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5-11

 ルクスの姿が王城の方へと消えるのを確認してから、クラウスは深く息を吐いた。

 それまで何とか気合で持たせていたが、クラウスの身体は傷だらけで、魔力も底を尽きかけている。

 或いはこれが、敵を殲滅するような戦い方だったらもう少し楽であっただろう。しかし、クラウスはそれを望まない。

 あくまでも可能な限り、部下の命を優先したうえでのことではあるが、敵兵を殺さずに無力化することを優先的に戦い続けていた。


「クラウス様!」


 ミアが駆け寄ってくる。

 クラウスの隣に立つと、ルクスが走っていた方を不満げに見つめていた。


「部隊の連中は休ませてるな? ここで終わりじゃねえぞ、まだやることは幾らでもあるんだからな」

「は、はい。……あの、クラウス様。彼を行かせてよかったのでしょうか?」

「なんでそう思う?」

「……彼は、ギルドマスターです。言うなればマスター・ウィルフリードと立場が同じ。二人が利害の一致からこちらに牙を剥く可能性もあるでしょう。それに、何よりも事はわたし達騎士団で解決すべきであり……いたっ」


 クラウスは、生真面目な副官の頭を軽く小突く。

 ミアはよろけながらもなんとか体勢を立て直し、抗議の視線を向けてきた。


「話は聞いてただろ。ウィルフリードが奴の部下を捕らえてる。もう既にあいつ等の中で何かしらが決裂してるんだよ」

「で、ですが……!」

「状況はもう、俺達の手を離れた」


 クラウスの言葉を聞いて、ミアが身体を強張らせる。

 その言葉は恐らく、彼女が上官から一番聞きたくなかったものであろう。

 騎士として先頭に立ち、民の敵を払い人々を護る。

 そうあるべきであるとミアは信じ、そのための鍛錬を続けてきた。

 しかし、いざ事が起こってみればどうだろうか。

 彼女の――クラウスの率いる騎士団の力などあまりにも微弱で、こうやった最前線で戦っている振りをしてみたところで何一つ事態を解決できていない。


「思いつめるようなことでもない。こんなことは、幾らでも起こってきた」

「幾らでも……」

「だから英雄が必要で、それでも足りなくなったから今はギルドなんて連中が幅を利かせてるんだ」


 魔王再誕、獣人の反乱。そして今回のウィルフリードの反乱。

 短い間に起こった数多くの事件は、魔王戦役でぼろぼろになった騎士団の無力さを露呈し、その最後に残った僅かな余力さえも奪い去ろうとしているようだった。


「……わたしは……」


 ミアの身体が小さく震えている。

 それが悔しさからくるものであることは、よくわかっていた。

 クラウスもかつて何度も経験してきたことだ。そうやって己の無力さを嘆き、圧倒的な力に憧れ、最終的には自分で何かをすることすらしなくなっていく。

 この国そのものの在り方と言ってもいい。


「今の俺達が行っても、ウィルフリードには勝てん。そもそも奴は、超一流の魔導師だ。それこそ英雄でもなければ止められねえよ」

「……では、わたし達がいる意味は何なのでしょうか? 無力さを晒すだけなのでしょうか……?」

「勘違いするな、馬鹿が」


 再びミアの頭を小突き、頭を掴んで無理矢理向きを変えさせる。

 その先では、避難民を護り、安心させながら安全な陣地を構築しようとしている部下たちの姿があった。

 中には傷ついている者もいるが、それでも何とか仕事を探し、一人でも多くの民を救うために行動している。


「俺達の戦いはまだ終わってねえ。奴がウィルフリードに勝とうが負けようが、やることは幾らでもあるんだ」


 例えどれほど己の無力を思い知らされても、クラウス・イェーガーの心が折れたことはない。

 騎士として民を護る、その信念は折れず曲がらず、今は一人の少年の背を押した。

 果たしてそれがこの国をどう変えていくのか、今は誰も知る由もないことではあるが。


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