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「おやまぁ、奇妙な光景もあったもんだね」
廃墟と化した集落、向かい合う英雄と少年の前に現れたのは白髪に皺が刻まれた老女。
彼女は何より特徴的な、老齢となっても今だ一切光の消えない目を持った女傑である。
その声に反応できたのは、アレクシスだけで、ルクスは既に力尽きて立っているのがやっとの状態だった。
「アレクシス……アルテウルが誇る大英雄がこんなところで弱い者いじめとは、世も末だが……何よりも」
「マスター・エレノア! 危険です」
ギルド・フェンリスのギルドマスター、エレノア・スカーレットの背後から次々と武装した兵隊達がやってくる。
その数は約五十名。彼等は非常に訓練された動きで左右に展開し、前衛の者達は槍や剣を、後衛は銃を構えてアレクシスを包囲した。
「構わないよ。それよりあんたらは倉庫を探しな」
「ですが……」
「何度も言わせるんじゃないよ!」
エレノアの一喝により、兵士達は散り散りになって集落を捜索しに向かっていく。
「やれやれ、気が利かないね。……その小僧があんたをここまで追い詰めたのかい」
「ああ、そうだ」
立ち上がり武器を構えようとするアレクシスを、エレノアは手で制する。
「やめときな。英雄とは言え、半死人に取られるほどアタシの命は安くないつもりだよ。婆が言うのも奇妙な話だがね」
自分の言葉に笑いながら、エレノアは続ける。
「あんたにゃまだやることがあるはずだよ。近々、また大きな事件が起こる。こんなちんけな仕事に駆り出されるってことは、他の英雄達はまだ動けないんだろう?」
「エレノア・スカーレット、貴方は何処まで何を知っている?」
「なにも。何も知らないさ。だからこうしてここに来た。アタシは湿気た面を晒しながら机を囲んでる爺どもとは違うんでね」
エレノアの視線が、ルクスに向けられる。
「英雄計画の小僧か。そいつの身柄はアタシが預かる。もう既に王子様も獣人の避難民もこっちで確保済みだ。もしあんたが老人共から言いつけられた任務を果たそうってんなら、ギルド・フェンリスとやりあうことになる」
「正気か? 俺と敵対すると言うことは、アルテウルに牙を剥くのと同じ意味だ」
「そりゃお互い様さ」
半ば脅しのような言葉を受けても、エレノアは全く怯まない。そればかりか挑発的な笑みを浮かべて、アレクシスを睨みつけていた。
「……獣人達の反乱に加えて、ギルド・フェンリスを敵に回すだけの余力はないか」
「だろうよ。これはもうあんたの一存で決定できる話じゃない」
「どうやらそのようだな」
アレクシスは剣を収める。
「しかし酷い傷だね。……その剣かい?」
エレノアは転がっている黒の剣を見ながら訪ねる。
「どちらもだ。その剣自体も俺達の理外の力で作られているが何よりも、その少年は……強い」
「ふぅん……じゃ、英雄計画は成功したってことでいいのかね?」
「ある意味ではそうかも知れない。だが、それ以上の成果になっていると、俺は思う」
一瞬だけアレクシスがルクスを見る。
英雄が少年に向ける表情は、先程まで戦っていた敵に対してのものとは思えないほどに穏やかだった。
そのやり取りを最後にして、アレクシスは背を向けてその場から立ち去っていく。
英雄を見送ってから、エレノアは思い出したかのようにルクスの下に近付いていく。
「おい、小僧! 生きてるかい?」
「……貴方は……?」
「意識はあるみたいだね。アタシは敵じゃないよ、味方ってわけでもないが」
そこまで言ったところでルクスは限界が来たのか、その場に倒れ込んでしまう。
エレノアは作業をしていた兵士に向けて手を上げて、呼びつける。
「おい! 誰かこいつを運んでやれ! 傷の手当てもな!」
呼び止められた兵士は慌ててルクスに駆け寄り、もう一人を待ってから二人がかりで慎重に小柄な少年を運んでいく。
「マスター・エレノア」
「なんだい?」
次にやってきたのは、集落の調査をさせていた兵士だった。
「予想通りです。倉庫には幾つかの武器が残っていました。我々が横流ししたものとは別の出所のものも多数」
「人聞きが悪いね、寄付したっていいな」
「はっ。ギルド・フェンリスから寄付されたものと、それとは別に同世代に制作されていたであろう武器や防具が発見されました」
「見立ては?」
「数年前にギルド・グシオンで標準使用されていたものに酷似しています。かなり大量に生産されていたものですので、工房を当たれば特定も可能かと」
「そこまでする必要はないよ。殆ど裏は取れた。待たせてる獣人と王子様が可哀想だ、撤退してあったかいもんでも食わせてやろうじゃないか」
「了解しました」
敬礼して、兵士はその場から去っていく。声を上げて集落に散った者達を集め、あっという間に整列させ撤収の準備を整えていた。
その様子を一瞥してから、エレノアはアレクシスが消えていった森の奥へと視線をやる。
「……さて、ウィルの小僧……もう動くのかい。思ったよりも早いが、どうなるかね」
そう呟くエレノアの口には、楽しげな笑みが浮かんでいた。




