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4‐18

 レンツォの言葉は嘘ではなかった。

 ルクスが倉庫に立ち入ったという事実は外に漏れることはなく、そればかりかルクスの頼みを聞いてカーティスに対しての食事を改善してくれた。

 どうやら彼が比較的穏健に事が進めばいいと考えているとは事実のようだった。

 そしてルクスは今日も、エルマと共に彼等の仕事を手伝っている。

 食料や雑貨などを、集落の中のある建物に運び込む。


「随分大荷物だね。こんなに大家族が?」


 両手に木箱を抱えながら、隣で同じように箱を持つエルマに質問する。

 道の先にあるのは、十人以上がまとめて寝泊まりできるようなほどの大きな建物だった。


「家族って言えば家族かな……あそこの建物は親を失った子供とか、旦那さんが死んじゃった女の人とかが寄り添って生活してるんだ」


 低い柵の門を抜けて、建物の前に立つ。

 一度エルマが箱を下ろしてから扉をノックすると中からは複数人の子供の声が聞こえてきた。


「エルマ!」

「おぉっと! ……急に飛びつくなって、いっつも言ってるだろ」


 中から出てきたのは獣人の少年や少女達で、どうやらエルマに懐いているようで、その顔を見ると笑顔でじゃれつき始める。

 そこから少し遅れて、妙齢の女性が顔を出した。


「ほら、貴方達。エルマに迷惑かけちゃ駄目でしょう」

「大丈夫だって。今日は他にも働き手がいるしね」


 片目を閉じて、ルクスの方を見る。

 ルクスはそれを受けて、自分とエルマが持っていた箱を重ねて持ち上げて、女性に尋ねた。


「何処に運びますか?」

「こっちにお願いします」


 先導されて建物の中に入っていくのはルクスだけで、エルマは庭で子供達と遊んであげるようだった。

 建物の中では彼女の他にも何人かの女性が、裁縫や保存食の調理、他にも武器の手入れなどを行っていた。


「戦争が始まりますから、わたし達にできることをしているんです」


 その光景に一瞬立ち止まったルクスに、彼女はそう言った。


「そこにお願いします」


 指さされた場所に、ルクスは箱を下ろす。

 手が空いている何人かの女性がそれを開封して、中に入っている物資を分けて運び始めた。


「……怖くないですか?」


 ふと、そんなことをルクスは訪ねてしまう。


「恐ろしいですね」


 淡々と、その女性は答える。

 何処か疲れたような曇りがちな表情は、彼女の年齢をより老けて見えさせているような気がする。


「でも、このまま何もしなくてはまた奪われますから」


 女性が視線を下に降ろす。

 ふと見てみれば、作業している女性達に交じって手伝いをしている一人の女の子の姿があった。

 額の中心で分けた金色の長い髪に、長い耳。まだ年端もいかない彼女は、ここにいる誰とも血が繋がっていないであろう、エルフだった。

 この集落にいる大半は獣人で構成されている。一応エルフも何人かは見受けられたが、その数は非常に少ない。そんな大人のエルフの家ではなくここにいることを考えると、彼女もまた孤児なのだろう。


「あの子の両親は人間に殺されました。……わたし達の夫や子供と同じように。ある貴族が娯楽として亜人狩りをして楽しんだ結果だそうです」

「……そんなことが」

「人間達の法でそれが禁じられているというのも知っています。でも、それを行った貴族は有力者で、罪には問われなかったそうです」


 戦争でも、労働でもない楽しみのための蹂躙による死。

 果たしてここに暮らしている人達はそこまでの仕打ちを受けなければならないものなのか。

 魔王戦役でほんの一部が人間に反抗しただけで、ここまで種全体として迫害を受けなければならないのだろうか。

 大きな足音がして、外からエルマが駆けこんできた。


「あ、ここにいた、クラーラ!」


 クラーラと呼ばれたエルフの少女は、エルマの声にその小動物のような身体を大きく震わせた。


「一緒に遊ばなくていいのか?」


 目線を合わせて、エルマがそう尋ねる。

 しかしクラーラは首を横に振って、女性達の方へと小走りに逃げて行ってしまった。


「やっぱり駄目かぁ」

「ごめんね、エルマ。やっぱりまだクラーラは……」

「そっか。仕方ないな……クラーラ、あたし達外にいるから、混ざりたくなったらいつでもおいで」


 それだけ伝えて、再びエルマは外へと出ていった。


「エルマがここにきてから随分と助かっています。あの子が来るまでは子供達も何処か暗く、元気がなかったものですから」


 女性の話を聞いていると、ルクスは視線を感じてその方向を見る。

 働く女性達を見ていたクラーラは、何故かルクスのことをじっと見上げていた。


「どうしたの?」

「綺麗な目」


 クラーラは一言だけ、呟いた。

 ルクスの瞳を、彩色を宿す忌むべき証を見つめながら。

 ルクスは屈みこみ、クラーラの頭に手を乗せる。


「ありがとう」


 軽く撫でながら、少女の純粋な言葉にお礼を言った。

 どうやらクラーラはルクスの瞳が余程気に入ったようで、彼女の視線は一向にずれることはない。


「よかったら、少しクラーラと一緒にいてもらえますか? その子が人に懐くのは、初めてなので」

「い、いいですけど」


 どうせエルマも外で遊んでいるし、ルクスはやることがない。

 とは言ってもクラーラも別にルクスとお喋りがしたいわけではなく、その瞳をじっと見ていたいだけのようだった。

 少しの間彼女の視線攻撃に晒されていると、外から何やら揉め事のような、男女の諍いの声が響いてきた。

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