5‐14
立ちふさがる兵士達を次々と薙ぎ倒しながら、ルクスはノール・オーヴァの大通りを真っ直ぐに突き進んでいた。
最早今のルクスにとって、散発的に襲ってくる亜人達も、残り僅かな戦力となったギルド・グシオンの部隊もそこまで苦戦する相手ではなかった。
その辺りは、クラウスと連携して引き付けたうえで数を減らせたこと、何よりも彼等自身も亜人達の襲撃から身を守らなければならないことが幸いしていた。
瓦礫が積み上がり、破壊されつくした街。
周辺には戦いの跡も目新しく、倒れた死体や負傷者がそのままになっている。
彼等を一人でも救いたいと思うが、それを振り切る。ルクスには今、何よりも優先しなければならないことがある。
「みんな……!」
仲間達を無事を願い、前に進む。
居並ぶ兵士達を倒し、彼等が口々に放つ人造兵への呪詛を聞き流しながら。
迷いなく歩くルクスが足を止めたのは、異様な気配を感じたからだった。
「なん……!」
一瞬、背中をぞわりと撫で上げるような感覚に身震いし、反応が遅れた。
それでも何とか剣を構え、その突撃を防ぐことができたのは、ルクス自身の実力が襲撃者よりも上回っていたからだろう。
剣撃の音が響き、弾かれたその相手がルクスの目の前に着地する。
「……この人達、なんだ……?」
思わずそう口にしたのは、目の前にいる兵士達の異様さが原因だった。
全身に鎧をまとい、その顔まで全てを包み込んだ兜を被った兵士。
その身長はルクスとさほど変わりはなく、鎧で隠されているが体型も他の兵士達に比べて遥かに華奢だった。
勿論、それがあまりにも戦場にとって場違いと言うわけではない。
英雄を始めとして、魔力を纏う者達にとっては身体の大きさ自体がそれほど重要ではない場合も多い。
現にルクスも、少年どころか少女と見間違われるほどの身体つきでありながら、こうして戦場の真ん中を進んでいるのだから。
「……この人は」
敵が動く。
気配は一つではない。
目の前の一人に呼応するように、周囲からも同じ鎧兜を纏った相手が二人、合計三人がルクスに向けて剣を振るってきた。
「くっ……!」
後退しながらその猛撃を捌く。
降りかかる剣撃を弾き、その隙に身体を滑り込ませてくる二人目を蹴り返す。
最後の三人目は回避し切ることができずに、そのまま剣で受け止める羽目になってしまう。
そこにまた、態勢を立て直した二人が襲い掛かってくる。
「このっ……!」
力任せに三人目を押しのけ、多少の傷を覚悟して二人の前に踏み込んでいく。
咄嗟に振るわれた太刀筋がルクスの身体を掠めたが、お構いなしに黒の剣を叩きつける。
当たりは浅く、鎧を傷つけるまでしか至らなかったが、何とか包囲を抜け出して三人と距離を取ることに成功していた。
「……こんなところで手間取っている場合じゃないのに」
戦いの連続で疲労も積み重なってきている。
それでも何とか三人がかりの攻勢をいなせているのは、ルクスと目の前の三人に実力の差があるからだろう。
「……この人達……まさか……!」
自分とそう変わらない背丈。
感情の乗らない戦い方。
ルクスにとって、結論を出すのにはそれほど時間は掛からなかった。
「人造兵……か」
そう呼んでも彼等の動きに揺らぎはない。
ただ剣を構え、ルクスに迫る。
三対一の攻防が再び始まった。
代わる代わる襲い来る攻撃を、次々と捌く。
彼等の剣がルクスに届くことはないが、同時にルクスも彼等に致命傷を与えることはできない。
「君達には悪いけど……!」
同じ人造兵であったとしても、例え他者から見れば同胞と呼ばれるような存在であったとしても。
今のルクスにとって彼等は単なる障害に過ぎない。人のために生み出され、以前のルクスと同じように行き場もなく捨てられるところを拾われたのだろう。
そうしなければ生きていくことができない。
いや、ひょっとしたら彼等はもっと純粋に、そうすることしか許されないような精神制御を受けている可能性すらある。
もし、そうだとしても。
ルクスが目の前の敵に同情をする理由はない。
「君達は……敵だ……!」
一人目を大きく弾き、後退させる。
虚を突かれた二人目の前に立ち、片手に黒い稲妻を発生させた。
「……っ……!」
だが、それはルクスの焦りからの過ちだった。
二人目の人造兵はそのまま突撃をせず、立ち止まって冷静に後退する。
片手を突き出したルクスは盛大に空振りをすることになり、そのまま体勢を崩した。
(やってしまった……!)
これは焦りからくる単純なミスだった。
みんなを早く助けなければと思うあまりに、目の前の敵の実力を見誤った。
残った人造兵の持つ白刃が目の前で光を反射する。
それがルクスに振り下ろされる直前に、飛来した一本の矢が人造兵の兜を直撃する。
声を出さずとも、人造兵の驚愕が伝わってくる。
彼がその方向に顔を向けると、続けて大きく振るわれた槍の一撃が、その兜ごと小柄な身体を瓦礫の山へと吹き飛ばした。
「ルクス! 無事か!」
少し離れたところから、エリアスとその後ろをアディが駆け寄ってきていた。
いつの間にか目の前にはオーウェンが立ち、残った二人の人造兵を槍を構えた姿勢で牽制している。
「エリアス! みんな!」
「ルクス、すまねぇ! ベオさんを助けられなかった!」
「る、ルクス君……大丈夫? あ、アディは全然平気だし健康そのもの……聞いてない? うん、ごめん」
「……みんな無事でよかったよ」
「だが、再会を喜んでいる暇はないだろ?」
オーウェンの一言が、全員の気を引き締める。
「ルクス。ここは俺達に任せて、王宮へ急ぎな。あいつは、ウィルフリードはベオの嬢ちゃんを使って何かをやらかそうとしてやがる」
「……わかりました」
頷き返し、ルクスは脇目も振らず王宮へと駆け出していく。
その背後では、エリアスとオーウェンの攻撃を受けながらなお、まだ戦意を喪失していない人造兵達が戦闘を再開しようとしていた。




