りの二人は左右から、一人目が作った隙を伺うように展開した。
「バラバラじゃ無理だとわかって、連携をしてきたか!」
かつて戦ったルクスと同じような、正面からの踏み込み。
彼が最も得意とする戦い方は、どうやら設計段階でそう刷り込まれたものらしかった。
「だが、遅い!」
あの時、今ほど強くはないルクスと戦った時ですらももっと素早く深い踏み込みだった。
それを捌いて見せたオーウェンに対して、目の前の人造兵はあまりにも力不足。
鋭い突きの一撃が、胸を捉える。
嫌な感触がして、その軽装鎧を貫き槍の先端が少年の胸に突き刺さる。
何が起こったのかも理解できない表情を浮かべながら、一人目の人造兵はだらりと両腕を下ろし、剣を取り落とした。
同時に左右から二人が迫る。
槍を引き抜き構える時間はない。
オーウェンはそのまま槍から手を離し、右から迫る人造兵の正面に大きく踏み出した。
咄嗟の、予想もできなかった動きに面食らい、剣を振り下ろすタイミングが遅れる。
身体ごと体当たりを仕掛け、少年の身体を吹き飛ばす。
そのまま倒れ込むようにして、左から来た人造兵の横薙ぎの斬撃をかわした。
更なる追撃を転がるようにして避けながら、既に事切れている人造兵の手から零れた剣まで移動し、それを拾い上げる。
上からの剣撃を受け止め、辺りに鈍い音が響いた。
倒れた姿勢のまま足払いを掛けるが、人造兵は人間離れした反射神経でそれを飛んで避ける。
「ちっ、当たってくれねえか」
口ではそう言うが、それで問題はない。
必要なのは武器を拾い、立ち上がるだけの時間を稼いだこと。
再び二人の人造兵はオーウェンと対峙するが、その動きには明らかな動揺が見えた。
「おじさん強いだろ? だが、お前さんたちも中々やるよ。普通の人造兵とは思えねえぐらいにはな」
そもそも人造兵とは、数を揃えるものだ。
自我が芽生え幾つかの戦場を渡り歩けば、それなりの技量を持つ者も生まれる。それこそオーウェンのギルドマスターたるルクスのように。
だが、見たところロクに喋れもせずに自我を持たない少年達は生まれてそれほど時間も経っていない。
にも関わらず目の前の少年達の強さは相当なものだった。それに加えて、戦いながらの成長も見られる。
「高級品って言葉だけじゃ片付けられなさそうだ。ウィルフリードの裏にはまだ何かいやがるな」
そもそもにして、人造兵の製作は今は禁止されている。何処かから廃棄寸前の者達を連れてきたとしても、こうも機敏に動けるものだろうか。
ましてやそれが、ルクスと同じ顔をしている。
「偶然とは思えねえが。確かめる手段も時間もねえか」
攻めあぐねる二人に対して、オーウェンが動く。
足元の瓦礫を足で持ち上げ、そのまま顔面目掛けて蹴り飛ばした。
咄嗟のことに反応が遅れる。
「戦場では、こう言うことをしてくる奴もいるってことさ」
剣で瓦礫を払ったのが運の尽きだった。
人造兵の目の前には、既にオーウェンの姿がある。
そのまま心臓部分を袈裟懸けに斬り、絶命させる。
そこを狙って、三人目が襲い掛かる。
オーウェンは剣を引き抜くと同時に、その勢いのまま手を放して人造兵に向けて投げ飛ばした。
突き刺さらなかったものの、人造兵はその剣を胴体に受けて態勢を崩す。
その隙に一人目に刺さったままの槍を引き抜き、大きく踏み込みながらの突きを放つ。
「おっ……?」
三人目は、それを避けて見せた。
しかしオーウェンもすぐさま軌道を修正し、反撃に転じようとした人造兵の手から剣を弾き飛ばす。
向かい合う二人から少し離れたところで、遅れて剣が地面に落ちる音が響いた。
「……ちっ……!」
その時の人造兵の顔に浮かんだ表情を、オーウェンは見逃さなかった。
戸惑いと、死への恐怖。
これまで何度も戦場で見てきたその顔を見て、それでも無慈悲に槍を振るえるほどオーウェン・スティールは冷酷ではない。
瞬間の迷い。
目の前の人造兵にとっては、それだけで充分だった。
先ほどオーウェンがやって見せたように、大きく踏み込んで身体ごと体当たりを仕掛ける。
「ぐっ……!」
転がりながらも隙を見せず、オーウェンは即座に体勢を立て直す。
武器を構えて見据えたその先に、戦っていた相手の姿はない。
離れたところを見れば、背を向けて逃げ去る少年の姿があった。
「……参ったね」
あのまま考える時間もなく、一気に倒してしまえばよかっただろうに。
「あんな顔されたら、そりゃ動きも鈍るってもんだ」
彼等は戦いながら、あらゆるものが急速に成長していた。
咄嗟にオーウェンに体当たりを仕掛けたのも、最初に対峙した時点ではできなかっただろう。間違いなく、オーウェンの戦いを見て覚えたものだ。
その上で仲間の死を見て、同じようになることを恐れた。
その感情の芽生えもまた、あまりにも急速過ぎるものだった。
「ふー……やり切れねえなぁ」
そう言いながら、懐を探る。
残念なことにギルド・グシオンに囚われた際に煙草は全て没収されてしまっていた。




