5‐1
赤々とした炎が全てを巻き上げながら、空へと舞い上がっていく。
少年は今、地獄に立っている。
放たれた火は彼がこれまで生きていたあらゆるものを飲み込み、瞬く間に崩壊させていった。
それはまるでお伽噺の巨大な竜の咢のようにも見えるほどに、荘厳な赤。
幾つもの死体が折り重なる。
今もなお、遠くでは剣撃の音が響き、誰かの悲鳴が聞こえるたびに一つ一つと消えては、際限なく蘇っていく。
この戦いは、それほど時間が経たずに終結することだろう。
少年は振り返ることなく、それらに背を向けて歩きながらそう予測していた。
もう既に涙は枯れ果てた。
恐怖という感情は麻痺している。
あの時、城の広間に雪崩れ込んできた兵士達によって父と母が殺されてから、呆然としていた数秒の間に、聡い少年は全てを理解してしまっていた。
――もう、この国は終わるのだ。
先祖代々より受け継ぎ、多くの民に愛されたこの国の歴史は今日、終わりを告げた。
少年を生かすために必死になった家臣たちも、ここに来るまでに一人また一人と命を落とした。
彼らが最後に述べたのは、謝罪の言葉だった。果たして何に対してのものなのか、少年には理解できないことだ。
一つの歴史が終わる。
長い歴史、そしてそれらを見届ける神にとってはたったそれだけのことに過ぎないのだろう。
だからこそ彼等はこんな残酷に、そして淡々とそれを実行してしまえるのだ。
少年は忘れない。
父と母が死んだ日を。
自分が生きてきた世界が、為す術なく無慈悲に奪われた今日を。
――そして、神の代行者としてそれを行った男の名と姿を。
「……英雄、アレクシス」
少年の呟きは、炎が轟々と燃え盛る音にかき消えて誰の耳に届くこともない。
こうしてただ一人、歴史の闇の中に消えた国の王子は誰に見つかることもなく、姿を消したのだった。




